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70階層以降の攻略

……………………


 ──70階層以降の攻略



 久隆たちは引き上げてから3日目に再びダンジョンに潜った。


「おお。久隆殿。来てくれたか」


「偵察の方はどうなっている」


「報告を受けたところだ。資料が準備してある」


 報告書を記す紙については事前に十分な数が用意されていたはずだったのだが、それでは不足し始め、久隆はコピー用紙やノートを差し入れていた。特に白くて書きやすく、持ち運びやすいノートは重宝され、久隆の渡した鉛筆などともに活躍していた。


 ひとりに1台のタブレット端末とインターネット環境になってもノートの需要はなくなりはしなかった。建設現場やインターネット環境の脆弱な発展途上国などにおいては、未だにノートが使われていた。ノートは落としても壊れないし、濡らして壊したからといって、修理代に何万円も請求されない。


 だが、いずれは紙媒体の書類というものはなくなるだろう。あのもっとも頑固なお役所すら既に手続きはインターネットでできるようになっているのだ。条件さえ整えば、より頑丈なタブレット端末が量産され、低価格で提供されるだろう。


 既に軍は衝撃に強く、民生品より高性能のタブレット端末を使用している。それが民間に普及するのはそう遠いことではないだろう。


 だが、今の魔族たちにタブレット端末は早すぎる。小学生のころから情報の授業などでプログラミングやタブレット端末の取り扱い方を学んできた久隆たちと違って、魔族たちにタブレット端末は完全に未知のものだ。


 タブレット端末の操作に手間取って、肝心の偵察ができなかった、ではお話にならない。今は彼らの慣れ親しんだノートとペンで頑張ってもらうしかない。


「翻訳魔法は既にかけてある。見てほしい」


「では」


 久隆はページを開く。


「やはりリザードマンが続く階層か」


 70階層から80階層まではずっとリザードマンが出没するエリアであった。


「モンスターハウスは77階層。エリアボスは……ワイバーン」


 久隆は重要な情報を読み取った。


 モンスターハウスの位置とエリアボスの種族は重要な情報だ。それなくして、ダンジョンに突っ込むのは自殺行為に近いと思っていい。少なくともこのダンジョンのこの深層においては。


「出てくるのはリザードマンだけだと?」


「確認できたのはそれだけだと。しかし、リザードマンがいてなお最深層ではないとは。このダンジョンはいったいどれほど続いているのか……」


 流石のアガレスにも疲労の色が見えた。


 やはり終わりが見えないというのは辛いものだ。何か目安になるものでもあればいいのだが、ミノタウロスは何十階層に渡って出没したし、リザードマンも80階層で終わりだとは思えない。


「アガレス。お前がトップだ。言うまでもないことだが、トップの不安は部下に影響する。今はそういう不安を口にするのは控えた方がいい」


「申し訳ない。今は前向きに考えよう。せめてリザードマンの尻尾ぐらいは見えてきたと。全身が見えるころにはこの長く続いたダンジョン攻略も終わるのだと」


 あまりそれも前向きとは言い難かったが、少なくとも態度は前向きだ。


「それで、このワイバーンというのはどのような魔物なんだ?」


「うむ。大きさはグリフォンよりひと回り大きく、ドラゴンに似ている。似ているが全くの別種だ。ワイバーンはダンジョンコアの魔力でしか生まれないし、知性もない。ただ、その巨体と火炎放射は脅威だ。グリフォンとヒポグリフと違って火炎放射への対策もしなければならない」


「ふうむ。フロアはグリフォンとヒポグリフの時と違って暗くはないのだな?」


「ああ。明々と照らし出されていたらしい。ここを突破できるものならやってみろとでもいうように」


「上等だ。受けて立つ」


 とは言えど、火炎放射をどうするかだ。


 グリフォンとヒポグリフのように空を飛ぶ相手に、盾でどこまで攻撃を減らせるか。この厄介さはグリフォンとヒポグリフ、そしてワームを足したようなものだ。まるで空飛ぶ装甲車。Mi-24ハインドを相手にするムジャヒディンになった気分だ。それもこちらにはスティンガー携帯式防空ミサイルシステムはないのだ。


 対空火力はレヴィアとマルコシアの魔法、それからサクラのコンパウンドボウ。


 命中精度がどの程度かは分からない。魔法は回避される可能性があった。


 サクラのコンパウンドは恐らく命中するだろう。だが、威力は魔法には及ばない。


 グリフォンとヒポグリフ討伐のときのように、魔族総出で攻撃するという作戦はある。だが、そのためには一応注意を久隆たちの方に向けなければならないのだ。


 また恐らくは長い螺旋階段があって、そこを降りるまでに時間がかかる。今回は明るさがあるので敵も気づきやすいだろう。グリフォンとヒポグリフのときのようにはいかない。それでも何とか80階層の床にまで到達し、そこから他の魔族たちが展開するまでの時間稼ぎをしなければならない。


 かなりタイトな任務だ。時間的にも、地理的にも。


「レラジェの偵察部隊を借りられるか?」


「もちろんだ。必要なら貸そう」


 レラジェたちにとっては災難かもしれないが、こうなった以上レラジェたちに時間稼ぎをしてもらうしか他ない。もちろん、レラジェたちだけに任せるつもりはない。レラジェたちが仕事を始めたら、久隆たちも一気に陽動のために床に降りるつもりだ。


「よし。ワイバーン対策はもう少ししてからよく考えよう。まずは80階層までの道のりだ。俺が何か所か掃討してきたが、どうなってる?」


「71階層と72階層には魔物はいなかった。久隆殿、リザードマンを単騎で屠るなど恐るべき猛者だな、そなたは。リザードマンの鱗はあらゆる攻撃を弾くというのに」


「無我夢中だったからよく分からん。火事場の馬鹿力という奴かもしれない」


 久隆は71階層でリザードマンと交戦したとき、自分がどういう状況にあるのか分からなかった。装甲車の装甲に匹敵する鱗を砕き、頭を叩き潰したというのは、火事場の馬鹿力の成せるものだったのかもしれない。


 また同じことをしろと言われてできるだろうか?


 朱門は久隆の義肢の人工筋肉の異常な成長について久隆に告げている。あれは火事場の馬鹿力ではなく、義肢が発揮した効果だったのかもしれない。そうであるとするならば、また同じことができるだろう。


 だが、久隆ひとりがそうやってリザードマンを倒せても意味がないのだ。後方連絡線を確保するためには、他の魔族たちもリザードマンを倒せるようにならなければならない。そして、マニュアル化しておくことが必要だ。


 参考になるのはフォルネウスの戦い方だろう。彼は久隆のような異常に発達した人工筋肉の義肢を持たず、それでいて久隆のように魔物を倒せる魔族だ。彼の戦い方を見ていれば、発見があるかもしれないし、久隆もフォルネウスの戦いを指導するつもりだった。


「では、俺たちは80階層を目指す。この間は魔族を居残り組と前進組に分ける話をしていたが、それは80階層の攻略が終わってからにしてくれ。80階層の攻略には全ての魔族の力を合わせる必要がある」


「分かった。そのように手配しよう。久隆殿が勝利を掴んで戻ってくることを信じているぞ。リザードマンもワイバーンも倒してしまってくれ」


「簡単に言うな。いろいろと大変なんだ」


 さて、問題は山積み。未だにべリアの姿は捉えられず、ダンジョンは悪意を剥き出しにしてくる。どうやってこのダンジョンを攻略すべきか。久隆はそれを考えていた。


……………………

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