弱体化させるか、強化するか
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──弱体化させるか、強化するか
51階層の戦闘が終わり、久隆たちが52階層に続く階段の前に集まる。
「重装ミノタウロスはフルフルの付呪で防具を劣化させるべきか。それともレヴィアたちを強化してもっと強力な魔法で攪乱するか、だ」
久隆は今回戦った重装ミノタウロスとの戦いの選択肢としてそう示した。
久隆たちだけに付呪をかけるのはフルフルでも余裕がある。では、もうひとつ付呪をかけるとして、対象をどれにするか。
重装ミノタウロスの防御力そのものを劣化させるのか。それともレヴィアたちの魔法の火力を上げるのか。
「私としては防御力を劣化させる方がいいかと。そうすることで久隆さんたちの攻撃も入りやすくなりますし、レヴィア陛下たちの魔法も効果を上げるかと」
「レヴィアもそう思うのね」
確かにレヴィアとマルコシアの火力を上げるより、重装ミノタウロス全体の防御力を落とした方が効率はいい。久隆たちの攻撃も通りやすくなるし、レヴィアたちも魔法も自然と威力を増すだろう。
「だが、付呪を施す対象は増えるぞ。大丈夫か?」
久隆は懸念を持ってそう尋ねる。
「大丈夫です。あれから魔力は大幅に伸びたんですから」
「なら、いいが。俺にステータスは読めないからな」
久隆はそう告げて首を横に振る。
「本当なの、久隆。フルフルの魔力はとっても伸びてるの!」
「だからと言って、あまり無茶はさせられん。フルフルのためでもあるし、この捜索班のためでもである。フルフル、全ての重装ミノタウロスに付呪をかけようとしなくてもいい。できれば半数。それだけ潰せれば、後はどうとでもなる」
レヴィアが両手をいっぱいに広げると、久隆はそう告げた。
「……私は信頼してもらえませんか?」
「信頼している。だからこそ、お前のためを思っての命令だ。フルフル。お前は責任感がある。人一倍責任感がある。だが、それが危ないんだ。そして、そんなお前に重責を背負わせてしまっていた俺も悪い。倒れるようなことになってしまったのだから」
「久隆さんは悪くは……」
「いや。部下のことはなんであろうと俺の責任だ。それに実際、お前を当てにしすぎた作戦を乱発したのも事実だ。少しは俺にも反省させてくれ」
久隆はフルフルに無茶をさせすぎたことを後悔していた。フルフルが捜索班の要だと思っていたのに、その要を使い潰そうとしてしまったのだから反省しなければならない。
「フルフルにはいざという場合にも備えておいてもらいたい。付呪は強力だ。危機を切り抜けるカギになるかもしれない」
「……分かりました」
フルフルも最終的には納得した。
「では、今後は戦闘前に俺とフォルネウス、サクラに付呪を。そして、重装ミノタウロスが集まってきたら半数程度に防具劣化の付呪を。頼むぞ」
「はい」
「よし。では、次に挑もう。徐々にだが、重装ミノタウロスの脅威がどの程度か分かってきたからな。55階層での戦闘計画にも助けになりそうだ」
久隆たちは52階層に降りる。
「重装ミノタウロス18体。さて、どう処理していくべきか」
久隆はレラジェたちが調べていた地図と音と振動のあった位置を大まかに重ねる。
「ここに行き止まりの道がある。退路はなくなるが、挟み撃ちにされるリスクはない。上層の戦闘でフルフルの付呪があれば重装ミノタウロスを突破できることは分かった。ならば問題はないだろう。それにこの廊下なら重装ミノタウロスを2体ずつ相手にできる」
地形を活かすのは戦争の基本だ。
敵の移動が制限される地域で戦うことは重要だし、勝機を生む。川、高台、谷、都市部、森林地帯、舗装された道路。そういう地形を把握しておくことは重要だ。勝利を求めるならば、まず自分の立っている場所を知り尽くしておくことだ。戦場は将棋盤のように真っ平ではない。
ダンジョンも同じだ。通行が制限される廊下。開けたフロア。曲がり角。行き止まりの通路。そういうものを把握しておくことは必要だ。
「この行き止まりに一番近い敵集団に攻撃を加えたら、一気にこの通路に入る。自然に他の場所にいる重装ミノタウロスたちも集まってくるだろう。そして、この行き止まりで応戦する。レヴィアとマルコシアはなるべく後方の敵を攻撃。前方の敵は俺とフォルネウス、サクラで押さえる」
「了解」
2列になって集まってくるミノタウロスを正面だけで相手にしてやる必要はない。久隆たちには遠距離火力としてレヴィアとマルコシアがいるのだ。彼女たちを活用しない手はない。
「フルフルの防具劣化の付呪は相手が半数ほど集まった時点で使ってくれ。全部集まるのを待つ必要はないし、なんなら半数集まっていなくてもいい。連続して使用する必要もないからな。いざという場合は俺が合図をする」
「はい」
フルフルの付呪のタイミングは敵の半分──9体が集まった時点で、だ。その時点でフルフルが防具劣化の付呪を重装ミノタウロスたちにかけ、久隆たちは半数を一挙に屠っていく。その予定だ。
残り半数は51階層の戦いのように純粋な肉弾戦だ。敵に打撃を与え、切り倒し、叩きのめす。もしも、戦闘が激化し、支援が必要ならばフルフルに支援を頼む。フルフルは酷使はできないが、彼女を全く頼らないというのは彼女の自信を傷つけるだけだ。
「では、行くぞ。作戦開始」
久隆たちは足音を立てずに、ひっそりと重装ミノタウロスに近づいていく。
基本的に鎧付きの魔物は見つけやすい。鎧同士がこすれる金属音が響いているからだ。鎧の音を追っていけば目標までは容易に辿り着ける。
「目標視認」
4体の重装ミノタウロスが進んでいるのを久隆たちは確認した。
「フルフル、付呪を」
「はい。『このものに戦神の加護を。力を与えたまえ。戦士に力を』」
「よし。レヴィア、マルコシア。3カウントで魔法を叩き込め。その後、俺とフォルネウスが殴り込む。サクラは援護だ」
久隆は斧をしっかりと握る。
3カウント。
3──2──1──。
「いけ、いけ!」
「任せろなの!」
久隆たちが一斉に重装ミノタウロスの背後に飛び出る。
「『吹き荒れろ、氷の嵐!』」
「『爆散せよ、炎の花!』」
重装ミノタウロスを魔法が襲う。
重装ミノタウロスに一瞬の混乱が生まれたとき、久隆とフォルネウスが殴り込んだ。
久隆は重装ミノタウロスの頭を叩き割り、フォルネウスは顔面に突き刺した短剣を燃え上がらせる。マルコシアの攻撃も含めてこれで一気に3体を仕留めた。
「離脱! 予定地点に向かえ! 急げ!」
「はいっ!」
1体だけ残された重装ミノタウロスが久隆たちを追おうとするが、サクラが顔面を射抜いて仕留めてしまった。だが、騒ぎの音を聞きつけた重装ミノタウロスが押し寄せてくる音が響いてくる。
残り14体の重装ミノタウロス。
久隆たちは予定地点で魔物たちを待ち構える。
「来るぞ」
重装ミノタウロスが押し寄せてきた。
武器は上層と同じハルバード。筋力のあるミノタウロスにとっては最高の武器らしい。だが、このダンジョン内で振り回すには些か大きい。隙が生まれる武器だ。隣にいる味方にも気を付けなければならないのだから。
「5、6、7。今だ、フルフル。付呪を」
「『我が敵の守りを蝕み、錆びつかせよ!』」
これで半数の重装ミノタウロスの防御力が落ちた。
「作戦通りだ。作戦通りにやれ。上手くいくはずだ」
久隆はそう告げて斧を握り、構える。
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