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リンゴのウサギ

……………………


 ──リンゴのウサギ



「久隆ー!」


 久隆が家に戻ると、レヴィアがやってきた。


「どうした? フルフルの療養の邪魔はしてないだろうな?」


「してないの! それよりお昼ご飯は?」


「今日は冷やし中華だな。冷凍だがいいか?」


「冷凍? 氷の魔法なの?」


「似たようなものだ」


 久隆は冷凍の冷やし中華を冷凍庫から取り出し常温に置く。これで自然解凍されて、程よい解凍具体になったら食べられる。室温が28度の場合、10分もあればいい。温かったら冷蔵庫で冷ます。


「ところで、朱門は?」


「フルフルの様子を見に行ったの。ついて来ちゃダメだって言われたの」


「そうか。暫く待つとするか」


 久隆は何かあったのだろうかと少し不安になっていた。


「おう。久隆。お前に昼飯頼むの忘れてたわ」


 朱門がそう告げて療養者用の布団が敷かれている場所から出てきた。


「朱門、フルフルの容体は?」


「朝と昼で早々変わるか。要安静だ。だが、回復傾向にある。胃腸も弱っていないようだし、固形物を食わせても大丈夫だぞ」


「そうか」


 久隆はふうと一安心。


「しかし、どうしてレヴィアを連れて入らなかったんだ?」


「あの娘の性格というか、魔族におけるその嬢ちゃんの地位的に、部下であるあの娘は元気に見せようとするだろう? そういう見せかけの元気は困るんだ。ある意味では医者は患者を常に疑っているようなものだぞ」


「本当かよ」


「少なくとも俺は陸軍の兵士が仮病を使ったのを10回以上看破している。まあ、連中なりに休みたい理由もあるんだろうがな」


 自慢げに語る朱門を久隆は胡乱な目で見た。


「それで、今は会っていいのか?」


「いいぞ。それから俺の昼飯だが……」


「冷やし中華ならあるぞ」


「おお。冷やし中華か。いいねえ」


 朱門がそう告げて、ダイニングの方に向かった。


「さて、俺もお土産をフルフルに渡すか」


「お土産?」


「リンゴだ」


 久隆が青果コーナーで買ったのはリンゴだった。


 工場産の栄養素が組み込まれた遺伝子改変種。季節を問わず、常に出荷され続ける植物の実。その種は地面に植えても育たないように改変されている。


「おおー。美味しそうなのね」


「フルフルも流石にひとりでひとつは食べないだろうから、余ったらもらえ」


「そうするのね!」


 レヴィアは艶のある宝石のようなリンゴを見つめた。


「さて、果物ナイフは、と」


 久隆は果物ナイフを探し出すと、久隆はリンゴを洗い、リンゴを切り分ける。


 種を取り出し、6等分に切ったリンゴの皮を器用に切り、そして──。


「おお? ウサギ?」


「ああ。食欲のない病人にはこうやってリンゴを出すものだ。見栄えがいい」


 病人は食欲がないのが大抵だ。その場合、少しでも食欲を出させるためにウサギ型にリンゴを切るのはありふれたことであった。


 久隆としてはどうせ農薬も何も使われてない工場産のリンゴなので、皮ごと丸かじりしたいところだが、今のフルフルにはそういう元気はないだろう。


「さ、フルフルの見舞いに行くぞ」


「おー!」


 久隆とレヴィアはウサギ型に切られたリンゴを乗せた皿を持って、フルフルの病室になっている部屋に向かった。


「フルフル。調子はどうだ?」


「ああ。久隆さん。今はもう大丈夫です。すぐにでも戦線復帰できます」


「今はまだドクターストップがかかっているだろう。今はしっかり休め」


 久隆はそう告げてフルフルの隣に座った。


「リンゴだ。嫌いだったら申し訳ないが、よかったら食ってくれ」


「あ、ありがとうございます」


 シャクッとリンゴをフルフルが齧る。


「どうだ?」


「甘くて美味しいです。それに見た目もいいですね」


 フルフルは笑顔でそう告げた。


「久隆がね。フルフルは弱っていて食欲もあまりないだろうから、ウサギ型にしてくれたのよ。レヴィアも1個食べていい?」


「もちろんです、陛下」


 フルフルが恭しく、レヴィアにリンゴの皿を差し出す。


「うん! 美味しいの! フルフルもこれを食べて早く元気になってね!」


「はい」


 フルフルは残りのリンゴをシャクシャクと食べていく。


「フルフル。今回は俺のミスだ。すまなかった。もう少し配慮してやるべきだった」


「そんなことは……! 私のミスです。まだまだいけると強がってしまったので、こういうことになってしまいました。素直に報告していれば……」


「それを含めて責任を持つのが指揮官の役割だ。指揮官はそのために存在する。これからはフルフルの体調には気を配る。フルフルも何かあれば遠慮なく言ってくれ。責めることはしない。全員がちゃんと正しいことをしてるんだ」


「はい……」


 フルフルはようやく納得したようで、静かに頷く。


「……私、自信がなかったんです」


 フルフルが語る。


「やれ、主席卒業生だの、やれ、べリア様の右腕だのと言われてきましたが、本当にそれだけの腕前があるか疑問だったんです。私にできるのは付呪だけ。べリア様のように何種類もの属性魔法を操れるわけじゃない。付呪だけなんです。それで本当にこのまま進んでいけるんだろうかって、疑問に思っていて。自信がなくなって……」


 フルフルが言葉を漏らしていく。


「でも、ダンジョンに巻き込まれて、現状私だけが付呪で最上層を目指せると分かった時、初めて自分はこのために生きてきたんだなって思いました。このとき、命が尽き果てようと、最上層に向かって援軍を呼び、ダンジョン内の仲間たちを救うのが私の果たすべき使命だと分かりました」


 フルフルが微かに笑う。


「そして、その使命は果たせました。飛び切りの援軍を呼べたのですから」


 フルフルはそう告げて久隆を見る。


「期待に応えられるだけのことはしよう」


 フルフルに久隆はそう返すのみ。


「ところで、疑問だったんだが、べリアが50階層以降に潜っているとして、50階層にいるアラクネクイーンをどうしたんだ?」


「それなら一時的に退けたのだと思われます。べリア様にはそれを成すだけの力がおありでしたので。倒せないとしても、道は切り開けたのでしょう」


「つくづくひとりでダンジョンコアを目指しているのが惜しい人材だな……」


 べリアに追いつけたら、彼女は頼もしい戦力になってくれるだろうに。


「私も頑張ります。べリア様の本当の右腕になれるように。努力しなければ敬意も価値も勝ち取れませんからね」


「ああ。だが、今はしっかり休め。全てはお前が回復してからだ」


「はい」


 フルフルはリンゴをシャクシャクと齧って、甘さに満足したような表情を浮かべた。


 フルフルが復帰したら、いよいよアラクネクイーン戦になる。


 アラクネクイーンに勝利できるのか否か。


 なんとしても早くべリアに追いついて無謀な挑戦を止めさせなければと思うと同時に、急ぎすぎてまた誰かが倒れるようなことは避けなければと思う久隆だった。


 彼は誰も失いたくはないのだ。


……………………

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[良い点] 久隆さんがどんどんお母さんポジに…
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