マンティコア討伐に向けて
本日1回目の更新です。
……………………
──マンティコア討伐に向けて
「これでよし、と」
灯油を空き瓶に詰めながら、久隆が告げる。
「久隆、久隆。何してるの? ダンジョンにはいかないの?」
「ダンジョンに行く前にマンティコア対策だ」
現地に到着した際にすぐに罠が展開できるように、久隆は準備を始めていた。
罠はどれも簡単なもの。
縄に引っかかると釘が打ち付けてある木材が敵を襲うようなものから、灯油を詰めた瓶が割れ、そこに火が付くようなもの。前者はともかく、後者は火炎瓶に当たるので法律で禁止されている。だが、猛獣を相手にするのだから仕方ない。
「10階層まで潜るの?」
「今はまだ。10階層に行くには物資が必要だ。缶詰やなんかで凌げないこともないが、安定した活動を行うには物資が必要だ」
「いくの! 10階層に行くの! マンティコアを倒すの!」
「ううむ。そうしたいのはやまやまだ。10階層のエリアボスとやらが排除できれば、もっと大勢のお前の仲間が上に行けるだろう。だが、俺たちはまだ1階層でごたごたしてるところだ。10階層までいきなり乗り込むのは無理だ」
「じゃあ、今日は5階層までいくの!」
「そうだな。そろそろテンポを上げていかないとな」
いつまでも1階層でもたついているわけにはいかない。
ダンジョンは25階層以上あるのだ。
どんどん突破していかなければ、救出など夢のまた夢だ。
「15階層から地上まで3、4日。1日で4、5階層を突破。そう考えると5階層までは補給なしでも突破できるだろう。ただ、フルフルはただ走り抜けてきただけみたいだから、地図を作れないのが難点だな。ダンジョンの地図があれば救助しそこなうこともないのだが」
「それからフルフルの魔力の量にも限度があるの。もう魔力回復ポーションは使い切ってしまったみたいだから、今のフルフルでも15階層を3、4日で突破するのは無理だと思うの。少なくとも速度上昇の付呪をかけ続けて、突破するのは無理なの」
「難題だらけだな」
フルフルがどれほどの力が行使できるのかは分からないが、あの危険なダンジョンを15階層、3、4日で踏破したというのだから、それ相応の力があるのだろう。
しかし、そのフルフルとて、全力では行動できない。どれほど力が制限されているのかは分からないが、あまり期待し過ぎないようにしなければならない。
「な、何をしているのですか? ま、ま、まさか私を拷問するための道具を!?」
「違う」
久隆が黙々とトラップを作っているとき、フルフルがやってきた。
「マンティコアを倒すためのトラップを作っているの。久隆は器用なのね」
「そういえば、トラップでマンティコアを倒すと……。だが、本当にそんなことが可能なのですか……? マンティコアは確かに知性は高くはありませんが、そう簡単にトラップに引っかかるようなことがあるのでしょうか?」
「信じるの。きっと久隆ならやってくれるの」
「むううううう……。陛下はこの男のことを信頼し過ぎな気がします」
「だって、久隆は強いの。ステータスを見てみるの」
「ステータスですか」
フルフルが親指と人差し指で丸を作って、久隆の方を向く。
「レベル2……? な、なんですか、このレベル2なのに妙に高いステータスは!?」
「きっとこれからダンジョンに潜って魔物を倒していけばもっと凄くなるの」
「けど、魔力はゼロですね」
「この世界の人間はみんな魔力は持っていないみたいなの」
「だから、電気を? だが、その電気は一体どうやって発生させているのでしょうか。謎ですね。うーん……」
レヴィアとフルフルがそう告げ合う中、久隆は黙々とトラップ作りを進めていた。
「よし。今日もダンジョンに潜るぞ。昼飯もダンジョンの中で食う。そして、1階層より下を目指す。やれるところまで足掻いてみるぞ」
「了解なの!」
久隆はバックパックに弁当と水を収め、背中に山刀とバックパックを、太もものホルスターに軍用ナイフを、作業服のポケットにライトを突っ込み、それらが全てきちんとした位置に収まり、機能することを確認すると斧を握った。
「フルフル。お前に何ができるのか実際にやってみせてくれ。百聞は一見に如かずというからな。実際にこの目で見た方が分かりやすい。そして、それぞれの能力が把握出来たら今後の救出計画の具体案が見えてくる」
「わ、分かりました。本当に変わった人間ですね……。魔族を助けるなんて……」
フルフルはそう告げて頷く。
「それにしてもふたりとも動きやすい服装ってのはそれか?」
レヴィアは丈の短いスカートにスパッツ。そしてその上に半袖のブラウスを纏っている。フルフルの方は足のラインがはっきりと出るデニムのジーンズに最初から着ていたブラウスとローブ、魔女の三角帽子だ。
「お洒落をするなとは言わんが、素直にジャージとかでよかったんじゃないか?」
「陛下にも陛下に従うものとしてもみっともない格好はできません!」
「ジャージはみっともない格好じゃない。ちゃんとしたスポーツウェアだ」
久隆は狩猟で使用する作業着姿だった。色は誤射を防ぐために目立ちやすい青色。長袖、長ズボンで転んだりしても怪我をする可能性を防いでいる。久隆としてはこれに海軍時代のプロテクターがあればいいのだがと思っていた。
「まあ、いい。転んだりするなよ。一応応急手当のセットは持っていくが」
久隆はそう告げると作った罠を物置の中のカギのかけられる戸棚に仕舞った。火炎瓶などは迂闊に発見されると逮捕であるし、他の罠にしても見つかった場合の言い訳に困る。見つからないに越したことはない。
「トラップは持っていかないの?」
「トラップは物資が届いてからだ。明日から始める。流石にトラップになるような凶器や可燃物をダンジョンの中に放置するわけにはいかん」
今回行うのは威力偵察のようなものだと久隆は考えていた。
敵がどれほどのものかを見定め、どこまでなら突破できるかを知る。無茶な戦闘はせず、余裕を持たせた状況でどこまで行けるかを把握する。
それを確かめたうえで今後の計画を考える。
10階層のマンティコアがまず最初の目標だ。その前にそこに至るまでの道のりをしっかりと確かめておこうというわけだ。
「レヴィア、フルフル。準備はいいか」
「いつでも行けるの!」
「よし。じゃあ、行くぞ」
久隆たちは再び工事中の看板の横を通り、ダンジョンに入った。
「1階層には平均で何体ぐらいの魔物がいるんだ?」
「ランダムなの。いっぱいいるときもあるし、いないときもある。ただ、普通の魔物はいくら倒しても、6、7日間経過するとダンジョンコアが再生成するの。だから、ダンジョンから魔物がいなくなることはないの」
「マンティコアもか?」
「マンティコアはエリアボスだから再生成はされないの。その代わり膨大な富をもたらすの。けど、今のレヴィアたちに膨大な富は意味がないのね」
「それもそうだな」
久隆は頷きながら1階層の探索を始めた。
……………………




