ダンジョン探索の心得
本日1回目の更新です。
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──ダンジョン探索の心得
「よし。片付いたな」
4階層の掃討が完了し、4階層の地図も完成した。
「時間は丁度1800。晩飯の時間だ」
「結構時間かかるのね」
「そうだな。朝8時から潜って、18時まで。10時間でようやく4階層だ。これからさらに深くなって難易度が上がると問題になってくるな。いくら魔物を一時的に掃討したとしても、下に潜るまでの移動には時間がかかる。いずれはダンジョン内の拠点が必要になるだろう。しかし、理由がなければそう何日も家を空けられないからな」
「むー……。けど、ダンジョンコアまで目指すのならば、ダンジョン内での拠点構築は必須なの。特に超深度ダンジョンはダンジョン内での拠点なしで攻略できるものではないの。地上と往復していたら、潜れるのは10階層が限界なの」
「そのようだな。時間が経てば殺した魔物も再構成されると来ている。ダンジョン内に拠点を構えて、可能な限りそこから進んでいくのがもっとも手早い攻略方法だが……」
しかし、ダンジョン内は時間の流れも狂っているという。
ダンジョン内に3日間過ごしただけで外では1週間以上過ぎていた、などということになれば、田舎の年寄りたちが不審がるし、駐在所の警察官も様子を見に来るだろう。
退役軍人の自殺率は高い。日本においてもだ。だから、田舎の年寄りたちは久隆のことを気にかけているし、警察も自殺を心配している。この田舎には心療内科も精神科もないのだから、その土地の人間が祖国日本のために戦った人間を気遣うのは当たり前のようなことになっていた。
久隆自身、何度か自殺を考えては踏みとどまった経験がある。それに田舎の年寄りたちとの関係も良好だ。力仕事となれば、久隆が手伝うのは当たり前のようなことになっていた。久隆もすることがないので、ボランティアを行っていた。
そんな久隆が何日も、何週間も姿を消せば怪しまれる。
何か理由をつけなければ。海外旅行だとか。東京の親戚のところに向かっているとか。そういう理由が必要だ。
「ううむ。物資が揃えばダンジョン内での拠点づくりもできるだろうが、いかんせん俺にも世間体というものがある。このダンジョンの存在を他の人間に知られないようにするためには、俺は何日かおきに姿を見せる必要がある」
「それならフルフルに任せるの!」
「いや。フルフルに留守番してもらうわけにはいかんぞ。あの見た目だし、客が来てもちゃんと応対できないだろう」
「フルフルを舐めてはダメなの。フルフル! 模造人形を構築して!」
レヴィアがフルフルに向けてそう告げる。
「分かりました。『模倣せし人形よ。今こそ現れたまえ』」
フルフルがそう唱えると、フルフルそっくりの魔族が現れた。
「こいつはなんだ……」
「模造人形なの。今はフルフルの姿をしているけれど、久隆の姿にもできるの。簡単な挨拶や会話もできるから完璧なの!」
「おお。流石は魔法使いだな。びっくりだ。凄いぞ」
久隆はどこまでも感心した視線をフルフルに向ける。
「に、人間なんかに褒められても嬉しくないですし……」
「いや。凄いぞ。本当に。会話もできるんだよな?」
「で、できますよ。馬鹿にしないでください!」
「馬鹿にはしてない。魔法のことについて俺はさっぱりなんだ」
フルフルが唸るのに久隆はコピーされた方のフルフルの前に立った。
「よう、フルフル」
「何ですか、人間。喧嘩売りに来たのですか」
「……なあ、本当に会話できるんだよな?」
久隆は少しばかり心配になってきた。
「だ、大丈夫ですよ。その、魔法を扱わない人には分からないでしょうけど、この魔法は模造する人間の魂をコピーしますから。だから、普段通りの対応ができるはずです。事前に命じておけば、命令通りの行動も行います」
「そいつは便利だ。こいつを何体か作れば、斥候や拠点防衛に利用できないか?」
「む、む、無茶言わないでください! 私の技術では1体が限界です! そ、それは上位の付呪師ともなれば3、4体の模造人形を生み出せますが、私には1体作るのが限界です。うう、今、私のことを役立たずだと思っているでしょう……」
「思ってない、思ってない。俺なんて魔法は全く使えないんだぞ?」
「そ、それもそうですね……。魔法が使えないなんて想像もできないです」
フルフルが小さく頷く。
「それでは地上に戻るか。晩飯は何がいい?」
「カレーライス!」
「この間食べただろ? 飽きないか?」
「フルフルにも食べさせてあげたいの」
「分かった。お前は本当にできた魔王だな」
「当然なの!」
久隆はスーパーに買い出しに行く時間を考えながらも、地上に戻っていった。
ダンジョンの4階層までは今は静寂が支配している。
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スーパーで材料を買い、家に帰って調理する。
ほどほどの時間がかかってカレーライスが完成。
「ほら、席に着け。晩飯だぞ」
「やった!」
夕食は具材をちょっと変えて、ナスやオクラなどの夏野菜をふんだんに盛り込み、鶏肉を入れたものになった。辛さはレヴィアに配慮して甘口なのは変わりない。実際のところ、どれだけの辛さに耐えられるか分からないが、焼いた肉、焼いた魚、焼いた野菜しか食べて来なかったレヴィアが香辛料のきつさに耐えられるとも思えない。
「サラダもしっかり食べろよ。生野菜も栄養豊富だ。贅沢病を防ぐぞ」
「うんうん。栄養バランスをしっかりと取るのね」
生野菜のサラダ。ドレッシングはお好みで。
「な、なんですか、この茶色くてどろどろしたの……」
「カレーライスなの。とっても美味しいの! フルフルも食べてみるの!」
「は、はい」
フルフルはカレーライスを恐る恐るスプーンで掬うと、口に運んだ。
「あ。美味しい……」
「美味いか。それはよかった」
「う……。別に人間の食べ物が優れているとは思いませんからね」
そう言いながらもパクパクとカレーを口に運ぶフルフル。
「し、しかし、こういう場面をもしアガレス閣下やべリア様に見られたら、怒られますよね……。人間の食事を、それも陛下と同じ食卓で食べるなどとは……」
「気にしないの。今はそれどころじゃないの。非常事態なの。それに宮殿ではできなかったことができるのがレヴィアには嬉しいの。美味しい食事を食べて、一緒に食卓を囲む。宮殿にいたらできなかったことなの」
レヴィアはそう告げて空になったカレーライスの皿を久隆に見せる。
「お替りしていい?」
「いいぞ。余らせるのもなんだからな」
「わーい!」
それからレヴィアはたらふくカレーを食べ、フルフルも文句を言いながらもお替りし、久隆も明日に備えてしっかりと食べ、それから風呂を沸かし、風呂を済ませて布団に入った。それで今日の日程は終わったのだった。
明日は物資が届く。そして模造人形を実際に試してみる機会にもなる。
どこまで上手くいくか。
それはまだ分からない。
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