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彼らの戦い

……………………


 ──彼らの戦い



「久隆様はいざという場合に備えて前衛の背後に」


「分かった」


 廊下はさほど広くはない。騎士3名と久隆が同時に展開するには狭い。


 久隆は火消しの予備として背後で待機することになった。


 やはりバルバトスは自分の部下たちに経験を積ませたいのだろう。ようやく重装ミノタウロスの倒し方が分かってきたところだ。しっかりと戦い方を学んで、身に付けようとする意志がある。


 部隊が一丸となって今回の戦いの意味を理解し、目的を達そうとしている。


 この部隊に必要なのは後は具体的な戦闘テクニックだけだと久隆は思った。


 その戦闘テクニックは戦って覚えるか、既に取得しているものの戦い方を見て覚えるかしかない。そして、今は戦争の真っ只中だ。実地で覚えていくのがもっとも早い。リスクはあるが、実戦に勝る経験なしだ。


 久隆はいざという時は出られるようにしておきながら、バルバトスたちの様子を見る。バルバトスたちはバルバトスが中央に、他の騎士2名が両脇にいる。


 そして、微妙な楔型を描いた陣形をしており、重装ミノタウロスを誘い込んで、上手く両方向から攻撃が浴びせられるようになっていた。


 早速重装ミノタウロスが1体、1体とやってくる。先ほどの魔法攻撃を受けた重装ミノタウロスたちで、傷を負いながらも、自分たちの敵を屠らんと殺意を込めて進軍してくる。それを見てバルバトスたちが一斉に武器を構えた。


 そして、重装ミノタウロスが突撃してくる直前に魔法攻撃が再び叩き込まれる。


 ミノタウロスたちは見るからに傷を負い、それでも突撃してくる。


 これを屠るのは簡単であった。


 重装ミノタウロスたちは死にかけており、バルバトスが長剣で頭を叩き潰し、他の騎士たちが短剣で眼球を貫いたことで何もできずに死に絶えた。


「次が来るぞ!」


「了解!」


 迎撃予定地点に次から次に重装ミノタウロスが押し寄せてくる。


「『降り注げ、氷の槍!』」


「『砕け、岩石の槌!』」


「『爆散せよ、炎の花!』」


 魔法攻撃が再び叩き込まれ、重装ミノタウロスたちが倒れる。


「来るぞ! 次の魔法攻撃まで足止めだ!」


「はいっ!」


 騎士たちは気合いを入れて重装ミノタウロスたちを迎撃する。


 付呪もなし。人工筋肉による異常な筋力もなし。


 それでも騎士たちは自分たちを圧倒する重装ミノタウロスに立ち向かう。


「はあああっ!」


「いいぞ! そろそろ次の魔法がくる!」


 魔法使いたちの盾となり、重装ミノタウロスを押しとどめる騎士たち。


「今だっ! 下がれ! 後衛は魔法を叩き込め!」


 再び魔法攻撃が叩き込まれる。


 重装ミノタウロスたちがもだえ苦しみ、攪乱される中、騎士たちが再び突撃する。


 騎士たちは混乱した重装ミノタウロスたちを仕留める。魔法攻撃で既に死んだものもいたが、魔法使いの内ひとりは広範囲魔法を使っている。魔法による攪乱は重装ミノタウロス全体に及んでいた。


 後は再び重装ミノタウロスを屠り、魔法使いたちの盾となるだけ。


「後半数ほどだ」


「了解です、久隆様」


 久隆は重装ミノタウロスの足音から残りの重装ミノタウロスの規模を告げた。


 前衛が守り、後衛が魔法を叩き込み、前衛が叩く。


 このサイクルが上手いように続き、ついに62階層から重装ミノタウロスの反応は完全に消えたのだった。


「勝った……」


「よくやった、バルバトス。お前の掴んだ勝利であり、全員で掴んだ勝利だ」


 肩で息をするバルバトスに久隆がそう告げる。


「ええ! では、次は63階層に!」


「待て。この状況を見て、63階層に進めると思うか?」


 バルバトスが進もうとするのに久隆が肩を掴んだ。


 バルバトスの仲間たちは息を切らせている。イポスたち魔法使いも急激な魔力量の上下によって疲弊しているのが窺える。


「指揮官の役割は部下のコンディションを把握することも含まれている。万全でない部下を無理やり戦わせるのは下策だ。そんなことをしていれば犠牲が増えるし、作戦目標を達することもできない。ここは少し休憩してからにしよう」


「申し訳ありません」


「学べばそれでいい」


 部下のコンディション把握では久隆も失敗している。自分と同じ轍を踏ませるようなことは避けたかった。ことに魔法使いはコンディションの把握が難しい。レヴィアは疲れたらすぐに疲れたと声に出してくれるのでいいが、魔族たちは今はとにかくべリアを救出し、ダンジョンコアを目指そうと必死になっている。そのため疲労を隠そうとする節があった。あまりいい傾向ではない。


「部下には気を使ってやれ」


「はい」


 久隆は持ってきたマットを敷き、その上にバルバトスたちが楽な姿勢で座る。


「チョコレートだ。疲労回復に役立つ。それから水分も補給しておけ」


「では、ありがたく」


 魔族たちは久隆の配ったチョコレートを口に入れた。


「甘いですね。とても甘いです。これはいいものです」


「ヴェンディダードにはこういうものはないのか?」


「あるとは思うのですが、我々のような家柄のよくないものたちの口には……」


 バルバトスもレヴィアの手前、施政に文句は言えない。


「これからは軍の兵糧にこういう甘いものも含めるのね。とても効果があるの。ただ、こういうものは溶けやすいのが難点なのね」


「そうだな。チョコレートも溶けやすい」


 レヴィアはもう軍の兵糧に甘いもの──ヴェンディダードは砂糖の生産が小規模で高価なので難しいとは思うが──を含めるつもりだった。


「そのためには砂糖の生産を増やさなければなりませんね」


「そうなの。やることは山積み。早く帰らなきゃいけないのね。帰ったらお祝いなのよ。みんな、楽しみにしておくといいの!」


 レヴィアが無理をしてそう言っていることは久隆には分かった。


 レヴィアも理解しているのだろう。帰って最初にやらなければならないのは死者たちの弔いという悲しいことであることを。


 だが、それを決して表には出さない。今、そんな話をしても士気を損ねるだけだ。


 レヴィアは本当に人の上に立つものなのだなと久隆は思った。


 それと同時にこの年齢でそこまで気遣いをしなければならないレヴィアのことが、少しばかり悲しく思えた。


「63階層だが、このままバルバトスが指揮を執り続けてみるか?」


「久隆様の指揮を見てみたくもあります」


「そうか」


 そう告げて久隆はバルバトスを見た。


「バルバトス。お前の指揮は上々だった。これから経験を積めば、重装ミノタウロスなど相手ではなくなるだろう。お前も、お前の仲間も強い。自信を持っていいぞ」


「はい!」


 バルバトスは嬉しそうに笑った。


「では、63階層の指揮は俺が執る。従ってくれ」


「了解です」


 久隆たちはしっかりと休息をとると、地下63階層に向けて進み始めた。


……………………

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