60階層における拠点
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──60階層における拠点
久隆たちは補給物資と弁当を抱えて60階層まで降りた。
「おお。久隆殿。体の具合は大丈夫だろうか?」
「何の問題もない。それよりもウァレフォルの捜索班は?」
「無事だ。60階層までの道のりはほとんどレヴィア陛下たちが切り開かれたからな」
「そうか」
そんなこと一言も言わなかったのに、と久隆は思った。
「それで60階層から70階層までだが」
「ああ。今、レラジェたちが偵察に出ている」
「安心してくれ。その区間には重装ミノタウロスしかいないし、エリアボスは撃破済みだ。70階層までの道のりを切り開いたら、すぐに拠点を70階層に移せる」
「おお。それは。久隆殿がひとりで倒されたと?」
「そういうことになるな」
「なんという……」
アガレスは久隆を畏敬の念を込めて見つめた。
「火事場の馬鹿力って奴だ。人間生死がかかっていると思わぬことができたりするものだ。それはそうと70階層までの突破についてだが」
「ふむ。何か策があると?」
「モンスターハウスと69階層は殲滅済みだが、他のフロアには重装ミノタウロスが残っている。そして、70階層以降はさらに厄介そうなリザードマンが出没する。そこで魔族の戦力を強化するために、そちらの捜索班にこちらの捜索班のメンバーをつけて、教導しようと思うのだがどうだろうか?」
随分とおせっかいな申し出のように思えたので久隆はアガレスの様子を窺いながらそう尋ねたのだった。
「ありがたい……! とてもありがたい申し出だ、久隆殿! 我々の戦力強化のことまで考えてくださるとは!」
「受け入れてくれるならば、こちらとしても申し分ない。それで、こちらからは2名を3組出すので、そちらからは4~6名の捜索班を3組出してほしい。共同作戦という形で、マニュアルに書かれていることを実地で教えていきたい」
「分かった。人選をしておこう」
アガレスが頷く。
これでアガレスが人選を終えるまでは久隆たちは暇になる。
「とりあえず、弁当食うぞ」
「おー!」
すぐには人選は決まらないだろう。明日辺りまでかかるかもしれない。
久隆たちは物資を届け、弁当を済ませたら地上に戻るつもりだった。
「久隆様! 体調には問題なく?」
「ああ。大丈夫だ、ウァレフォル。心配をかけたな」
「いえいえ。いつもは自分たちが心配してもらっていますから」
ウァレフォルはそう告げて後頭部を掻いた。
「それにしても久隆殿が70階層より下から這い上がってきたというのは本当ですか?」
「ああ。正確には75階層からだな。言っておくが全部の階層で交戦したわけじゃないぞ? 交戦は可能な限り避けてきた。交戦したのは72階層と71階層、70階層、69階層、65階層のモンスターハウス。それだけだ」
「単騎でモンスターハウスを!?」
「まあ、そうなるな。流石にあれはもう勘弁してほしい」
久隆はもう訳の分からない状況で戦うのはごめんだった。
「70階層のエリアボスといい、65階層のモンスターハウスといい、流石ですよ、久隆様! 普通は単騎でエリアボス、それも超深度ダンジョンのエリアボスに挑んだりしませんから! 超深度ダンジョンのモンスターハウスにも!」
「それはそうだろう。ひとりで戦うのは馬鹿のやることだ。俺はその馬鹿をやった」
久隆としては褒められていても、いまいち納得ができない気分だった。可能ならば友軍の支援を待って戦うべきだったかとも思う。あの時は自分が何階層にいるのか分からなかったので必死になったが、レヴィアたちは近くまで来ていたのだ。
しかし、あの状況ではどうしようもなかったのも事実だ。
何故か無線は繋がらず、自分たちが何階層にいて、味方がどこにいるのか分からない。それでは戦い続けるしかなかっただろう。
「それはそうと、60階層から70階層までの偵察が正式に終わったら、そちらの捜索班を指導して、戦力を強化しようと思う。対象は4~6名のチームだから、加わるならもうひとり人を集めておくといい。まあ、もうお前たちは十二分に戦力として機能しているから必要ないかもしれないが」
「そんなことはありませんよ。久隆様から教わりたいことはいろいろあります。まだまだ自分たちは未熟です」
「あれだけの連携ができるんだ。自分たちをあまり過小評価するものじゃないぞ?」
久隆はそう告げておにぎりに齧り付いた。
「さて、偵察と人選が終わるまで時間がかかるだろうから、俺たちはここら辺でちょっと失礼する。ウァレフォル、お前も気づいたことがあったら他の奴に教えてやれ」
「はいっ!」
久隆も昔は教えてもらった側だ。基礎的な体力を鍛えるための効率的な手段。士官としての心構え。前線指揮官としての義務。参謀としての計画立案の方法。
そして、幾度にもわたる演習と訓練。その反省と指導によって、久隆も今の久隆に成れたのである。そうであるからにして、彼は教育の重要性を理解している。
レベルを上げるということにはあまり興味はない。必要なのはどんなときでも相手を殺せることである。レベルが低かろうが、高かろうが、殺し方を知らなければ意味がない。レラジェたちのような偵察部隊ならともかく、多くの魔族たちは実戦を戦うのだから。
それにこれは久隆たちにもメリットがある。
もはや地下70階層という深度に達したダンジョンで、物資を運ぶのも大変な状況だ。ここで魔族がしっかりと戦力化され、後方連絡線をしっかりと確保してくれれば、久隆たちは安心してダンジョンに潜れるというものだ。
逆に魔族たちの戦力に疑問が残ると、安心して戦えない。
「そういえばアラクネクイーンを討伐してからアラクネは出没しなくなったそうですよ。こういうこともあるんですね」
「ふむ。エリアボスの有無で生態が変わるのか。だが、俺が倒した70階層のエリアボスは関係なさそうだな」
「70階層のエリアボスって巨人でしたっけ」
「ああ。だが、叩いてみると生身のそれというより、岩や氷を叩いている感じがした」
「そ、それはゴーレムですよ! それも久隆様の証言からしてアイスゴーレム! よく倒せましたね……」
「まあ、倒さなければならなかったからな」
倒さなければ未来がない状況では倒すしかない。
「しかし、70階層以降はリザードマンがいよいよ登場だ。フォルネウス、恐らくお前のその剣は奴らには通用しないぞ。鱗の厚さが装甲車並みで、叩き割るのにかなりの衝撃を感じる。具体的な作戦は70階層に拠点を移してから練ろう」
「了解です」
重装オーガも重装ミノタウロスも顔面は弱点だったが、リザードマンは顔面も鱗に覆われている。これを倒すのは至難の業だろう。
「さて、弁当も食べたし、物資は届けたし、地上に戻ろう。地上で何か調達しておくべきものはあるか?」
「はいはーい! 魔力回復ポーション用の草花をもう少しばかり……」
「分かった。ホームセンターに向かおう。そう言えばまだ夏休みだったよな……」
久隆はこの夏休みの期間中に少しでもレヴィアたちの気持ちをリフレッシュさせておくことを決めた。
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