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コンタクト、リザードマン

……………………


 ──コンタクト、リザードマン



 久隆によって殲滅された72階層を潜って、73階層に降りる。


「リザードマン15体」


 久隆は降りてすぐに索敵を行った。


「まずは偵察からだ」


 久隆は無人地上車両(UGV)を展開させる。


「久隆はここを通ってきたの?」


「ああ。だが、あの時は逃げるのに必死でよく覚えていない」


 久隆は確かに71階層以降から這い上がってきたが、その途中のことはあまりにも慌ただしくて覚えていない。息を殺し、敵をやり過ごし、必死に上層をラルとともに目指したことだけが記憶に残っている。


 敵の数は71階層と72階層の時点では少なかった。だから、そこでは戦えた。それ以降はどう考えても交戦は無謀だったし、どうあっても隠密行動(ステルス)が求められた。久隆は訓練された軍人であり、そのような経験がないわけでもない。


 だが、あの時は落ち着いてなどいられなかった。自分ひとりだけならばもっとどうにかなったかもしれないが、あの時はラルがいた。守らなければならない対象を抱えて、敵地の中を音もなく進むというのは並大抵のことではない。


「いたぞ。これがリザードマンだ。武器は長剣」


「リザードマンとは初めて戦うことになりますね……。書物ではどのようなものか、学んできたつもりですが」


 久隆がタブレット端末の画面を見せるのに、フォルネウスがそう呟く。


「落ち着いてやればどうにかなる。やってみせよう」


 久隆はそう告げてダンジョン内を無人地上車両(UGV)の偵察の下で、大きく群れたリザードマンを避け、少数の群れに向けて慎重に進んでいく。


 久隆が最初の目標に少数のリザードマンを選んだのは、まずはこの捜索班でのリザードマン戦におけるパフォーマンスを確認したかったからだ。全てが予定通りに進むのか。それとも予期せぬ困難が生じるのか。


 しかし、それは久隆の理性的な心の判断で、彼のもっと深層にある心理はリザードマンの大群との戦闘を避けたがっていた。それはラルと一緒にこのリザードマンの巣窟を探索したときに感じた不安を今でも心に刻んでいるからに他ならない。


 敵と戦わず、逃げ続けたときの記憶は今でも鮮明だ。足音に耳を凝らし、無人地上車両(UGV)で道を探り、とにかくリザードマンから逃げ続けた記憶は久隆の深層心理に刻まれている。


 もちろん、彼はリザードマンよりも凶悪な敵と戦ってきた経験がある。対空機銃をマウントしたテクニカルに自動小銃と手榴弾で挑んだときだって、リザードマンと戦った時と同じかそれ以上に危険であった。


 ただ、今は安心できる材料が欲しいだけだ。この捜索班がリザードマンを相手にしっかりと戦えることを証明し、心の中の奥底に眠る原始的な恐怖を克服しなければならなかった。久隆も恐怖はするのだ。誰でも恐怖はするのだ。


 だが、恐怖で動けなくなったり、戦えなくなったりはしない。久隆はこれまで乗り越えてきたのだ。苛烈な戦場を。過酷な試練を。


「まもなく接敵。フルフル、付呪の準備を」


「分かりました」


 無人地上車両(UGV)を回収し、久隆たちが戦闘準備を整える。


「最初は4体から……。まずはフルフルが付呪、それからいつも通りレヴィアとマルコシアが魔法を叩き込む。それから俺とフォルネウスが斬り込む。サクラは突撃を支援してくれ。いいな?」


「了解なの」


 全員が頷く。


「では3カウントだ」


 全員が戦闘態勢を整え、3秒のカウントが始まる。


 3──2──1──。


「フルフル!」


「『我が敵の守りを蝕み、錆びつかせよ!』」


 フルフルの詠唱にリザードマンたちが一斉に久隆たちの方向を向く。


「レヴィア、マルコシア! 叩き込め!」


 久隆とフォルネウスが前面に出て、レヴィアたちがそれに続く。


「『降り注げ、氷の槍!』」


「『爆散せよ、炎の花!』」


 レヴィアの氷の槍はリザードマンの鱗を貫いて、リザードマンたちが深手を負う。マルコシアの爆発は目立った威力が示せなかったが、それでも1体を混乱させた。


「サクラ! 援護を頼むぞ!」


「了解。安心して突撃してください」


 サクラがコンパウンドボウに矢を番え、狙いを前方のリザードマンに定める。


 4体中3体が何らかの形で負傷している。無傷なのは1体のみ。


 久隆は一瞬で距離を詰めると、負傷して藻掻いているリザードマンの頭に斧を叩きつけた。装甲車並みの厚さのある鱗が金属音を立てて割れ、同時にリザードマンの頭蓋骨も叩き潰される。


「やはり劣化しても硬いな。フォルネウス、無理はするな。戦線を支えれば、レヴィアとマルコシアの魔法で確実に始末できる」


「はいっ!」


 久隆はそう言いながらも負傷している2体目のリザードマンとの交戦に移った。


 リザードマンが負傷の痛みを無視し、長剣で久隆を狙ってくる。両手剣だ。重さそのものが武器になるというもの。切れ味は重視していないだろうが、食らえば重傷なのは間違いない。


 久隆は振り下ろされてきた長剣を弾き飛ばし、リザードマンの首に斧を叩き込む。


 斧はリザードマンの首を刎ね飛ばし、長剣が力なく落ちる。


 久隆はそれを蹴り上げ、消える前に後方にいるもう1体のリザードマンを狙って投擲する。長剣はそのリザードマンの胸を貫き、即死させた。


「はあああっ!」


 フォルネウスはまだ1体のリザードマンと対峙していた。


「援護します」


 サクラが射線にフォルネウスが入らないようにしながら、リザードマンの足を狙って矢を叩き込む。矢はリザードマンの鱗を貫通して突き刺さり、リザードマンの姿勢がガクリと崩れる。


「今だ!」


「はい!」


 フォルネウスが姿勢を崩したリザードマンの眼球を狙って短剣を突き立てる。


 リザードマンの眼球が潰れ、リザードマンが痙攣しながら倒れる。


「よくやった。だが、次が来るぞ。団体さんだ。数は6体と5体のグループ。動きながら迎撃する。各個撃破しなければ挟み撃ちにされると面倒だ」


 久隆の耳は迫りくるリザードマンの足音を捉えていた。


 一応、この捜索班の面子でもリザードマンと渡り合えるのは分かった。それさえ分かれば恐れることはない。


 恐怖は置いていけ。今は戦意を燃やせ。殺意を蠢かせろ。


 適度な緊張感で敵を殺すことのみを考えろ。


 久隆たちはリザードマンが1か所に集まる前に迎撃すべく、群れに向かっていく。


「前方、曲がった先にリザードマンだ! フルフル!」


「は、はい!」


 曲がり角を曲がるとリザードマンが久隆たちを目指して突撃してくる。


「『我が敵の守りを蝕み、錆びつかせよ!』」


 フルフルの詠唱でリザードマンたちの鱗が劣化し、亀裂が生じる。


「レヴィア、マルコシア!」


「『降り注げ、氷の槍!』」


「『爆散せよ、炎の花!』」


 レヴィアとマルコシアが詠唱して魔法を叩き込む。


 レヴィアの魔法は効果抜群だ。リザードマンたちが纏めて負傷し、2体が死亡した。マルコシアの魔法はリザードマンの頭部を揺さぶり、混乱させるに留まっている。


「サクラ!」


「やります」


 サクラが矢を放つ。1体の無傷のリザードマンの脳天に叩き込まれた矢が、リザードマンを即死させた。


「斬り込むぞ、フォルネウス」


「ええ。久隆様」


 そして、久隆たちが突撃していく。


……………………

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