ステルス
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──ステルス
「チョコレート、いるか?」
「いる!」
久隆は疲労回復用に持ってきたチョコレートをレヴィアたちに配る。
「リザードマンはもう対策できるな。魔法万歳だ。油断はできないところもあるが、今の調子で行けば76階層までは無理なく進めるだろう」
「問題はモンスターハウス、ですね……」
久隆が告げるのにフルフルがそう付け加えた。
「まあ、モンスターハウスはどの階層でも厄介だった。今回も例にもれず、面倒だろう。それでも77階層を突破しなければ、80階層までの道は切り開けない」
久隆はチョコレートを齧ってそう告げた。
「レヴィアの魔法で一撃なの!」
「ああ。お前の魔法は頼もしい。だが、魔力の量にも限りがあるだろう? リキャストタイムもある。魔法は強いが頼りすぎるわけにはいかない。もちろん、有用な戦力として活用はさせてもらうが」
魔法は強力な反面、管理が難しい能力だ。これが自動小銃や機関銃ならば、弾が切れる限り使えると分かるものだが、魔法の弾切れの仕組みは厄介だ。魔力回復ポーションがあっても、使いすぎれば魔力量の乱高下によって使用不能になる。
そして、今の久隆たちには魔法使いは4名。うち1名は魔法使いだが、前衛であり、本格的な魔法が使えるわけではない。そして1名は代わりが効かない。
いや、代わりが効かないのは全員かと久隆は思う。まるで装備がバラバラの非正規部隊を指揮している気分だ。弾の口径も、役割も、精密さも異なる。それでいて、それぞれがそのひとつの装備に専門的で銃を交換することもできない。
全く以て軍隊らしからぬことだ。軍隊では専門的な装備を扱う兵士がいれども、最低限自動小銃の射撃は行えるように誰もが訓練されているのだがと久隆は思う。
しかし、久隆は自分に言い聞かせる。彼女らは軍隊ではない。軍人は久隆、フォルネウスとサクラだけで、残りは軍人ではないのだ。
だから、仕方がないのだと言い聞かせる。文句を言うな。与えられた手札で勝負しろ。それが指揮官の役割だ、と。
実際のところ、前線指揮官の望むものが全て揃う戦場など少ない。いや、前線指揮官だけではなく、より上位の指揮官の求めるものが手に入らないこともある。純粋な軍事的問題、あるいは政治的問題によって。
自分に与えられた手札を駆使して戦うことが指揮官たちには求められる。もちろん、致命的に足りなければそう申告するべきだろう。致命的な戦力不足で作戦を決行して、大惨事になったことは少なくない。
もっとも、その申告が受け止められるかはその軍隊次第だ。政治的な問題から大規模な兵力が動員できないというのはよくあるものだし、別の戦線に兵力を取られて兵士が揃わないということもある。申告そのものが怠惰の証として受け止められる可能性もなきにしもあらずだ。
今の久隆も政治的な問題から、軍隊らしい軍隊を動員できない。民間軍事企業を雇って、日本国内における“ダンジョン”を攻略するというのは政治的に不可能だ。人目を引きすぎるし、絶対に軍部が介入する。
「このまま77階層までは辿り着きたいところだが、いけそうか?」
「大丈夫なの。77階層と言わず、80階層まで攻略してしまうの!」
「それは無理だ。エリアボスは飛び切り面倒な相手のようだからな」
エリアボス、ワイバーン。
それがどれほどのものか、久隆たちはまだ把握すらしていない。久隆の中には一応の戦闘計画があったものの、それが実行できるかは不明だった。
「さて、そろそろ出発するか。75階層を攻略すれば77階層までは1階層。気合を入れていくぞ。もちろん、体調に心配があるなら一回引き上げてもいい」
「大丈夫です。頑張りましょう」
久隆が告げるのにフルフルがそう返した。
そして、久隆たちはマットなどを畳み、バックパックに収め、75階層に進んだ。
75階層に降りてすぐに久隆が索敵を始める。
「リザードマン20体。4体のグループが5つ。面倒だな……」
久隆としては大規模な戦力を一度に真正面から相手にするのが望ましかった。魔物は迂回して後方を攻撃しようとしたりはしない。真正面から相手にすれば、真正面から向かってくる。そうすればレヴィアの魔法も最大限に活かせるし、どうせ大量の魔物でも狭いダンジョン内では一度に相手にする数は限られている。
だが、久隆のそのような望みを無視して、リザードマンたちは方々に散っていた。
「しかし、これだけ少数ならば……」
久隆は少し考える。
「サクラ。隠密で仕留めることは可能だと思うか?」
「難しいところです。私のコンパウンドボウは連射ができませんから」
「いや。サクラは1体、仕留めてくれればいい。残り3体は俺がやる」
「大丈夫ですか?」
「分からん。だが、72階層、71階層では上手くいった」
72階層と71階層ではリザードマン3体程度を相手に隠密を維持できた。
だが、今回も上手くいく保証はどこにもない。
「やれるだけやってみましょう。レヴィアちゃんたちの負担が減ります」
「そうだな。やってみよう。失敗したら即座に切り替えていく」
久隆たちはそう決意した。
まずは無人地上車両で偵察を行う。
「敵の武装は長剣のみ。いけるか……」
下手に盾など持たれていたら、不意打ちに失敗する恐れがあった。
「先導する。音を立てずについて来てくれ」
「了解」
久隆たちはリザードマンの群れのひとつに迫る。
そして、丁度久隆たちに無防備な背中を晒しているリザードマンを発見した。
「3カウントで仕掛ける。サクラは右手手前のリザードマンを狙ってくれ」
久隆はそう指示を出し、斧を握りしめる。
3──2──1──。
久隆が前に出てサクラも前に出る。
久隆が一番手前の左手のリザードマンに向けて斧を振り下ろしたと同時にサクラがコンパウンドボウでリザードマンを狙撃した。リザードマンの頭が叩き割られるのと、その横で鱗を貫通しながら、コンパウドボウの矢がリザードマンの頭を貫く。
久隆は即座に3体目のリザードマンに挑む。リザードマンたちは混乱していて、攻撃も防御もできていない。そこに久隆の攻撃が叩き込まれる。
久隆の攻撃がリザードマンの首を刎ね、リザードマンの頭を叩き潰す。
「よし。気づかれていない。敵はこちらの侵入に気づいていない」
久隆は即座に索敵を行い、そう宣言した。
「この調子で行きましょう」
「ああ。この調子で行こう」
久隆とサクラは頷き、次の群れを攻撃しに向かう。
次の群れでもやり方は同じだった。
久隆の攻撃と同時に行われる狙撃。そして、殲滅。
久隆の動きはどこまでも素早く、そして攻撃は強力だった。
リザードマンは次々に倒され、群れは数を減らしていく。
最後の群れになったときも、リザードマンたちが何が起きているのか把握できていなかった。ただただ、盲目的にパトロールを続けているだけであった。
その背後から襲い掛かり、一気に群れを殲滅する久隆たち。
この75階層での殲滅戦は完全な隠密状態で成功した。
「なんとかやれたな……」
「レヴィアたちも活躍したかったの!」
「分かっている。すまんな。だが、こうして魔力を温存できれば、77階層での戦いも安心して挑めるだろう? 77階層で隠密は無理だ。モンスターハウスで隠密は難しいというよりも不可能だ」
レヴィアが頬を膨らませるのに久隆がそう返した。
「それはそうなのね。だけれど、レヴィアたちのことも活用してほしいの?」
「ああ。分かっている。言われなくとも活用しなければ生き残れる戦いじゃない」
レヴィアたちの強力な魔法がなければ、5体、6体のリザードマンを一斉に相手にするのは難しいだろう。いくら久隆が強力でも、久隆はひとりしかいないのだ。
「さあ、次に進むぞ。76階層だ。気を抜くな」
久隆たちは76階層へと降りる。
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