76階層突破戦
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──76階層突破戦
久隆は76階層に降りると同時に偵察を始める。
「ふむ。同じ20体のリザードマン。だが、今回は10体と10体の大きな群れだ」
久隆は索敵結果を述べる。
「どうするの?」
「隠密は無理だな。正面から相手にするしかない。いけるか?」
「もちろんなの!」
レヴィアが頷く。
「では、戦訓を忘れるな。迅速な排除によって挟撃を避ける。今回は敵も10体と大規模だ。迅速な殲滅を行うために全員が死力を尽くさなければならない」
「了解です」
「では、行こう」
久隆たちは群れのひとつに向かう。
「武器はハルバード。腕力がミノタウロス並みだということを考えると面倒だ」
リザードマンは攻撃にも秀でている。久隆が一撃を浴びる前に撃破しているのはそういうことである。
「10体を相手にするのはモンスターハウスの前哨戦のようなものだな……」
モンスターハウスでは10体どころではない数のリザードマンを相手にすることになるだろう。そのとき、久隆たちはその死地を戦い抜けるのか。それがこの76階層で試されることになる。
「3カウントで突撃する。それぞれ戦闘準備」
「分かったの」
レヴィアたちが攻撃準備に入る。
「3カウント」
3──2──1──。
「今だ」
「『我が敵の守りを蝕み、錆びつかせよ!』」
フルフルが最初の攻撃を叩き込む。
付呪によってリザードマンの鱗が劣化するのはまさしく攻撃だ。
攻撃を受けたリザードマンたちが反転し、ダンジョンの侵入者を始末しようと突撃して来る。ハルバードを構え、久隆たちに突っ込んでくる。
「『降り注げ、氷の槍!』」
「『爆散せよ、炎の花!』」
そんなリザードマンたちにレヴィアとマルコシアが魔法を行使する。
氷の槍は冷気でリザードマンの動きを鈍くし、そして打撃を与える。降り注いだ氷の槍はリザードマン10体中8体に打撃を与え、うち4体を屠った。マルコシアの魔法もリザードマン1体を一時的な戦闘不能に追い込んだ。
リザードマンの陣形が崩れ、混乱が広がる。
そこに久隆たちが斬り込む。
後はいつも通りだ。久隆が斧を振るい、フォルネウスが短剣を突き出し、サクラが敵を射抜く。混乱する敵を片付けるのに、3分かかった。
「後方から来るぞ! 陣形転換!」
辛うじて間に合った。挟撃される前にリザードマンの群れを殲滅した。
だが、本当に辛うじてであった。リザードマンは久隆たちが陣形を変えたと同時に交戦状態に突入した。リザードマンは先手を取り、ハルバードを振り下ろす。
久隆はそれを受け止めた。ずっしりとした打撃が伝わる。まるでカラシニコフの7.62ミリ弾を叩き込まれたような重さだ。やはりリザードマンと正面切って戦うのはリスクが多いと久隆は判断した。そうそう何度もこんな打撃は受け止められない。
「フルフル! レヴィア! マルコシア!」
「はい!」
フルフルが付呪をかけ、リザードマンの鱗を劣化させる。
「久隆! 距離を取るの! その位置じゃ巻き込まれるの!」
「了解! サクラはフォルネウスの離脱を支援しろ!」
久隆はリザードマンの頭を叩き潰すと、距離を取る。サクラもリザードマンの心臓を射抜き、フォルネウスがその隙に下がる。
「いくの!」
「はい!」
そして、レヴィアとマルコシアの魔法が加えられた。
氷の槍が降り注ぎ、次いでリザードマンの顔面が吹き飛ばされる。
リザードマン残り8体中7体が打撃を受けた。うち5体は死亡。
こうなると久隆たちの仕事は楽だ。
残敵を悠々と掃討する。もちろん、残敵掃討と言えどリスクは常にある。リザードマンの打撃が凄まじいのは前述したとおりだし、リザードマンの鱗は劣化していてもそれなりの硬さを維持している。
油断すれば死ぬのが戦場だ。それであってダンジョンとは戦場だ。
久隆たちは最後の1体まで油断せずに仕留める。
油断の代償を死をもってして支払うつもりはない。そんなことをする気はない。だから、油断はしない。決して油断せず、完全に皆殺しにする。
久隆たちは20体の群れを掃討後、ダンジョン内をくまなく索敵し、76階層の敵が完全に掃討されたことを確認した。
「クリア。76階層は片付いた」
「ふいーっ。ギリギリだったのね」
「ああ。だが、次の77階層ではもっと大規模な戦闘になるぞ」
77階層──モンスターハウスでは、ここにいたリザードマンの比ではない規模の魔物が出没することは確実だ。76階層で20体なのだから、77階層では一体どれほどの規模になるのか。今から想像するだけで寒気がする話であった。
「全員、魔力と体調はどうだ? 疲弊したりしないか?」
「まだまだいけます!」
久隆が尋ねるのにマルコシアが片手を上げた。
「念のために休憩しておくべきではないでしょうか? 77階層で戦闘中に倒れては足手まといになりますし、久隆さんの戦闘計画にも影響します」
「そうだな。コンディションは万全の状態で挑みたい。休憩だ」
久隆はマットを敷いて休憩の支度をする。
「ちょっとお腹空いたの」
「そうか。腹にたまるものはあまり持ってきていないが……。一応おにぎりがある。食べるか?」
「食べるの!」
久隆は万が一の場合──以前のように突如としてべつの階層に飛ばされる可能性を考えて、災害非常食数食分と軽食を運んでいた。今回はそういうトラブルはなさそうだし、それに加えて時間が経つと痛むので早めに食べてしまっておきたかった。
「そう言えばダンジョン内は涼しいな。空気が澱んでいない」
「ダンジョンは魔力の流れとともに空気も流れますから。それにダンジョン内部は外界とは隔絶した空間になっています。恐らくこのダンジョンの入り口以外からダンジョンにアクセスすることは不可能でしょう」
「ふむ。一種の異常空間って奴か?」
SFなどではさまざな異常空間が現れる。完全な空想の産物から、物理学的にあり得るものまで。しかし、ゴブリンやミノタウロスが出没するダンジョンが異常空間だと言われてもあまりピンと来ない。
しかしながら、ここが外界と隔絶しているだろうことは事実だ。グリフォンとヒポグリフがいたような階層が圧縮され、通常の階層と同じようになっても、地響きのひとつもしなかった。
ここは間違いなく、異常空間なのだろう。
「ダンジョンはそちらの世界ではしょっちゅう発生するものなのか?」
「それなりの頻度では。このような超深度ダンジョンが生まれるのは稀ですが、10階層程度の低深度ダンジョンならば1か月に1回の頻度で生まれます」
「そして、それが国家の収入源になっている、と」
「ええ。ヴェンディダードは表向きは外交的に孤立していることになっています。ですが、金があれば求めるものありという具合にヴェンディダードと密かに取引している人間の国家もあるのです。そのための金貨でもあります。ですが、私はそういうこそこそとした人間たちは嫌いです。交渉が決裂すると土産代わりに村落を襲って奴隷として魔族を攫って行く連中もいるのですから……」
フルフルは苦々しい表情でそう語った。
フルフルはそういう連中に家族を殺されたのだ。
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