47階層突破
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──47階層突破
「こっちは片付いた。レヴィアたちの方に向かおう」
「了解」
久隆たちは既に魔法の音も聞こえてこないレヴィアたちの方に向かう。
「久隆! ミノタウロスは倒せたの?」
「ああ。問題なく殲滅してきた。そっちは?」
「問題なしなの! 小さいのも大きいのも全部始末してやったの!」
レヴィアたちの前には金貨と宝石が積みあがっている。
「そいつは結構だ。この階層もついにクリアか。次は48階層だな」
「その前にフルフルを休ませてあげてほしいの。レヴィアと久隆の両方に付呪をかけ続けて、フルフルが疲れているの」
「そうか。なら、休もう」
久隆はマットを広げ、休める空間を作る。
「申し訳ありません……。もう少し進めると思ったのですが……」
「気にするな。お前に負担をかけていることは分かっていた。今は休め」
フルフルは久隆に付呪の重ね掛けの説明をするときに魔力を相当消耗すると告げていた。ならば、フルフルは相当な魔力を消耗しながら、それでいて作戦を続けたのだ。いくら魔力回復ポーションがあるからと言って、魔力を消耗した際の疲労感はなくならない。
「レヴィアとマルコシアも休め。お前たちも魔力を使っているだろう?」
「そうするの。あと2階層なのね……」
レヴィアはフルフルに膝枕してやり、自身も壁に寄りかかって休んだ。
「あたしもフルフルほどじゃないけど疲れましたー」
マルコシアもマットの上に横になる。
「フォルネウス。お前も休んでおけ。現状、レヴィアたちの盾になれるのはお前しかいない。お前が倒れたらレヴィアたちが危険だ」
「了解です」
フォルネウスも壁に寄りかかって休む。
「サクラ。疲労は?」
「ほとんど何も。海軍時代に巨大な牛頭の化け物の相手はしませんでしたけれど、これよりタイトな作戦は何度も体験していますから。海軍時代のことを思えば楽なものです。それにこの義肢も最近はやたらと調子が良くて」
「一度、朱門に見てもらっておけ。朱門は俺を診察したときに劣化の様子はないと告げていたが、お前も同じとは限らない」
「そうですね。見ておいてもらいましょう」
そこでサクラが久隆の顔を覗き込む。
「久隆さんはどうなんですか? 疲れてないんですか?」
「俺もお前と一緒だよ。海軍時代のことを思えば楽な作戦だ。無反動砲や対空機銃を積んだテクニカルに追いかけまわされることはないし、敵はカラシニコフを乱射してこない。それに加えて子供兵もいない」
「今は我々が子供兵を使う立場ですもね」
「そうだな。本当はこういうのは大人の仕事なんだが」
久隆はレヴィアたちを見る。
明らかに成人していると言えるのはフォルネウスだけで、他は子供にしか見えない。
久隆たちはあれだけ憎んだ子供兵を使う立場になったのだ。子供兵などいなくなればいい。子供兵を使うようなクズどもは滅びるべきだと思っていながら、自分たちがその立場になると状況を甘んじて受け入れてしまう。
これでは東南アジアの海賊を笑えないなと久隆は思った。
「俺たちは落ちるところまで落ちるのかもしれん」
「そうはなりませんよ。久隆さんがレヴィアさんたちとともに戦うのは、東南アジアの民兵や海賊のように使い捨ての駒として彼女たちを扱っているのではなく、あくまで彼女たちを助けるためですから。きっと報われます」
「そうであることを願いたいな」
子供兵はクソッタレだ。子供兵を使う奴は人間のクズだ。そう思い続けてきた。久隆たちが自分たちの仲間を殺した子供兵を殺すときには感情はフラットだった。ただの子供兵の集団を機関銃で薙ぎ払うときもフラットだった。
戦闘適応化ナノマシンは感情をフラットに保つ。どんなショッキングな光景を目にしようと、どれだけ悲惨な出来事が目の前で繰り広げられようと、自分たちがどれほど追い詰められていようと適度な緊張感を維持させるだけだ。
自分たちの数十倍の規模がある敵の集団に恐怖を感じない。子供兵の死体を見ても悲しみを感じない。子供兵を繰り出してきた民兵の幹部を目の前にしても怒りを感じない。
ある意味では虚ろだ。空っぽの入れ物だ。そこに色はなく、透明で、何もない。少なくとも戦闘適応化ナノマシンが作動している間はそうだった。
「子供兵、か」
久隆が最初に子供兵を殺したのはハーグから逮捕状が出ている民兵の幹部を拘束する作戦だった。航空支援は爆装した戦闘機が2機上空で待機し、VTOL機のエスコートとして2機の無人攻撃ヘリが同伴していた。
無人攻撃ヘリは着陸地点を機関砲とロケット弾で確保し、俺たちは一斉に幹部の屋敷に踏み込んだ。テクニカルは無人攻撃ヘリによって破壊され、敵に重装備はなく、いるのは民兵の幹部の近衛兵だけだった。
その近衛兵というのが子供兵だった。
久隆たちは事前に相手が子供兵を使っていることを聞かされていた。そして、それが脅威になることも知らされていた。相手はドラッグでハイになり、頭を着実に撃ち抜いて無力化しなければ、痛みを感じず戦闘を継続すると。
久隆は自分たちに似ているなと思った。久隆たちの脳に叩き込まれたナノマシンも痛覚をマスキングしている。痛いという感覚を『痛み』として感じるのではなく、別に感覚に置き換えて『痛み』を感知するものだ。
例えば、腕に銃弾を受けても悲鳴を上げて銃を落としたりしない。何かに少し引っ張られるような、そんな感触を覚えるだけだ。後はナノスキンスーツが止血とテーピングを行い、戦闘を続けられるように補助する。
そして、久隆たちはその子供兵を目の前にした。
久隆は迷わず子供兵の頭を撃った。子供兵は既に久隆たちにカラシニコフを向けていたのだから当然のことだと言える。久隆たちは子供兵を排除していきながら、前進を継続した。子供兵を殺し、進み、子供兵を殺し、進む。
そして、幹部のいる部屋にブリーチングチャージを仕掛けて、扉を吹き飛ばした。同時にスタングレネードが投げ込まれる。
久隆たちはその状況で乗り込んだ時、久隆は衝撃的なものを目にした。
まだ12歳ほどの少女。手には年代物のマカロフ。体には何も身に付けていない。
それが久隆たちに向かって銃口を向けようとしていた。
久隆は反射的に少女の頭を吹き飛ばした。
「う、撃つな。降伏する」
少女が死んだ後で目標の民兵の幹部がそう告げた。
そいつは全裸の少女の隣で同じように全裸でベッドの上にいた。
久隆はどうしてあの時、自分がその男を撃ち殺さなかったのか今でも疑問だった。
男は結局ハーグには引き渡されず、日本情報軍の一団がやってきて連れ去った。
久隆は情報軍の非合法な捕虜収容所で男が地獄のような目に遭っていることを望んだ。それだけを望んだ。
作戦終了後、戦闘適応化ナノマシンがオフになったとき、久隆はトイレに駆け込み、吐いた。腹に中のものを全て吐いた。自分がやったことが信じられなかった。無理やり拉致されて子供兵にされた挙句、あのような仕打ちをうけているなんて、と。
だが、それも最初の2、3回の反応だった。
久隆は慣れてしまったのだ。この世の地獄に。
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