深まる謎
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──深まる謎
「久隆も無事に帰ってきたし、ケルベロスもやっつけたし、今日はお祝いなの!」
レヴィアのその言葉で焼肉パーティーは始まった。
「しっかり食えよ。俺は1日程度潜っていた感触だが、そっちは1週間だからな」
「言われるまでもないのね! お祝いだからたっぷり食べるの!」
「野菜も食うんだぞ」
「お祝いなのに?」
「お祝いでもだ」
「ぶー……。でも、ここのお店は野菜も美味しいから好きなの!」
やがて注文した肉と野菜が届いて、久隆たちが焼き始める。
その間もずっとフルフルは久隆の服の裾を握ったままだった。
「フルフル? 食わないとなくなるぞ?」
「大丈夫です」
フルフルは久隆の裾を握りしめたまま、何も食べようとしなかった。
「フルフル。食べるの。久隆を探していた1週間の間もフルフルはあまり食べていなかったの。食べるのは義務だと久隆も言っていたの。いざという時に他のものにしわ寄せが及ぶって。だから、食べるの。これなんて焼けているから食べるの」
レヴィアはそう告げてフルフルの皿に肉をよそった。
「私は……」
「食べろ、フルフル。俺が帰ってきてめでたいだろう。めでたいなら祝わないといけない。祝ってくれ。無事に生還できたことを」
「……はい!」
フルフルはようやく肉を食べ始めた。手ももう久隆から放れている。
「しかし、ラルというのは本当に何だったんだろうな?」
あの後久隆は災害非常食のゴミを確認したが、確かにふたり分のゴミがあった。
「あの辺に人里がないことは確かなの。あそこは戦いが頻発する場所で今はヴェンディダードの勢力圏にあるのね。周囲に人里なんてないし、近く砦でも50キロは離れているの。その子が魔族だったということもありえないの。ヴェンディダードはあの地域に民間人が近づかないようにしていたのだからね」
「だが、ラルは実在した」
「うーん。レヴィアには分からないのね。お化け、だったとか?」
レヴィアがそう告げると全員が固まった。
「いや。お化けは飯を食わんだろう」
「そうですよね、そうですよね。お化けじゃないですよね」
マルコシアがそうまくしたてる。
「人型の魔物? でも、一緒に階層を移動したり、久隆を助けたり……。魔物ならそんなことはしないの。見つけたら殺してしまうのね。だから、魔物でもないの。だとすると一体なんなの……」
「べリア、ってことはないよな?」
「べリアは子供じゃなくて大人なの。間違えるはずがないの。それにべリアは黒髪じゃなくてブロンドの髪をしているの」
「そうか。条件が合わないな」
ラルについては結局正体が分かることはなく、焼肉が終わるとまたフルフルは久隆の服の裾を掴んだ。暫くは離れそうにないなと久隆は思ったのだった。
久隆たちは家に帰り、ダンジョンで疲れた体を癒すためにしっかりと休もうと今日は早めに床を敷いた。だが、それでもフルフルは離れようとしない。
「フルフル? お前の寝床はここじゃないぞ?」
「今日はここで寝ます」
「いや。そういうわけにもいかん。寝床は決まったところで寝るべきだ。レヴィアもフルフルがいないと心配するぞ」
「それはそうですが……」
フルフルが視線を俯かせる。
「分かった、分かった。お前が寝るまで傍にいてやるから。それでいいだろ?」
「……はい」
そして、久隆とフルフルはレヴィアとマルコシア、そしてフルフルの共有している寝室へと向かった。レヴィアとマルコシアはもう眠っており、ぐっすりだ。
「……不安だったんですよ」
「そうだな。悪かった」
「責めているわけではないんです。久隆さんが意図して引き起こしたことではないですから。ただ、心配で、心配で。このまま久隆さんと一生の別れになったらどうしようって。頭が真っ白になって」
「でも、ケルベロス戦では冷静だっただろう?」
「それまでに相当の無茶をしました。付呪を乱発しましたし、また倒れそうにもなりました。それでも、それでも、久隆さんに帰って来てほしかったんです。私の気持ちは伝わったのでしょうか?」
「伝わった。だから、俺はここにいる」
「よかった……」
フルフルはそう告げると目を閉じて、眠りについた。
久隆はそれからフルフルが寝息を立て始めるのを待ち、それから部屋を出た。
「朱門。話がある」
「なんだ? お前の人工筋肉なら異常なしだぞ。今、解析しているが、本当にアーマードスーツを稼働させるレベルの人工筋肉になっている。それでいて、破損したりしている様子はない。装甲車並みの鱗を持ったトカゲ人間をぶち殺したって話は本当か?」
「ああ。リザードマンな。なんとかぶっ殺せた。自分でも驚いているぐらいだ。あの鱗の厚みは一昔前の耐地雷・伏撃防護車両の装甲並みの厚さがあった。そして、材質としてもかなり固い」
「しかし、トカゲの鱗だろう? 装甲車に匹敵するとは思えんが。だが、確かに今のお前ならば耐地雷・伏撃防護車両を斧で破壊できるだろうな。アーマードスーツにできることは全てできると思っていい。M2重機関銃をひとりで抱えて乱射できるぞ」
「そこまでする必要は今のところないし、M2重機関銃なんてどこから持ってくる」
「お前の言っていた武器商人」
「あれは確かに当てにはなるが、今は避けておきたい」
その武器商人に会うのは日本国内なのだが、この田舎からは遠出になる。それに要らぬ武器を溜め込んで、どこかから情報が漏れ、強制捜査を受けるのは望ましくない。今はレヴィアたちのことを隠しておかなければならないのだ。
「で、話ってのは?」
「俺は幻覚を見たかもしれない。それどころか幻覚を演出したかもしれない」
「はあ? 頭でも打ったか?」
「違う。頭にはちゃんとヘルメットをかぶっている。ダンジョン内でラルという人間の少女と出会った。ダンジョンの転移に巻き込まれたと言ってな。だが、レヴィアたちがいうには元のダンジョンがあった周辺に人間の少女が紛れ込む余地はなかったそうだ」
「それが幻覚だと? 頭部CT取っておくか?」
「頭は打っていないと言っただろう。それからダンジョン内でラルと食事したのだが、そのゴミがしっかりふたり分残っていた。これは俺がふたりいると思って、そういう風にしたんだと思うか? 昔あっただろう。二重人格の主人公が別人格の幻覚を見ながら、どんどん暴力的行為に染まっていく話」
「あれは映画だ。リアルじゃない。それにその理屈だとお前は少女の人格を持ったことになるぞ。ちょっとばかりぞっとするな」
朱門はそう告げてウィスキーのグラスを揺らした。
「そういう症例はあるのか?」
「解離性同一性障害という障害はある。だが、これはあまり研究が進んでいない。発症例が少ないからな。だが、お前の遭遇したケースとは一致しないと思うぞ。まず、設定が込み入りすぎているし、それでいていい加減だ。普通の場合は自分の友達だとか、知り合いだとかの設定になる。その方が身近に受け入れやすいし、解離性同一性障害というのはストレスを避けるための防御のために起きる障害だ。軍人であるお前が耐えられないストレスを受けるのに少女の人格を作るとは思えん」
「そうか。俺の頭はまともなんだな?」
「そうだろうな。一時期は戦闘適応化ナノマシンの副作用で精神疾患を患う患者もいたが、日本海軍がお前の在籍していた頃に導入していた富士先端技術研究所製のナノマシンでそういう症例は報告されていないかった。それにナノマシンが原因なら、もっと早い段階で症状が現れている」
朱門はそう告げてウィスキーのグラスを傾けた。
「狸にでも化かされたんじゃないのか? ダンジョンにはいろんな魔物がいるんだろう? 化け狸の1匹、2匹、いてもおかしくないんじゃないか?」
「いい加減なことを言うな。マルコシアに聞いたが魔物は人を殺す目的で化けることはあっても、おちょくるために化けたりはしない」
「そうかい。じゃあ、幽霊か?」
「医者が幽霊とか言うなよ」
久隆は大きくため息をついた。
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