途中参加
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──途中参加
上層に足を踏み入れたと同時に久隆は索敵を始める。
非常に重量のある物体がひとつ、機敏に動き回っている。そして──。
「魔族!?」
この重さは人間と変わりない。つまりは魔族が戦っている。
「畜生。俺抜きでケルベロスに挑んだってわけか。勝てるのか、戦況はどうなんだ?」
「お兄さん」
慌てる久隆の手をラルが掴む。
「落ち着いて。仲間と合流できるんでしょう? なら、いかなくちゃ。何をおいてもお兄さんにはそれが必要。仲間たちがどうなっているのか。それが気になって仕方ないんだから。けどね、ひとつだけお願い」
「なんだ」
「屈んでみて」
久隆は言われるがままに屈む。
「お兄さんに幸ありますように」
ラルはそう告げて久隆の額にキスをした。
「おまじないか?」
「うん。おまじない。きっと効くよ」
「ありがとう、ラル。ここで待っていてくれ。すぐにぶっ倒してくる」
「いってらっしゃい」
ラルは満面の笑みを浮かべて久隆を送り出した。
久隆は駆ける音のする方向へと。
既に戦闘は始まっている。魔法を唱える声と金属音が響き渡っている。予定通りにレヴィアの捜索班とウァレフォルの捜索班で挑んだのか? それでは前衛が不足するじゃないか。一体、どうやって戦っている?
急がなければ。俺だってレヴィアの仲間なんだ。仲間として義務を果たすべきだ。
「レヴィアッ!」
久隆が思いっきり声を上げて、戦場に飛び込む。
「久隆!?」
「久隆様!?」
「久隆さん!?」
レヴィアたちがいた。ウァレフォルたちがいた。久隆以外の誰ひとり欠けることなく、そこにいたのだ。
そして、ケルベロスと対峙している、軽自動車ほどもある大型の魔物だ。
「今から参加する! 状況はどうだ!?」
「押されているの! 魔法が強力で防御が……!」
「分かった。任せろ!」
久隆が参戦する。ケルベロスに殴り込む。
ライオットシールドを盾にしてケルベロスに向けて突撃していき、ひとりで戦線を支えているウァレフォルの脇を通り過ぎ、ケルベロスに殴りかかる。
ライオットシールドでケルベロスの3つの頭の内ひとつを殴りつける。ケルベロスの顔は叩き潰され、骨の砕ける音が響いた。
残り2つの頭が久隆を狙うが、久隆はライオットシールドでそれを耐える。
だが、ライオットシールドの防御力には限度がある。早急にケリを付けなければ。
「『このものに戦神の加護を。力を与えたまえ。戦士に力を!』」
フルフルの付呪が久隆に力を与える。
そうだ。この感覚だ。これがあるから戦える。
久隆はそう感じ、ケルベロスの魔法攻撃が途絶えたと同時に斧をケルベロスの頭に振り下ろした。ケルベロスの頭は叩き割られ、真っ二つになる。
「久隆さん、下がって!」
次の魔法攻撃が来る前にサクラの矢が届いた。
サクラの矢はケルベロスの胴体を貫通し、ケルベロスをのたうせる。
「今です」
「ああ!」
久隆は残りひとつの頭を叩き潰した。
ケルベロスがゆっくりと倒れ、その巨体が金貨と宝石に変わる。
「やったな」
「久隆ー!」
ライオットシールドを置いた久隆にレヴィアが駆け寄ってくる。
「ああ。無事だったか?」
「それはこっちのセリフなの! どこに行っていたの? ダンジョンの深層?」
「そうだな15階層ほど下だ」
「15階層……エリアボスやモンスターハウスは!?」
「倒してきた」
久隆がそう告げるとレヴィアの瞳に涙が浮かび始めた。
「久隆の馬鹿! 馬鹿! 馬鹿! レヴィアたちとっても心配してたの! 久隆が死んじゃったんじゃないかって! それなのに全然平気でいるなんて! 馬鹿なの!」
「なんだ。無事じゃない方がよかったのか」
「そんなこと言ってないの! もう、馬鹿!」
レヴィアはそう告げて久隆の腹に顔をうずめた。
「すまん。心配をかけた。他の連中は何もなかったんだな?」
「ぐす。なかったの。久隆だけがいなくなったの。何が起きたの?」
「俺も知りたい。それからもうひとり、生存者がいる」
「べリア!?」
「違う。人間の女の子だ。優しくしてやってくれ」
「人間の……?」
レヴィアは首を傾げる。
「ラル! ラル! もう大丈夫だぞ!」
久隆はラルを呼びながら階段のところまで向かう。
だが、ラルはそこにはいなかった。
「ラル……?」
「ねえ、久隆。本当に人間の女の子がいたの?」
「あ、ああ。ずっと一緒に上ってきた。近くの村からハイキングに来たとかで」
「あそこに人里は一切ないの。ヴェンディダードと人間との係争地だから、いるのは人間の兵士ぐらいなの。それも確かに存在しないと確認しているの。本当に久隆は人間の女の子と一緒だったの?」
「……ああ」
ラルは消えてしまった。
まるで最初からいなかったかのように。
本当にラルは存在したのだろうかと久隆は思う。
自分が孤独から逃げ出すために生み出した虚像だったのではないだろうか。
だが、久隆は覚えている。ラルの温かさを。手を握った時の感触を。この子を守らなければならないという義務感を。
「ラル。お前はなんだったんだ……?」
だが、ラルのおかげで久隆はこの60階層に到達できたと言っていい。ラルがいなければ諦めていたかもしれない。ラルがいたからこそ、久隆は彼女を守るために諦めずに登り続けたのだ。終わりの見えないダンジョンを。
「久隆さん。お帰りさない」
「ああ。ただいま、フルフル」
フルフルがやってくるのに久隆がそう返した。
「心配しましたよ。とっても。久隆さんがダンジョンに食われたんじゃないかって。ダンジョンではときどきあるんです。人や物が勝手に移動することが。本当にたまになんですけど、人がいなくなったらまず助からないというのが常識で……」
「だが、俺は無事に帰ってきた」
「ええ。久隆さんは帰ってきてくれました。それだけで嬉しいです。それ以上のことは望みません。でも、それでも、もう私たちの前からいなくならないで……」
フルフルはぐずぐずと涙を流しながらそう告げていた。
「落ち着け、フルフル。俺はもうどこにもいかない。これから先は楽だぞ。俺がモンスターハウスもエリアボスも片付けておいたからな。一気に下まで潜れる。下層の情報もある。正式にはレラジェの偵察部隊に調べてもらうが」
「そうですね。うん、そうです。いなくならないです」
フルフルはそう告げて久隆の作業服の裾を掴み、放そうとしなかった。
「あー。俺がいなくなってどれくらいたってた?」
「1週間ですよ、久隆さん」
「そうか。1週間か……」
サクラが告げると久隆がため息をついた。
それは心配するだろう。レラジェの偵察部隊を送ろうにも60階層にはケルベロスがいる。臭いで追跡してくる相手に姿を隠す装備は意味がない。
「すまなかった。俺の不用心が引き起こしたことだ。以後気を付ける」
「久隆さんのせいではないですよ。そう何度もフルフルさんが言っていましたから」
「そうか」
久隆はそれを聞いて、少しだけ救われたような気分になった。
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