強敵再び
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──強敵再び
今度は久隆の指揮でバルバトスたちは63階層に降りた。
久隆は早速索敵を始める。
「重装ミノタウロス16体。位置はバラバラだな。奇襲しても効果は薄いだろう」
「分かるのですか?」
「ああ。長年の経験という奴だ」
久隆の索敵技術には魔族たちも驚く。
「こっちだ。地図のこの地点で迎撃する。行き止まりの廊下。死ぬ気で踏ん張れ」
とは言えど、久隆はそこまで追い込まれるとは思っていなかった。
重装ミノタウロス──いや、魔物のほとんどには知性がない。自分たちを攻撃してくる強力な魔法攻撃を叩き込んでくる砲兵を無視して、歩兵とばかり戯れる。そして、その間に全滅してしまうのである。
久隆はいざとなれば16体程度の重装ミノタウロスならば単騎で殲滅できる確たる自信があった。通路は狭く、敵は大規模な戦力を投入できない。迂回して挟撃することや、側面攻撃を仕掛けることもできない。
その大規模な兵力のうち、投入できるものは限られ、それは久隆にとって容易に排除できる目標だった。
もちろん、これは久隆の慢心ではない。彼自身の冷静な戦力分析の結果だ。彼が65階層のモンスターハウスで単騎で重装ミノタウロスを排除したときの経験から導き出されたものであり、これまでの重装ミノタウロスとの戦闘の結果から導き出されたものであり、ダンジョンの構造を分析した結果から導き出されたものである。
常に最悪を想定しろというならば、その最悪は久隆が死ぬことだ。
それでもバルバトスがちゃんと指揮を執れることは確かめたし、彼が十数体の重装ミノタウロスを相手に勝利できた結果も残っている。
ここで戦っても大丈夫だ。むしろ、ここでなければならない。
もし、他の通路で戦えば、それこそ挟撃される危険性があった。前後に騎士を配置することは不可能ではないが、魔法使いの火力は限られている。今回はフルフルの付呪という手も使えない。
だから、ここで戦うしかない。
久隆はそのことをバルバトスたちにしっかりと説明した。
久隆もバルバトスたちと信頼を築いておきたい。今は連携するべきときであり、またグリフォンとヒポグリフのような大規模戦闘になったときに、少しでも信頼できるものがいた方が、久隆としても安心できるのだ。
「以上が、理由だ。何か質問は?」
「ありません。死力を尽くします」
「よろしい。今回は俺が前に出る。参考になるかは怪しいが、見ていてくれ」
「はいっ!」
正直に言って、久隆は自分自身の肉体の異常を理解していた。
手足の筋肉が増大しただけではない。それを制御する神経系も同じように異常を起こしている。反射神経は何倍も鋭くなり、索敵の感度も上がり、どんな攻撃が来ようともほぼ受け止められるだろうという確信があった。
これがレベルとやらの上昇によるものだとすれば、レベルというのは人間を人間でなくしてしまうような恐ろしいものだと思える。少なくともレベルの高い犯罪者なるものが生まれたら、法執行機関は苦労するだろうと。
皆が昔憧れた勇者やスーパーヒーロー。それが善であろうとなかろうと、国家以外の存在が過ぎたる力を持つのは望ましくない。日本政府が民間軍事企業の設立を国内で禁止しているのはそういうことだし、第一次世界大戦後のドイツで起きたフライコールは国内を混乱に陥れたし、昔の傭兵は山賊とさして変わらなかった。
国家が武力を束ねておくべき。武力を束ねている存在こそ国家である。
純粋な軍事力や警察力は国家の基盤となる。基盤となるからこそ、国家の中にさらにる国家が生まれ、その結果として内戦が引き起こされないように国家はこれら武力を支配しておかなければならないのだ。
レベルがどれほどまでの効果を及ぼすかは未知数だが、国家の側もレベルの高い存在を確保しておかなければ、国家は国家でなくなるだろう。そして、レベルの高く、国家に属さないものは何かしらの鎖をつけておかなければならない。
まあ、異世界なのだから異世界なりの解決手段はあるのだろうと久隆は思う。
「さあ、鬨の声を上げろ! 牛頭どもをここに引き寄せろ!」
「おおっ!」
久隆たちが声を上げると、階層中のミノタウロスが突撃してくるのが分かった。
しかし、合流して時間を合わせたりはしない。魔物全体で殺気を漲らせて突撃してくるだけだ。魔物には戦術的思考がない。
「来たぞ。レヴィア!」
「任せるのね!」
最初に4体の重装ミノタウロスが突っ込んでくる。
「『吹き荒れろ、氷の嵐!』」
「『削り取れ、砂の嵐!』」
「『焼き尽くせ、炎の旋風』」
氷が、砂が、炎が、重装ミノタウロスを包み込み、ダメージを負わせる。
「今だ! 突っ込め!」
久隆は足で大きく地面を蹴って加速する。
地面が抉れるかのようなその加速で重装ミノタウロスの懐に飛び込む。
1体目は頭を叩き割られた。2体目は首を刎ねられた。3体目はまた頭を叩き切られた。
4体目はバルバトスが仕留めた。
「く、久隆様。今、重装ミノタウロスの鎧を叩き切りませんでしたか……?」
「ああ。だから、あまり参考にはならないと言ったんだ」
久隆もどうしてあの重装鎧が叩き切れるのか謎だった。
「まだまだ来るぞ」
次の重装ミノタウロスが押し寄せてくる。数は5体。
「レヴィア! 今だ!」
「了解なの!」
再び魔法攻撃が吹き荒れ、久隆たちが白兵戦で叩きのめす。
「圧倒的だ……」
流石はモンスターハウスで何十体もの重装ミノタウロスを相手にした久隆だ。5体程度ならば軽く片づけてしまう。重装ミノタウロスの合流を防ぎ、戦力を分断して撃破していっていた。62階層とは比べ物にならない速度で重装ミノタウロスが撃破されて行く。
それにレヴィアとの相性も抜群だった。
レヴィアは久隆の動きに合わせて魔法を叩き込むし、久隆もレヴィアたちの魔法の効果が切れるタイミングを完全に把握し、巻き込まれることなく、全く隙を出さずに重装ミノタウロスに斬り込んでいる。
バルバトスの指揮に足りなかった技術とはこういうものなのだということが分かるものだった。指揮官としての久隆は兵士としての久隆と同じくらい、勇猛で、才能があった。伊達に10年以上も海軍で過ごしていないのだ。
「ぼーっとするな、バルバトス。見ているだけでは何も身に付かないぞ」
「了解!」
バルバトスも久隆の技術を得ようと、同じように戦う。
バルバトスが魔法使いたちと組み始めたのは最近のことなので、まだまだ連携には慣れていない場面もあるが、それをいうなら久隆など魔法の存在を知ったのは最近だ。久隆にできて、バルバトスにできないということはない。
次の4体が現れ、それを撃破し、バルバトスは少しずつ成長した。
「ラストだ。3体、来るぞ」
しかし、ここで久隆は奇妙な感触を感じていた。
重装ミノタウロスの足音がおかしい。無理やり走らされているような、そんな感じなのである。しかし、ダンジョンには重装ミノタウロス以外の魔物は存在しないはずだ。
何が重装ミノタウロスを追い立てている?
久隆はライトを灯し、目標の様子を窺う。
答えはじわじわと分かった。
最初は2体の重装ミノタウロスが猛烈な速度で走っているのを確認し、その背後でその2体の重装ミノタウロスを追い立てている1体も重装ミノタウロスであることが確認できたのだ。
「クソッタレ。ソ連軍の政治将校か」
久隆は毒づくと、止まりそうない勢いで突っ込んでくる重装ミノタウロスをしっかりと捉える。そして、距離を測る。
「レヴィア! 叩き込め!」
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