少女を連れて
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──少女を連れて
「上の魔族たちは話が通じる。俺が話してやる。元の世界に戻っても、ちゃんと自分の家に帰してもらえるよう伝えておく。だから心配するな」
「ありがとう。優しいね、お兄さんは」
「これぐらいのことはしておかないとな」
久隆はそう告げて食べ終えた災害非常食のゴミを袋に入れいく。臭いがしないようにジップロックで密封できるものを揃えておいた。もちろん、ケルベロスのような犬には通じない手だが。犬は僅かな痕跡から、どう隠しても目的の物を見つけられる。まあ、それは訓練された犬に限るのだが。
それでも犬の嗅覚は馬鹿にできないし、他の魔物の嗅覚も馬鹿にはできない。
臭いのするものはその場に放棄していくか。あるいは密封して臭いを封じ込めるかだ。久隆も長期潜伏任務の際には敵の歩哨に見つからないようにゴミの処理には慎重になったものである。
ゴミひとつで命取りになる可能性があるのだから。
「では、行くぞ。疲れは取れたか?」
「うん。もう大丈夫」
「それならいい。また暫く進み続けるぞ」
久隆はそう告げてダンジョンを進み始めた。
また上層に上り、索敵を行う。
「リザードマン6体。ふむ。どうやらダンジョンも手加減してくれているらしいな」
久隆はこの階層のリザードマンに挑むことにした。
というのも、こういう状況で考えられるのは、エリアボスを倒した後の新地域に入った場合だからである。この階層の上にはエリアボスがいて、それを突破して、リザードマンの出没する新しいエリアに入ったから、魔物の数が少ないというわけだ。
これまでもそうだった。ダンジョンは様子見をする。最初には少数の魔物を配置し、それから本格的に魔物を増やしていく。そういう戦術を取る傾向にあった。
そうであるとすれば、上層のエリアボス──久隆はそれがケルベロスであり、そこでレヴィアたちと合流できることを望んだ──と戦う時にラルは連れていけない。この階層で待っていてもらわなければならない。
そのためにはこの階層を掃討する必要があった。
「ラル。ここに隠れていろ。すぐに戻ってくる」
「うん。気を付けて」
「ああ。任せろ」
久隆は斧を握り、リザードマンの足音のする方にゆっくりと向かっていく。
そして、下層と同じように仕留める。
最初のリザードマンは2体だった。久隆は背後から忍び寄り、リザードマンの頭を叩き割り、首を刎ね飛ばした。人工筋肉がもはやどうなっているのかは分からないが、久隆は装甲車並みの厚みと硬さのあるリザードマンの鱗を容易に叩き切った。
2体のリザードマンを仕留めた久隆は次に向かう。
次は4体のリザードマン。不意打ちで全て始末するのは恐らく困難。
だが、可能な限り不意は打つべし。
久隆はリザードマンたちの背後に回り込み進む。
リザードマンの武装はハルバード。ミノタウロスと同じ体格をしたリザードマンたちには軽々と持ち歩ける武器のようだ。
だが、この閉所では即応性に欠ける。
久隆はリザードマンの背後に忍び寄り、1体目のリザードマンの頭に斧を振り下ろした。リザードマンの頭が音を立てて割れ、他のリザードマンたちが一時的に混乱する。
久隆はその混乱した隙を突いた。
リザードマンの首を刎ね飛ばし、顔面に斧を突き立てる。
残り1体は久隆に真正面から向かってきた。
久隆に向けてハルバードを突きだし、連続した攻撃で久隆を狙う。その動きはミノタウロスよりも素早い。久隆はリザードマンの攻撃を回避しつつ、攻撃のタイミングを窺う。リザードマンは久隆を常に狙い続けており、隙は見えない。
だが、リザードマンが次にハルバードを突きだしたとき、久隆がハルバードの柄に回し蹴りを叩き込んだ。衝撃がリザードマンの腕に伝わり、リザードマンは思わずハルバードを手放す。それが攻撃のチャンスだった。
久隆は斧を振り上げ、リザードマンの頭に叩き込む。
リザードマンはその一撃で絶命し、果てた。
「よし。クリア」
久隆は他に敵がいないことを確認すると、ラルの下に向かった。
「ラル。この階層はもう大丈夫だ。俺は上を見てくる。待っていてくれ」
「置いていったりしない?」
「しない。約束する」
「分かった。待ってる」
久隆は下層にラルを待たせると、上層に上った。
そこは凍てつくような寒い場所だった。ダンジョン内に吹雪が吹き荒れている。
そして、その階層はとても広く、明るかった。
ダンジョンの中央には上層に向かう螺旋階段があり、その螺旋階段の前には人型の何かが鎮座していた。久隆は慎重に様子を見ると、その階段の前に鎮座する人型の物体を目指して進んでいった。
久隆がある程度の距離に近づくと、その人型の何かの目が光った。
それは立ち上がり、久隆を目指して吹雪の中を突き進んでくる。
「畜生。なんだこいつは」
久隆は悪態を吐きながらも戦闘準備を整え、真っ白な巨人に向かっていく。
真っ白な巨人は両手を振り上げると、久隆に向けて振り下ろしてきた。
「図体の割に素早いな」
久隆は間一髪のところで攻撃を回避すると、巨人の背中に斧を突き立てた。
「生き物じゃない……?」
斧から伝わってくる手応えは肉を切り裂いたようなものではなかった。まるでアイスピックで氷を砕いたときのような感触だ。
巨人は背中にいる久隆を振り落とすと、また真正面から久隆と向かい合う。
突進してくる巨人を前に久隆はこの巨人の弱点を探った。
生き物ではない。何かしらの無機物──兵器だという可能性。
そうなると、首や頭を叩き切ったところで意味はない。狙うべきはもっと違う場所になってくる。しかし、それがどこなのか久隆には分からなかった。
「バラバラにしてやるか」
弱点が見つからなくても手足を切断し、行動不能にすればいい。
ただ、それだけの話だ。そう久隆は考えて巨人の突撃に応じた。
巨人は再び両手を振り上げて久隆を狙う。久隆はその攻撃を弾き飛ばした。
敵の攻撃は重かったが、退けられないほどではなかった。久隆は攻撃を退け、反撃に転じる。彼が狙うのは腕と胴体の接合部。
「まずは右腕」
久隆の斧が巨人の右腕を切り落とす。
巨人は悲鳴を上げることもなく、右腕を切り落とした際に動きの止まった久隆を掴むと壁に向けて叩きつけた。
「上等」
アドレナリンがドバドバと放出され、痛みが消える。
久隆はそのまま右腕を失った巨人に斬り込む。
巨人は左腕を上げて攻撃しようとするが、その前に久隆の斧が左腕を切断した。ひじから先がなくなった巨人は必死になって腕を振り回すが、それを軽くいなして、久隆は根本から左腕を切り落とした。
巨人にできるのはもはや蹴りによる攻撃のみ。そう思われた。
「お兄さん! 危ない!」
ラルの声が響いたと同時に、久隆に向けて氷の槍が飛来した。
「畜生。そう簡単にはいかないってか」
巨人の胸が赤く光り、そこから氷の槍が生成され、久隆を狙ってきた。
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