乱戦の予感
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──乱戦の予感
「チョコレートだ。食っておくといい。糖分で疲れがある程度取れる」
「ありがとうございます」
久隆は板チョコをウァレフォルたちに手渡した。
「次はモンスターハウスだ。以前のモンスターハウス攻略から考えて、相手に遠距離火力がある場合、可能な限り迅速に排除しないと痛手を被る恐れがある。もっとも連中には連携という概念がないのか、味方を巻き込んで魔法を撃ってくるが」
オークシャーマンにしろ、ゴブリンシャーマンにしろ、射線上に味方がいることを気にせずに魔法を放ってくる。まるで他の魔族に突撃を促すような督戦隊の機銃掃射のようだ。実際、それで魔族たちはさらに前方に進むのだから困ったものである。
「では、どのように?」
「オークシャーマンはサクラが潰す。オークロードはマルコシアが潰す。ピンポイントで確実に敵を潰せる魔術が必要になってくる」
現状、遠距離火力で敵を叩けるのはレヴィア、マルコシア、サクラの3名だ。そして、ピンポイントで相手を潰せるのはさらにマルコシアとサクラに限られる。
このふたりにオークロードとオークシャーマンの排除を任せる。
それが久隆の方針だった。
「前線はフォルネウスを加えて3人で支えるぞ。だが、味方に攻撃が当たらないように十二分に用心して攻撃しろ」
「了解」
57階層の廊下は他の階層の廊下よりやや広いとある。ということは、前線を支えるのはひとりでは困難ということだ。この広さの廊下ならば3人は必要だろう。
それだけで既に乱戦を予感させるが、ここを抜けなければ60階層にはたどり着けない。ケルベロスを相手にすることも、べリアの跡を追うこともできなくなる。
57階層をなんとしても突破する。
久隆たちはそう決意していた。
「では、休憩は終わりだ。57階層の攻略戦に入る。何としても突破するぞ」
「はい!」
体力と魔力を回復させた久隆たちは57階層の廊下をゆっくりと降りていく。
そして、すぐさま久隆が索敵に入る。
「重装ミノタウロス約20体、オーク約50体。内訳は流石に分からないが、オークロードがいることだけは間違いない」
「凄い数ですね……」
「さらに増える可能性もある」
モンスターハウスでは久隆の索敵も大まかな数しか把握できない。
「会敵予定地点はここだ。この廊下で相手する。フロアには突っ込まない。いいな?」
久隆は相手の数の有利が打ち消せる廊下での戦闘を選んだ。
「陣形は俺、フォルネウス、ウァレフォルが前衛。サクラはそのすぐ背後に。レヴィアとマルコシアは敵の隊列後方を狙える位置に。フルフルは付呪を俺たちと突っ込んできた魔物にかけられるように。他2名は魔法使いの方はレヴィアたちの援護。騎士の方はサクラと同じ位置で万が一に備えてくれ」
「了解」
久隆たちは久隆の指示通りに展開する。
「フルフル。今のうちに付呪を」
「はい。『このものに戦神の加護を。力を与えたまえ。戦士に力を』」
「では、始めるぞ。鬨の声を響かせろ!」
久隆たちが雄叫びを上げる。
それと同時に一斉に魔物たちが動き出す。
「作戦通りにやれ。ここを通させるな」
「了解」
最初に突入してきたのは重装ミノタウロスだった。
武器は長剣。だが、盾はない。
「『我が敵の守りを蝕み、錆びつかせよ!』」
フルフルがミノタウロスたちに付呪を叩き込む。
それと同時に久隆は重装ミノタウロスの胴体に一撃加えると、他のミノタウロスを巻き込んで一斉に重装ミノタウロスたちが倒れていく。
「レヴィア!」
「了解なのね! 『降り注げ、氷の槍!』」
今回はマルコシアは不参加だ。彼女にはオークロードを叩いてもらわなければならない。レヴィアの攻撃が広範囲攻撃である以上、ピンポイントで狙った相手を仕留められるマルコシアの魔法は貴重だ。
重装ミノタウロスに氷の槍が次々に突き刺さり、9体が瞬く間に壊滅した。
「ぼーっとするな! 攻撃しろ!」
「りょ、了解!」
久隆の戦いぶりに見せられていたフォルネウスたちが行動する。
重装ミノタウロスは仲間が大勢やられてもお構いなしに突っ込んでくる。久隆、フォルネウス、ウァレフォルたちがそれを食い止める。
久隆は斧でミノタウロスの頭を潰し、フォルネウスとウァレフォルは短剣で相手の急所を突き刺していく。時折、フォルネウスの魔法剣が炎を吹き出し、重装ミノタウロスの頭部を焼き上げる。
重装ミノタウロスが終わりに差し掛かった時、重装オークが突っ込んできた。
「オークロードとオークシャーマンは!?」
「まだ未確認です!」
「用心しろ。決して気を抜くな」
久隆は自分にも言い聞かせるようにそう告げると、突っ込んできた重装オーガに同じように突っ込んできた重装ミノタウロスを蹴り飛ばして叩きつけた。
カオスだ。
重装ミノタウロスの巨体が重装オークたちを押しつぶしながら吹き飛んでいき、壁に衝突する。重装オークたちはノックアウトされており、倒れたまま動こうとしない。
「フルフル、付呪だ! レヴィアはその後に叩き込め!」
久隆の指示でフルフルが重装オークたちに防具劣化の付呪をかけ、上空から氷に槍が降り注ぐ。それによって、一気に1体の重装ミノタウロスと12体の重装オークが死んだ。
「敵はまだまだ来るぞ。気を抜くな」
久隆の言ったように重装オークたちは次々に押し寄せてくる。
「オークシャーマンです!」
「やれ!」
そして、全身に入れ墨のあるオークが姿を見せたと同時にサクラが矢を放つ。
矢はオークシャーマンの頭を貫き、即死させる。
「フォルネウス、ウァレフォル! テンポを上げていくぞ!」
「了解!」
久隆たちは次々に押し寄せる重装ミノタウロス相当の重装オークたちを叩き潰し、貫き、切り裂き、仕留めていく。重装オークは無限にいるのではないかと思うほど湧き出してきており、久隆たちも息が上がってくる。
「オークシャーマン!」
幸いなことにオークシャーマンは確実にサクラが潰している。敵の魔法攻撃が久隆たちを襲うことはない。
「オークロードだ! マルコシア、潰せ!」
「『爆散せよ、炎の花!』」
重装オークたちに交じってオークロードが姿を見せたのに、すぐさまマルコシアが攻撃を叩き込む。オークロードの頭ははじけ飛び、地面に崩れ落ちていった。
「いいぞ。重装オークどもが弱体化した。一気に畳め!」
久隆たちが一転して攻勢に出る。
フルフルは防具劣化の付呪を再び行使し、レヴィアは魔法を叩き込み、久隆、フォルネウス、ウァレフォルは重装オークを叩き潰しながら前進していく。
57階層の乱戦が終わったのは、戦闘開始から30分後のことだった。
「さ、流石に疲れました……」
「俺もだ。こいつはやばかったな」
重装オークを重装ミノタウロス並みの戦力にするオークロードがいつまでも隠れているのが面倒なことだった。あれさえもっと早く潰せていれば、この階層の戦いはより楽なものになっていたのだが。
「しかし、妙だな。まだ何かいる気配がする」
足音はしない。鎧の音もしない。魔物であれば真っ先に向かってくるはずだ。
「気を付けながら進むぞ。何が起きてもおかしくない」
そう、何が起きてもおかしくはなかったのだ。
久隆の視界が暗転したのはモンスターハウスのフロアに入った時だった。
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