56階層での腕試し
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──56階層での腕試し
56階層に降りてすぐに久隆は索敵を始めた。
「重装ミノタウロス6体、オーク13体。うち1体はオークロードと思われる」
久隆はそう告げてレラジェたちの作った地図と振動と音の発信源の位置を大まかに合わせる。ダンジョンは相変わらずの迷宮だが、いくつか開けたフロアがある。久隆はそこにオークたちが集まっていることに察しをつけた。
「まずは無人地上車両の展開だ。敵の装備と位置を正確に知ろう」
久隆はそう告げて無人地上車両を発進させる。
無人地上車両はまずはフロアに向かい、そこで重装オークとオークシャーマン、そしてオークロードが集まっていることを確認した。
「オークロードを視認。オークシャーマンもだ。重装オークは11体。索敵通りだ。装備は手斧。面倒な武器を使ってくるな」
久隆は次に重装ミノタウロスを探す。ダンジョン内の音と振動を頼りに、重装ミノタウロスの概ねの位置を掴む。
「いた。重装ミノタウロス6体。武器はハルバード。オークとの位置は十分に離れているが、乱入してこないとは限らないな」
久隆はそれだけの確認を終えると、無人地上車両を撤収させた。
「さて、これからオークたちを相手にする。こちらから仕掛けていく。奇襲は数の不利を覆す要素だ。オークたちを奇襲して、一気に壊滅に追い込む。向こうから仕掛けてくるのを待ったりはしない。いいか?」
「了解です」
指揮官の性格も把握しておくべき要素のひとつだ。
攻撃的な指揮官。慎重な指揮官。指揮官がどのような戦術を好み、どのような戦術を嫌うのかを把握しておくことも必要だ。それも相互理解に繋がる。
国同士の演習では、これは士官教育の表れとしてみなされる。その国がどのような士官を育成しており、どのような戦略方針に士官たちの戦術を組み込んでいるかを知るのは、国家同士の合同作戦の上で需要な要素だ。
国家は国防方針という大きな柱があり、それを国防戦略が支え、さらには戦術が組み込まれている。戦略なき、戦術はない。そして、国家同士が手を携えるときには、お互いの作戦目標と戦略の一致が望まれる。
東南アジアにおいては現地政府軍に対する援助と空爆。海賊と民兵の積極的撃破が戦略だった。その方針は一先ずのところ現地政府とも日本政府とも共有していた。海賊が実際に行動に移ってから排除するのではなく、港にいるときに撃破してしまう。
このダンジョンにおいては元の世界に帰ることが目的であり、ダンジョンの拠点を移しながら、久隆たちの支援を受けつつ、ダンジョンコアに迫るのが戦略だ。
その方針はちゃんと共有されている。
このように合同作戦と一口に言っても、やらなければならないことは山ほどあるのだ。ただ、軍と軍と足せばいいだけの話ではない。
「奇襲が重要だ。隠密で行くぞ」
久隆は攻撃的な指揮官であると言えよう。
隠密からの奇襲を好む攻撃的な指揮官。
特殊作戦部隊では珍しいものではない。彼らはイギリスの特殊空挺部隊がモットーとするように『挑戦するものが勝利する』というモットーにして原則を守っているのだ。そう、戦争では攻撃するものが勝利する。
サッカーで果敢にボールを取り、ゴールに向かうチームが点を獲得し勝利するように、戦争でもボールを握っていなければならない。そして、ボールを握るためには攻撃を行わなければならない。
特殊作戦部隊は基本的に少数精鋭だ。彼らが攻撃を仕掛けるのは大量の敵軍であり、数の不利が生じる。それでも攻撃を仕掛けなければ、戦争には勝利できない。
久隆たちは隠密で息を殺し、敵の背後に忍び寄って喉笛を捌いた。そして、そのまま敵陣深くに忍び込み、爆撃を誘導したのである。
久隆たちは挑戦した。だから、勝利していた。
そのために久隆は攻撃的な指揮官だった。隠密をしながらも、敵は殺す。もちろん、久隆たちとて民兵や海賊が定時報告で異常がないか探っていることは理解している。それでもなお、敵の報告の合間を縫って攻撃し、勝利を掴んできたのだ。
「目標視認。フルフルの付呪ののち、レヴィアたちは魔法攻撃。それから俺とウァレフォルで突っ込む。フォルネウスたちは後方警戒。サクラはオークロードとオークシャーマンを始末しろ」
「了解」
久隆の指示で手早く部隊が動いていく。
ウァレフォルの部下はまだ動きに鈍いところがあるが、今のところ命令は伝わっているし、彼らがそれに反抗しようという動きは見せない。
一応の信頼は得られているのか? と久隆は考える。
「『このものに戦神の加護を。力を与えたまえ。戦士に力を』」
「よし。助かる。レヴィア、マルコシア。3カウントで叩き込め」
久隆はそう告げて斧をしっかりと握る。
3──2──1──。
「行け、行け!」
久隆が合図して久隆とレヴィアたちが飛び出る。
「『吹き荒れろ、氷の嵐!』」
「『爆散せよ、炎の花!』」
奇襲されたオークたちに一斉に混乱が広がる。
「サクラ!」
「はい」
サクラはオークロードをコンパウンドボウから放たれた一撃で撃破した。
「ウァレフォル! 突っ込むぞ!」
「了解」
敵が混乱から立ち直っていない間に久隆たちが突っ込む。
重装オークの頭を叩き割り、眼球を貫き、致命傷を負わせながら久隆たちが突撃を継続する中、オークシャーマンが攻撃を放とうとしていた。
「やらせません」
サクラの矢がオークシャーマンの頭を貫き、即死させた。
戦闘は継続し、重装オークたちは混乱から立ち直れないまま、殲滅されつつあった。
だが、ここで敵に援軍が現れる。
重装ミノタウロスだ。
重装ミノタウロスは雄叫びを響かせると、久隆たちに向けて重装オークたちを押しのけて突撃してきつつあった。
「ウァレフォル。重装オークたちの相手は今はいい。向かってくる敵を叩け」
「了解」
重装ミノタウロスを前にウァレフォルの額に汗がにじむ。
「一気に叩くぞ。レヴィア、マルコシア! 後方に魔法攻撃!」
「了解なのね!」
向かってくる重装ミノタウロスの後列で氷の嵐が吹き荒れ、爆発が生じる。
「行くぞ、ウァレフォル!」
「はい!」
重装ミノタウロスに久隆たちが突撃する。
敵は1体、また1体と久隆によって屠られる。同時にウァレフォルも重装ミノタウロスを始末しつつあった。短剣で首が狙えないなら眼球から脳を狙えという久隆の教えを実践している。頭蓋骨で唯一守られていないのは眼孔だ。
6体の重装ミノタウロスは徐々に数を減らし、最後の1体が重装オークとともに突撃を行ってくる。
「畳むぞ」
久隆はミノタウロスの攻撃を躱し、脇腹に回し蹴りを叩き込む。衝撃で揺さぶられたミノタウロスが重装オーガと衝突し、2体がノックアウトされる。
ウァレフォルもその隙に重装オークに向けて短剣を突き立て、仕留めた。
最後は久隆が倒れた2体の頭を叩き割って終わった。
「こんなものか。だが、次はモンスターハウスだ。油断するな」
「了解です」
そう告げるウァレフォルの息は上がっていいた。
「その前に休憩といこう。モンスターハウスには万全の体制で挑まなければな」
久隆はそう告げて床にマットを敷いた。
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