40階層への帰還
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──40階層への帰還
「レラジェたちはやはり糸で感づかれて、不意を打たれたのか?」
「ええ。その通りです。不意を打たれました。こちらの姿も足音も聞こえていないと慢心していたせいですね。これからはもっとよく、魔物について考えながら進まなければなりません。今回のことのように久隆様たちに情報も伝えられず、足を引っ張るだけになってしまうのでは偵察部隊としての役割が果たせていませんから……」
「お前たちはできる範囲でよくやっている。偵察部隊はもっとも危険な任務だ。全く分からないところに飛び込んでいくわけだからな。だから、無理はするな。無理に情報を集めようとはするな。危ないと思ったら引き返せ。危ないということも情報だ」
「はい。分かりました」
レラジェが頷く。
「では、引き上げるとしよう。ダンジョンが停止したら蜘蛛の巣はなくなるのか?」
「エリアボスの影響下にあったものは全て消去されます。エリアボスからの魔力供給を受けてこれらの品は存在しているわけですからね。そのエリアボスに魔力が供給されなくなれば、全て綺麗さっぱりと」
「そうか。拠点を50階層に移せるな」
久隆はレラジェとの会話を終えると、レヴィアたちの下に向かったレヴィアたちももう49階層に上がり、そこで救出作戦に当たった魔族たちと話し合っていた。
「レベルが上がったの? それは凄いことなの!」
「レヴィア陛下も限界突破されて……。流石です」
「レヴィアは魔王だからなの!」
上層の掃討戦を任せていた魔族たちはレベルが上がっているようだった。
今はまだ底が見えず、どれほどの戦力を投入するべきか分からず、無駄な犠牲を出すことを避けるために可能な限り、掃討戦に集中してもらっている魔族たちだが、レベルが上がり、ダンジョンコアを目指せるようになったら、彼らにも地下への捜索を手伝ってもらいたいものだと久隆は思った。
まあ、いずれの話だ。
無駄な犠牲を出して、魔族たちがまた精神的に追い込まれるようなことになるのは望ましくない。彼らはいざというタイミングで投入するべきだ。そして、今回はそのいざという時だった。またこのレベルのエリアボスが出没したら、手助けを願おうと久隆は思うのだった。
「レヴィア、40階層に戻るぞ。アガレスに勝利の知らせを」
「了解なの!」
久隆たちは上層に上るレラジェたちとともに40階層を目指す。
「アガレス。勝利したぞ。全員で勝利した」
「おお。それは。久隆殿、ありがとう」
パイモン砦にて久隆がアガレスに告げる。
「それで聞いておきたいことがある。超深度ダンジョンというのは、大体何階層ほどあるんだ? 50階層まで潜ったからもう少しで終わりなのか?」
「ふむ。ダンジョンはその深さで3つに分けられる。低深度ダンジョン、中深度ダンジョン、そして超深度ダンジョンだ。低深度ダンジョンは5階層から20階層まで。中深度ダンジョンは20階層から40階層まで。超深度ダンジョンは40階層からその先まで。終わりはない。40階層以上のものを全て超深度ダンジョンと呼ぶ」
「つまり、50階層ってのは始まりに過ぎないレベルだと?」
「残念だが、そういうことになる。我々はようやく超深度ダンジョンの基準を満たすエリアを突破しただけだと。だが、超深度ダンジョンでも60階層だったり70階層だったりすることはあった。何もまだまだ終わりが見えないというわけではない」
「そうか」
久隆はこの手の考えにおいて最悪を想定する。
100階層、200階層。そのレベルのダンジョンがあるのではないかと。
「3桁レベルの階層はあるのか?」
「……ある。難攻不落と言われたダンジョンがかつて存在した。その深度はなんと400階層に及び、最終階層のエリアボスにはドラゴンゾンビが存在していた」
「攻略できたのか?」
「できた。ただし、10年という年月を費やして」
「10年か……」
レヴィアたちには時間がない。
「無論、今回のダンジョンもそのレベルである可能性はある。だが、認めるわけにはいかないのだ。我々が数多の騎士団を投入して10年かけてようやく攻略できたダンジョンとここが同じようなものだとは」
「分かっている。俺としてもそこまでのものは手に負えない」
数週間匿うだけでも苦労しているのに10年などという時間が必要になれば、流石の久隆にも攻略できるか怪しくなってくる。
「だが、我々は着実に前に進みつつある。50階層は突破された。レラジェたちがコンディションを整えたら、60階層までの偵察に送り出すつもりだ。60階層を攻略出来たら70階層。久隆殿たちの進軍速度はとても早い。こういうことを言うのは一騎士団の長として申し訳ないのだが、騎士たちよりも久隆殿たちの方がダンジョンに適応している」
「まあ、経験があるからな」
海軍特別陸戦隊としての経験。
その経験があるからこそ、久隆はここに立っていられる。50階層までの道を切り開けている。閉所での戦闘。隠密戦闘。戦闘計画の立て方。全てにおいて、久隆はアガレスの部下たちより上だと言えるだろう。
軍隊としてのレベルが違う。
アガレスたちの世界も戦乱に見舞われた世界だったのだろうが、まだ使っている武器は剣や斧、そして現代の火砲とは威力の桁が違う魔法だ。
地球の歴史は殺し合いの歴史。戦争の歴史。奪い合いの歴史。血で記された歴史。
地球ではより強い国家こそが覇権を握り、世界を従わせてきた。より強きものが、より弱いものから奪ってきた。国家は生き残るために武装を進化させ、戦術を洗練させ、効果的な戦略と国防政策を打ち立ててきた。
生存競争の世界だ。人道だ、平和だ、国際協調だと言っても、最後の物を言うのは軍事力であった。ソフトパワーはハードパワー──軍事力と経済力の裏付けがなければ、効果的ではないことは分かっている。
地球はそうやっていがみ合い、殺し合い、奪い合い、生き残るためにあらゆる戦略を駆使してきた歴史があるからこそ、その軍事的な技術は非常に進歩している。ここ近年の軍学複合体によるハイテク技術を持ち出すまでもなく、地球の軍隊は血塗れの歴史の中で、確かな力を手にしていた。
アガレスの世界もそのまま殺し合いが続けば、いずれは地球と同じようになるだろう。世界の歴史から見れば、アガレスの世界の方が人間と魔族という相いれない様相を呈しているだけあって、急速に武装と戦術、戦略が進歩する可能性があった。
人間は必要があれば開発する。魔族もそうだろう。
銃が世界に生まれたのは必然だ。火砲が世界に生まれたのは必然だ。航空機が世界に生まれたのは必然だ。戦車が世界に生まれたのは必然だ。核兵器が世界に生まれたのは必然だ。どれも偶然の産物ではない。人が意志を持って生み出した必然の道具だ。
それが必要とされるから、それが発明できるから。
世界は進歩し続ける。いい方向にも、悪い方向にも。
人工筋肉。久隆の義肢の素材であり、強化外骨格の素材であり、アーマードスーツの素材であるそれも生まれるべくして生まれた。
遺伝子組み換え技術は世界的な食糧危機を目前に控えて急激に進歩したし、素材として生物の部位を使うという考えは前々から存在していた。人は遥か昔から、毛皮を剥いで防寒着に使い、弓の素材として使い、油を採取するために捕鯨を行った。
今さらそれに筋肉を取り外して、加工し、使おうと思っても目新しいアイディアではない。人類の歴史の大きな転換点とは言えない。
必要があれば開発される。開発可能ならば開発される。
戦術や戦略も同様だ。市街地という込み入った環境での戦闘を、都市の発達とともに強いられた人類は、市街地戦における戦術を生み出した。
そして、それは久隆の行ってきた海軍での任務にも応用されている。
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