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どこまで深いのか?

……………………


 ──どこまで深いのか?



 久隆たちが地上に戻ると時計の時間とほぼ同じと思われる夜中だった。


「朱門、患者だ」


「おう。それにしてもまた今回は長く潜っていたな。それとも時間のずれか?」


「ずれだろうな。何日潜っていた?」


「4日だ。流石に不味いんじゃないかと思い始めていたところだ」


「畜生。本当にずれがあるな」


 1日潜ったつもりが、4日になっているとは。


「怪しまれてはいないか?」


「お前の留守中に客が来たけど、お前の人形と話して帰っていたぞ」


「それならいいが。客人は年寄りか?」


「ああ。孫がどうのこうのと言っていた」


「世間は夏休みだからか」


 久隆はグラスに麦茶を満たして飲み干す。


「というか、接客ならお前がやってくれよ。年寄りと何を喋ったのか分からないと、俺が後で困るんだが」


「会話の内容なら分かりますよ」


「本当か、フルフル?」


「ええ。再生してみましょう」


 フルフルはそう告げて模造人形に杖をかざす。


「4日間の会話を再生」


「『久隆さん。孫がね。久隆さんの裏山でドローンを飛ばしたいっていうんだ。久隆さんもドローンを飛ばしていただろう? ここら辺は飛行制限とか何やらで飛ばせないから、久隆さんの裏山を借りたいんだ』『申し訳ない。裏山は今土砂崩れを起こしていて危険なんです。ドローンを飛ばしていたのもそれを調べるためで』『そうなのかい? それじゃあ、仕方ないね。久隆さんも気を付けて』『ええ。それではいい一日を』」


「こういうことだそうです」


 フルフルはそう告げて模造人形を消した。


「しっかり会話しているな。それも嘘までついている」


「いざという場合にには要人の影武者にするほどのものですからね。抜かりないです」


「そいつは最高だ」


 フルフルの技術はやはりなくてはならないなと思う。


「久隆様。衰弱したものたちは?」


「そうだ。朱門。患者だ。50階層で蜘蛛に囚われていた魔族を救出した。酷く疲弊している。どうにかしてほしい。頼めるか?」


 久隆が朱門にそう告げる。


「あいよ。お前はすぐに衰弱した魔族を拾ってくるな」


「好きで拾っているわけじゃない。一応ダンジョン内にも回復魔法使いがいて、それが凄まじい力を持っているんだが、あいにく魔力の関係でそこで酷使できない。あそこは救急外来といったところだ」


「そうかい。なら、まずは患者を病室に運んでくれ。まずは診察だ」


 朱門は魔族たちを病室となっている部屋に迎え入れると診察を始めた。


「さて、俺たちは俺たちで問題を抱えている」


「と、言うと?」


「あのダンジョンが何階層あって、攻略にどれほどの時間がかかるかだ」


 そう、久隆たちの目下の問題はそれだった。


 アガレスから400階層のダンジョンを10年がかりで攻略したという話を聞かされている。この超深度ダンジョンもそれぐらいのレベルであるならば、久隆も流石に攻略が難しくなってくる。


「50階層でアラクネクイーンが出てきているし、ミノタウロスも出現しているの。ここまで来たらそう長くはないはずなのだけれど……」


「具体的な指標はないのか? この手の魔物が出没したら折り返し地点だとか」


「分からないの……。ただ、べリアが単独で地下に潜ったということは、先はそう長くないはずなのよ。だって、400階層だとか500階層だとかあるダンジョンならば、べリアは地下に潜るのではなく、地上に助けを求めに行っていたはずだから」


「そうだな。確かにその通りだ。べリアの行動はこのダンジョンが馬鹿デカい代物ではないことを窺わせているな」


 べリアが無謀でなければ、地下数百層のダンジョンで最下層を目指そうとはしないだろう。少なくとも、彼女が正気ならば。


「だが、べリアはあの時点では自分の位置を把握することはできなかったのではないか? 自分が地下に近いと思ったから地下に潜った可能性も」


「それはないでしょう。超深度ダンジョンの最下層付近にゴブリン、オーク、オーガなどは出没しません。彼らの強化個体が出没するとしても、最下層付近ではありません。最下層付近は同じ人型魔物でも全身が鎧のような鱗に覆われているリザードマンやその強化個体。オオカミと人間を組み合わせたような魔物である人狼。途方もない回復能力を有する伝説の魔物である吸血鬼。そのような個体が出没します」


「ふうむ。となると、べリアはある程度自分の位置を特定できたのか」


 マルコシアの指摘に久隆が頷いた。


 マルコシアは流石は魔物に詳しいというだけあって、様々魔物についての知識があるようである。彼女の知識はこれからも活用していきたいものだと久隆は察しをつけた。


「だが、それはある意味では悪いニュースだ。俺たちはついこの間までゴブリンとオークの相手をしていた。ようやくミノタウロスの相手に変わってきたが、地下最下層まではもう少しばかり距離があるということになる」


「そうですね。ですが、ミノタウロスは中深度ダンジョンならエリアボスないし、最下層付近の魔物です。かなり深いところまでは来ていますよ」


「それはいいニュースだな」


 ミノタウロスは少なくともまだ浅い場所でうろうろしているわけではないという証なわけである。久隆たちは着実に地下に進みつつある。


「凄いの。マルコシア、そんなに詳しかったのね!」


「魔物については勉強しましたから。卒論は『ダンジョンにおける魔物の相関関係』というものだったんですよ」


 マルコシアが自慢げな顔をして応える。


「さて、ではそこから導き出されるこのダンジョンのおおよその深度はどれほどだ?」


「200階層はないと思います。ですが、それ以上のことは。これからミノタウロスがどれほど出没し続けるかによっても異なりますし、ミノタウロスの次に主力になる魔物の存在でも異なりますから」


「やはり、分からんか」


 先の見えない戦いほど辛いものはない。


 即応部隊(QRF)到着までの時間不明。脱出ヘリの到着までの時間不明。戦闘終了までの時間不明。終わりの見えない戦いは兵士たちを不安にする。弾薬は足りるのか? 敵はどれほど来るのか? 自分たちは生き残れるのか?


 終わりが見えていれば、ただただ戦うだけである。だが、終わりが見えないというのは士気に影響する。終わりのない戦闘というのは煉獄のようなものなのだ。


 永遠に続く苦しみ。それが兵士たちから戦意を奪い取っていく。助かる可能性を奪い取っていく。指揮統制に乱れを生じさせる。


 アガレスはこんな状態でどうやって部下を纏めているのだろうかと久隆は疑問に思った。彼の部下は戦意があり、指揮統率されている。一部の魔族は気が滅入っていたようだが、それはダンジョンの終わりが見えないことではなく、仲間を失ったことによる。


「あのダンジョンの終わりを知るために多少なりと強行軍をしなければならないかもしれない。だが、それに俺たちが耐えられるかだ」


 久隆はそう告げて全員を見渡した。


……………………

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