一騎当千
……………………
──一騎当千
久隆は通常の階層では交戦を避けるという方針を取った。
通常の階層でも敵は重装ミノタウロスのみだったが、それの相手は避けた。真正面から戦って、何度も勝てる相手でも、数でもない。
「ラル。静かにな。静かにだ」
「分かってるよ」
大量の重装ミノタウロスの合間を縫って、久隆たちは上層へ、上層へと進む。
「まだ大丈夫か?」
「うん。まだ大丈夫」
時々ラルのことを気遣いながら、久隆は登り続ける。
重装ミノタウロスを避け、迂回し、隠れ、やり過ごし、久隆たちは上に上る。
神経が磨り減る。
ひとつ間違えば包囲される。ひとつ間違えばラルが危険にさらされる。ひとつ間違えば自分も死ぬことになる。
全く、ひとつの間違えも許されないような状態で、久隆は必死に活路を見出し、上層を目指した。ひとつの間違えも犯さず、上り続けた。
こういうことは前にもあった。
いや、1度や2度の経験ではない。何度も経験してきた。
僅かに12名の部下を率いて、600名、700名の規模を誇る民兵たちの基地に忍び込み、幹部を暗殺し、密かに離脱する。気づかれればカラシニコフが大合唱で、14.5ミリ弾から何までの大口径ライフル弾で蜂の巣にされ、対戦車ロケット弾が飛び交う。なんなら迫撃砲の砲撃も追加だ。
友軍は民兵の保有している地対空ミサイルと対空火器で援軍にはこれない。自分たちだけで窮地を乗り越えなければならない。
そんな任務でも久隆は成功させてきた。だから、今回もと久隆は思う。
だが、問題はある。
モンスターハウスだ。
あればかりは密かに突破するのは不可能である。レラジェの偵察部隊のように姿を隠せる装備を持っているわけではない。つまり、モンスターハウスばかりは強行突破しなければならないということ。
どうにかしなければならないなと思いつつ、久隆は交戦を回避し続け、階段までの道のりをラルを連れて移動する。ラルに疲れが見え始めたため、ラルの手を引き、懸命にダンジョンを駆け抜けていく。
そして、ついに恐れていた時が来た。
「畜生。モンスターハウスだ」
重装ミノタウロス40体以上。それがひしめく狭いフロアがついにやってきた。
「ラル。ここにいろ。俺はモンスターハウスをどうにかしてくる」
「どうにかってどうするの?」
「まあ、殲滅するしかないだろうな」
久隆はそう告げて階段から上層の様子を窺う。
「本気なの? お兄さんは怖くないの? ひとりで戦って、ひとりで死ぬことが」
「ひとりじゃない。お前がいる。俺は軍人だった。何かを守るために戦うことは恐ろしくはない。何かを守り切れないことの方が恐ろしい。ラル、俺に恩義を感じる必要はないぞ。俺は俺の好きなようにやっていて、それがたまたまお前を助けることだった。それだけの話なんだ。それにそもそもお前も守り切れるかどうかも分からないからな」
「そう……」
ラルは少し俯いてから、久隆を見つめた。
「お兄さん。死なないで。私を守るとか守らないとかはどうでもいい。死なないで」
「ああ。そのつもりだ」
だが、それでも久隆はラルを守ろうとするだろう。
「では、行ってくる。少し待っていろ。死ぬにせよ、殲滅に成功するにせよ、結果が出るのはそう時間のかかる話じゃない」
久隆は斧を握りしめて、階段を駆け上っていった。
まずはどうあっても奇襲を。久隆は近くにいた重装ミノタウロスの頭に斧を振り下ろした。斧は重装ミノタウロスの強固な頭蓋骨を破砕し、死に至らしめた。
この一撃で周囲の重装ミノタウロスが一斉に反応する。
重装ミノタウロスの武器は長剣。それを振り回して襲い掛かってくる。
久隆は重装ミノタウロスの腕を叩き切り、奪った長剣で重装ミノタウロスの顔面を貫く。それから間髪入れずその重装ミノタウロスの死体を蹴り飛ばして、他のミノタウロスたちに叩きつける。
重装ミノタウロスは一気に将棋倒しになったが、まだまだ湧いてくる。
久隆は長剣の攻撃を弾き飛ばし、重装ミノタウロスの頭を的確に狙う。
重装ミノタウロスは倒れ、倒れ、倒れる。
だが、倒す数よりも湧いてくる数の方が多い。今のところ久隆は劣勢だ。
「畜生が」
久隆は毒づくと、次に襲い掛かってきた重装ミノタウロスの胴体に回し蹴りを叩き込み、鎧をへこませ、重装ミノタウロスを吹き飛ばすと、その背後から迫っていた重装ミノタウロスに奪った長剣を投げつけた。長剣は重装ミノタウロスの眼球を貫き、脳に達し、重装ミノタウロスは死に至らしめられた。
戦闘はまだまだ続く。
重装ミノタウロスが一気に2体襲い掛かってきて、久隆は1体の攻撃を躱し、もう1体の攻撃を弾き、大きく跳躍して重装ミノタウロスの頭に回し蹴りを食らわせる。重装ミノタウロスの首がグギリと回転し、死に至り、倒れる。
そして、間髪入れずにそのままもう1体の重装ミノタウロスの頭を叩き割る。
「折り返し地点までもまだ辿り着いてないな」
重装ミノタウロスは湧き続け、久隆はひたすらに戦い続ける。
重装ミノタウロスが長剣を両手で振り下ろせば床が叩き割られる。それほどの威力がある。だが、久隆はその攻撃を弾き、カウンターを叩き込む。
武器を奪うのは上手い手だ。久隆の保有している武器は限られている。予備の斧に軍用ナイフに山刀。それらを無駄に消費するわけにはいかない。今回はかなりの激戦だ。すぐには終わらない。武器の回収は困難だ。
だから、敵の武器を奪う。
敵の腕に蹴りを食らわせるか、斧を叩き込んで武器を奪い、投擲する。長剣はずっしりとしており、軍用小銃以上の重さがあるが、久隆はそれを簡単に持ち上げ、投げ槍のようにして投げつける。
長剣は重装ミノタウロスの頭部にほぼ確実に刺さり、死に至らしめる。
久隆はこの時点で気づかなかったが、彼のレベルは上がっていた。
驚異的なまでの身体能力を発揮する体へと。
「さあ、お次はどいつだ?」
独り言でも喋っていなければこの緊張感に耐えきれなくなりそうだった。久隆は戦闘中無口であるが、それは戦闘計画を順調に遂行できることの現れであった。そして、無駄口を叩いて士気に影響を与えないためでもあった。
だが、今はひとりだ。士気を上げるべきは自分だけ。
なら、独り言だろうと雄叫びだろうと上げてやろう。それで戦い続けられるのであれば安いものだ。命がかかったこの戦いで、生存という名の勝利をつかみ取れるならば、久隆はどんなことだろうとやるつもりだった。
久隆は足を使い、手を使い、頭を使い、重装ミノタウロスを撃破し続ける。
その戦いぶりは魔物すら恐れを抱いてもおかしくないほどの修羅であった。
もし、魔物が血を流すのならば、久隆は血塗れだっただろう。
なおも戦い続ける久隆は着実にラルとともに生き残れる道に進んでいた。
……………………
面白いと思っていただけたらブクマ・評価・励ましの感想などお願いします!




