リザードマン戦の反省
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──リザードマン戦の反省
久隆は再び一気にリザードマンまでの距離を詰める。
リザードマンたちが負傷して混乱しているうちに叩き切る算段だ。
1体目のリザードマンは頭を潰す。2体目は首を刎ねる。
「はあああっ!」
フォルネウスも奮戦していた。
リザードマンを相手に果敢に戦い、1体を仕留めた。
「速度重視で行くぞ! 挟撃されたら流石に不味い!」
「了解!」
サクラも積極的に攻撃に加わる。フォルネウスを援護し、ときに単独でリザードマンを屠る。今のサクラのコンパウンドボウの威力は対物ライフル並みだ。強力な狙撃銃の援護が受けられるのは久隆たちに取ってはありがたい。
「ラスト!」
久隆が最後のリザードマンの頭を叩き潰した。
「次! 後方から迫ってきている! 陣形転換!」
久隆たちとレヴィアたちが素早く相互の位置を転換し、後方からの敵に備える。
リザードマンの群れが押し寄せ、久隆たちと対峙する。
「『我が敵の守りを蝕み、錆びつかせよ!』」
再びフルフルが付呪を放つ。
「『降り注げ、氷の槍!』」
「『爆散せよ、炎の花!』」
やはりレヴィアの魔法は効果が高い。リザードマンたちは動きが鈍くなり、同時に重傷を負う。マルコシアの魔法も敵を攪乱するという意味では役立っているが、直接打撃が行えるレヴィアの魔法は大活躍だ。
そして、久隆とフォルネウスが前に出る。
サクラの援護射撃でリザードマンが撃ち抜かれる。その隙にフォルネウスが混乱するリザードマンに挑んだ。短剣を振りかざし、確実に急所を突く。リザードマンの眼球を狙って突き出された短剣の刃がリザードマンを仕留める。
久隆も暴れていた。
斧で頭を潰し、首を刎ね、腕を叩き切り、奪った長剣で心臓を貫く。
73階層のリザードマンが壊滅したのは戦闘開始から20分後のことだった。
「クリア。この階層に敵はいない」
久隆が最後に73階層を見て回り、そう宣言した。
「ふいーっ! 大勝利なの!」
「案外行けますね」
レヴィアたちが安堵の息を漏らす。
「よし。戦えるということは分かった。俺たちはリザードマンを相手にちゃんと戦える。勝利できる。だが、ちょっとばかり危なっかしいところもあったな」
久隆はそう告げる。
「リザードマンの移動速度はミノタウロスのそれよりも速い。こちらも向こうの速度に合わせなければ、挟撃されることになるだろう。実際、さっきは危うく挟撃されるところだった。もっともっと速度を上げていかなければならない」
リザードマンはその装甲のような鱗にもかかわらず、移動速度はミノタウロスを上回っている。久隆たちも先ほどはギリギリのところで挟撃されるのを防いだところだ。
リザードマンに挟撃された場合、不味いことになる。レヴィアたちは狙いをどちらかに定めなければならないが、レヴィアたちの魔法が叩き込まれなかった方は、万全の状態のリザードマンを相手にすることになる。
久隆たちが今回、スムーズに戦えたのはひとえにレヴィアたちの魔法のおかげである。それがなければかなりの苦戦を強いられただろう。久隆も同時に5体、6体の無傷のリザードマンの相手をするのは難しいと思われた。
「レヴィアとフルフル、マルコシアは挟撃に備えて即座に魔法を叩き込んでくれ。挟撃されても、反撃に転じられるように。魔力の消耗はきついだろうから、体力に不安を感じたら報告してくれていい。休ませるなりなんなりの処置は講じるつもりだ」
こう言っておかなければ、レヴィアはともかく、フルフルとマルコシアは疲労を隠そうとする可能性があった。彼女たちは一刻も早く、もっと地下に潜り、べリアを救出し、ダンジョンコアを制御して元の世界に戻ることを、皆を助けることを望んでいるのだ。
その気持ちは分かるが、焦りすぎて躓いては余計なタイムロスだ。適切な休憩と補給を行いながら戦わなければ、勝利は望みようもない。
「挟撃されないように俺の方でも最善を尽くすが、挟撃された場合は覚悟してくれ。フォルネウスはサクラとともに後方に回り、サクラの援護を受けて戦え。サクラは全面的にフォルネウスを支援。フォルネウスも後ろからの支援を受けて、上手く戦え」
「了解」
フォルネウスとサクラが頷く。
「ともあれ、リザードマンを相手にしても戦えるということは分かった。大きな一歩だ。リザードマンを相手にするには氷属性の魔法を使えるものと、できれば付呪で防御を劣化させられるものがいればいい。残りはその2名を援護することだ」
久隆はリザードマン対策マニュアルの作成のための情報集めもしなければならない。久隆たちが80階層に到達し、パイモン砦が80階層に移ったら、魔族たちはリザードマンの掃討を行わなければならないのだから。
いつも通り、レラジェたち偵察部隊が道を照らし、久隆たちがその道を切り開く。そして、後続の魔族たちが往復を可能にする。
「リザードマン戦はレヴィアとフルフルを中心に行う。2名は戦いの勝敗を決めるものだと思って、用心して戦ってくれ。俺たちが全面的に援護するので、その意味では安心していいが、魔力の損耗から来る疲労などには要注意だ」
「分かったの。しっかり疲れたら疲れたって早めに言うのね」
「そうだ。それでいい」
レヴィアは心配いらない。ちゃんと報告するだろうという確信がある。
レヴィアはある意味では分かっているのだ。この魔族の中でもっとも地位の高い自分が休憩をとらなければ、他の人間が休憩しにくいことに。上司が率先して退社しなければ、部下が帰りにくいことと似ている。
軍隊では上官である士官たちは休むことを隠さなければならない。士官がたるんでいると部下までたるむという問題からだ。
だが、士官は兵士たちを酷使するわけではない。むしろ、部下のコンディションは常に気にする。海軍でも上官たちは部下のコンディションに注意し、食事や休憩の命令を下していた。軍隊では休憩も命令であり、休憩することは義務なのだ。そうしなければ、疲労した部下を率いて戦うという、ぞっとすることになってしまうことを部下も士官も理解しているのである。
久隆たちの場合は変則的な指揮系統が影響している。権力的にはトップであるはずの魔王であるレヴィアが久隆の指揮下に入り、戦っている。そのため、休憩を取らせるにはレヴィアにも休んでもらう必要があった。
そのことをレヴィアは理解しているのだろう。
「いいか。コンディションの不調は敗北に繋がる。俺も積極的に休憩を取らせるから、しっかりと休んでくれ。とりあえず、今は大丈夫だな?」
「大丈夫です!」
マルコシアが元気よく告げる。
「では、74階層だ。焦る必要はない。着実に前進していこう」
焦りは敗北の原因となる。指揮官たるものどっしりと構えていなければならない。指揮官が余裕ある態度ならば、部下もそこまで焦らない。
上官とは責任ある立場であり、部下の指標となる人物だ。
久隆は士官として海軍特別陸戦隊で戦ってきた。こういうことには慣れているつもりだ。しかし、フルフルの件で海軍時代のようにはいかないことを理解した。彼女たちはあくまで宮廷魔術師。軍人ではないということを。
それでも久隆は対応しようとしている。信頼に足る指揮官になるために。
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