単独巨人戦
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──単独巨人戦
「あれには気を付けないと一発で死ぬな」
再び巨人の胸が赤く光り、氷の槍が生成されて久隆に向けて射出される。
確かに命中すれば不味い攻撃だ。ならば、当たらなければいい。
久隆はその超人的身体能力で飛んできた氷の槍を回避する。
そして、真っ白な巨人めがけて進み続ける。
また巨人の胸が赤く光り、氷の槍が生成される。
久隆はジグザグ走行で狙いを定められないようにし、巨人に迫り続ける。
久隆の狙い通り、巨人は狙いを定められず、久隆を追うように胸の光を動かす。そして、ついにでたらめに放った。氷の槍は久隆とは異なる明後日の方向に飛んでいき、効果を発揮できなかった。
だが、敵も馬鹿ではないことを思い知ることになる。
今度は胸が赤く光ると、氷の槍ではなく、拳大の氷の塊が連発された。
「畜生」
久隆は反射的に地面に伏せる。彼の頭上を氷の塊が通り過ぎていった。
「こいつを使うか……?」
久隆がそう告げて取り出したのはライオットシールドだった。
背中に止めておいたそれを取り外し、前面に構える。
「来やがれ」
ライオットシールドを構えて久隆は巨人に迫る。
また氷の塊が連射されたが、ライオットシールドに衝撃を与えると、それで弾かれた。暴徒が投げる石程度の威力しかなかったようだ。その暴徒が投げた石でも当たり所が悪ければ死ぬとしても。
「よし。いいぞ。このまま進む」
久隆はまた氷の槍による攻撃が来ないように、ジグザグに動きながら巨人に迫る。右に左に動きながら巨人に向けて突き進んでいく。
巨人は氷の塊を発射してとにかく弾幕を展開する。
久隆はライオットシールドに衝撃を感じながらも決して盾を手放さず、確実に巨人に向かっていく。近づけば近づくほど氷の塊の威力は増すが、それに耐えて、久隆は前進を続ける。進み続ける。
そして、距離が縮めば、巨人も狙いを定めやすくなる。
残り10歩程度の距離に迫った久隆に向けて巨人が氷の槍を発射した。
久隆は地面を転がるようにして槍を瞬時に回避すると──力強く立ち上がり、そして一気に相手との距離を詰めた。氷の槍を発射した直後で隙が生まれている巨人に向けて久隆が迫り、斧を振り上げる。
ガンと激しい音を立てて斧が巨人が氷の槍や氷の塊を放っていたときに光っていた胸の中心部位に突き刺さる。ピキピキと音を立てて、ひび割れが生じ、巨体の動きが鈍る。
久隆はさらに巨人の左足の根本に向けて斧を振るう。足が切断され、巨人はバランスを崩し、地面に倒れる。こうなってしまえば、もはや巨人は何の脅威にもならない。
「トドメを刺すぞ」
久隆は斧を振り上げて巨人の胸に向けて振り下ろす。
また亀裂が生じ、もう少しで巨人が解体されようとする。
だが、その前に異常が生じた。
胸が警報のように何度も赤く点滅し、巨人の体が膨れ上がり始めたのだ。
「不味い」
久隆は直感で次に起きることを予想した。
久隆はライオットシールドを構えると可能な限り、巨人から距離を取る。
そして、それは起きた。
爆発。
巨人の体が爆発して巨人を攻勢していた物質が四方に飛ばされる。ライオットシールドはなんとか爆発の衝撃で生じた破片の防御に成功し、久隆は無傷で攻撃を乗り切った。
巨人の体があった場所には金貨と宝石が積み上げられていた。
「こいつも魔物ではあったわけか。そして、恐らくはエリアボス」
久隆はそう告げて息を吐いた。
「70階層? 80階層? いずれにせよ、60階層を攻略中のレヴィアたちと合流するにはモンスターハウスを突破しなければならない。俺にそれができるのか?」
ここが70階層なのか、80階層なのか、あるいは90階層なのかは分からないが、いずれにせよここからレヴィアたちと合流するにはモンスターハウスを経由しなければならない。それが可能かどうか、久隆は自分に問うた。
「やるしかないか」
できる、できないの問題ではない。やらなければいけない。
レヴィアたちに合流しなければ自分のほかにこの異常現象に巻き込まれたメンバーがいないか分からない。食料も足りなくなる。水も不足する。助けが来るのを待ち続けるより、行動した方がいい。
救助が必ず来るとは限らないのだ。どうなるのか分からないのだ。
上では久隆がいなくなって混乱しているかもしれない。他のメンバーもいなくなって混乱しているかもしれない。ダンジョン深部に潜るどころではなくなっているかもしれない。そう考えるといつ救助がくるかなど予想もできなかった。
自力で這い昇る。
そう決意した久隆はラルの下に向かう。
「ラル。もう安全だ。昇ってきていいぞ」
「お兄さん、ダンジョンのボスをやっつけたの?」
「ああ。そうらしい。これからまだまだ苦難は続くが、何とか乗り切っていこう」
久隆はラルを心配させまいと笑顔を浮かべてそう告げた。
「うん。お兄さんについていくよ」
ラルはそう告げて久隆のいる階層に上ってきた。
「寒い……」
「ダンジョンにもこういう場所があるんだな。これまで様々なエリアボスと戦ってきたが、どれも厄介な地形に存在していたものだ」
特にグリフォンとヒポグリフとの戦いはとてつもなく危険だった。
「またボスと戦うことはあるの?」
「ないと願いたいな。今回のエリアボスは相性が良かったからどうにかなったが、他の魔物だったら、こうはいかなかっただろう」
これがアラクネやバイコーンのような敵だったら、勝てなかっただろう。加えてライオットシールドの装備がなければ同じように勝てなかっただろう。
偶然に偶然が重なってようやく勝てたという戦いだった。
楽な戦いではない。死の危険は常にあった。
「じゃあ、上の階層に上がろう。上の階層の魔物は少ないはずだ。どのような種類の魔物が出るかによって、地上までの距離も測れる」
「分かった。行こう、お兄さん」
「ああ」
久隆とラルは螺旋階段を上っていき、凍てつくエリアボスの階層から上層に出た。
これからどれほどの道のりが久隆たちを待ち構えているかは分からない。どのような魔物が久隆たちを襲ってくるのかも分からない。ただ、言えるのはこのままじっとしていても死を待つばかりになる可能性が高いということだけだ。
それにレヴィアたちが心配だ。レヴィアたちも他の階層に飛ばされているならば、救助しに行かなければならない。
迅速にレヴィアたちと合流し、状況を把握しなければ。
焦ってはならないが、急ぐことは否定はしない。焦りは余裕がないことだ。余裕をもって急ぐことは何も矛盾しない。
なんとしてもこの状況を乗り切って見せる。久隆はそう覚悟した。
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