鋼鉄の牛頭
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──鋼鉄の牛頭
アガレスに援軍の約束を取り付けると、久隆はレヴィアたちの下に戻ってきた。
「昼飯を食ったら、51階層に潜る。重装ミノタウロスがどの程度のものか見定めないとな。それによっては脅威判定も変わってくる」
「了解」
久隆は重箱を広げ、おにぎりや唐揚げなどをもりもりと貪っては麦茶で流し込む。早食いと早寝は軍隊で必須のスキルだが、久隆はひとりで食べ過ぎないようにペースを落としている。レヴィアたちは味わって食べているのだ。
「さて、51階層に向かうぞ。新しい敵だ。用心してかかれ」
「了解」
久隆は空になった重箱をバックパックに収め、51階層に続く階段を下る。
51階層に到達したと同時に久隆は索敵を始める。
「ミノタウロスよりやや重いものが14体。これが重装ミノタウロスか」
久隆は索敵で重装ミノタウロスの数と位置を概ね把握した。
「どうします?」
「接敵ギリギリまで隠密で行く。そして交戦前にフルフルは身体能力ブーストの付呪を。重ね掛けはしなくていい。場合によっては防具劣化の付呪を頼む。レヴィアとマルコシアは魔法で敵を攪乱」
「分かりました」
作戦はいつも通りだ。今回は敵が一種類の上、分裂したり、遠距離火力を保有したりしていない。ある意味ではやりやすい相手だ。
ただ、ミノタウロスというが強力な魔物であることは否定できない。それに加えて鎧まで纏っているのだ。これが脅威でなくして、何が脅威だと言うのか。
久隆はそんな不安を頭の片隅にしっかりと置き、音もなく進む。不安要素は常に頭においておくべきだ。前線指揮官たるもの、自分と部下の命に直接責任を負っているのだから。だが、その不安を表に出してはいけない。部下を不安がらせてはならないのだ。
常に最悪を想定する。まだ楽観的に運用できるまでに準備ができていない。ある程度戦術に目途が付けば、楽観的に運用することも可能だろうが。
「無人地上車両を使うぞ」
ある程度、重装ミノタウロスに接近すると、久隆はバックパックから無人地上車両を取り出し、タクティカルベストからタブレット端末を取り出す。
「さあて、どのようなものか」
久隆は無人地上車両を走らせる。
重装ミノタウロスはすぐに発見できた。
ハルバードを握ったがっしりとした鎧に覆われた牛頭。首元まではしっかりと防護されている。だが、兜は被っていない。顔面も剥き出しだ。
弱点はあるということかと久隆は頷く。
久隆は無人地上車両を回収し、ゆっくりと重装ミノタウロスに近づいていく。足音を立てず、気配を消して重装ミノタウロスに迫る。
「フルフル、付呪を。レヴィアとマルコシアは魔法攻撃準備」
「了解です」
フルフルが杖をかざす。
「『このものに戦神の加護を。力を与えたまえ。戦士に力を』」
「いつでも行けるの」
準備は整った。
「3カウント」
3──2──1──。
「行けっ!」
久隆とフォルネウスが飛び出す。
「『吹き荒れろ、氷の嵐!』」
「『爆散せよ、炎の花!』」
レヴィアは全体への攻撃を。マルコシアはピンポイントで1体を狙う。
重装ミノタウロスたちは攪乱され、動きに混乱が生じる。
「フォルネウス、行くぞ!」
「了解!」
久隆とフォルネウスが混乱している重装ミノタウロスに突撃する。
だが、重装ミノタウロスが混乱から立ち直るのは早かった。
彼らは久隆たちをしっかりと見据え、ハルバードを構える。
そして、その巨大なハルバードを振り上げ、久隆たちめがけて振り下ろしてきた。
フォルネウスは間一髪でそれを回避し、久隆の方は振り下ろされたハルバードに回し蹴りを叩き込んで衝撃を与える。ハルバードを経由して伝わった衝撃が、ミノタウロスの腕に響き、ミノタウロスが思わずハルバードを手放す。
「フォルネウス、怯むな! 動きはミノタウロスと変わらない!」
「了解!」
鋼鉄の鎧に重圧を感じるが、動きはミノタウロスのままだ。進化していない。ならば、今まで戦ってきた経験を活かせる。
素早い重装ミノタウロスの動きに応じるように素早く久隆は重装はミノタウロスの頭を斧で叩き割る。ミノタウロスは悲鳴を上げて倒れ、次のミノタウロスが押し寄せる。
「援護します」
サクラはそう告げて後方の重装ミノタウロスを矢で仕留める。武器とともに進化したサクラの放つ矢は重装ミノタウロスの顔面を容易に貫通し、頭を完全に貫いて、息の根を止める。
「ナイスショットだ、サクラ」
久隆は次々に押し寄せるミノタウロスを狩り続ける。
1体、2体、3体、4体。
時折攻撃が重装ミノタウロスの固い鎧に阻まれることもあった。鎧は久隆の斧でも表面をへこませることぐらいしかできず、その強度はかなりのものだった。
「頭だ、頭を狙え。レヴィアとマルコシアは再度魔法攻撃を」
「任せるのね!」
久隆たちが一度重装ミノタウロスに斬撃による衝撃を与えてから、魔法の効果範囲外に離脱する。
「『吹き荒れろ、氷の嵐!』」
「『爆散せよ、炎の花!』」
レヴィアの魔法は重装ミノタウロスたちを混乱させ、マルコシアの魔法は1体を確実に仕留めた。だが、まだまだ重装ミノタウロスはいる。まだ14体中半数を撃破したに過ぎない。戦いはこれからだ。
久隆は斧を握りしめ、体をばねにして重装ミノタウロスの懐に飛び込む。そして、頭を叩き割り、その勢いで次の重装ミノタウロスを狙う。
重装ミノタウロスは自分の腕を盾代わりに使ってきた。斧の刃は通らず、弾かれる。だが、重装ミノタウロスも攻撃を受けて何も影響を受けなかったわけではない。久隆の重い打撃を受けて、腕がしびれ、ハルバードを構えられない。
その隙を突いて久隆が重装ミノタウロスの頭を叩き割る。
「やはりこちらの攻撃が通らないというのは面倒だな」
久隆は次の重装ミノタウロスと対峙しながらそう呟く。
「付呪はいいですか!?」
「大丈夫だ! なんとかなる!」
フルフルの付呪は温存しておかなければ。これから55階層の威力偵察もあるのだ。
55階層では重装ミノタウロスの他にオークロードやオークシャーマンが出没する。だからこそ、重装ミノタウロス程度で躓いてはいられないのだ。
頭を狙った一撃。
鎧を着ていても衝撃は通ることが分かった今、久隆はそれに加えて足技を組み合わせていた。重装ミノタウロスのハルバードや胴体、手首に蹴りを叩き込み、衝撃を与えて動きが鈍った隙に致命的な攻撃を叩き込む。
足にかかる負担はほとんどない。久隆の足はどうやら金属板を蹴り飛ばしても、全く問題ないほどに強化されてしまっているらしい。
久隆は足技と斧による攻撃を組み合わせ、重装ミノタウロスを次々に屠る。
「クリアだ」
戦闘開始から15分。重装ミノタウロス14体は全滅していた。
「重装ミノタウロス、か。ちとばかり厄介な敵だな」
久隆はそう呟いた。
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