46階層の分断作戦
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──46階層の分断作戦
休憩を終えて探索を再開する。
46階層に久隆がゆっくりと下り、索敵を始める。
「ミノタウロス9体。アラクネおよそ15体。いけるか……?」
いつの間にかテンタクルの反応はなくなり、ミノタウロスとアラクネだけが動くようになった。一応用心はしておくかと久隆は考える。
「テンタクルの反応はないが、休止しているだけかもしれない。用心してくれ」
「了解なの」
そして、久隆が無人地上車両で周辺の情報を探る。
ミノタウロスはハルバードを装備した個体が9体。北のはずれにいる。そこから南に向かうとアラクネたちが蠢いている。気味が悪くなる光景だ。
「上で告げた作戦通りだ。フルフルはレヴィアたちに付呪、それから俺に付呪の重ね掛け。レヴィアたちはアラクネと子蜘蛛を残さず殲滅し、俺とサクラはミノタウロスを殲滅する。いけるな?」
久隆が最後の確認を取る。
「任せておくの。やっつけてやるの」
「お任せを。ご期待に沿いますよ」
レヴィアとマルコシアがそう告げる。
「……始めても?」
「ああ。頼む」
「では。『賢きものよ、より多くの叡智を極め、力を得よ。賢者に力を』『このものに戦神の加護を。力を与えたまえ。戦士に力を』『このものに戦神の加護を。力を与えたまえ。戦士さらなる力を』」
フルフルが次々に付呪をかけていく。
「よし。準備完了だ。作戦開始」
「いくの」
久隆とレヴィアたちが別々の方向に向かう。
久隆は体内でのたうつ力を振るわなければという強迫観念と着実に作戦を遂行しなければという理性の狭間にあった。
「目標、捕捉」
久隆の眼球がミノタウロスの姿を捉える。
久隆は有無を言わさず、ミノタウロスに襲い掛かった。
突然の奇襲を前に、ミノタウロスたちに動揺が走る。
「まずは1体」
そのうち1体を久隆が斧で頭を叩き割って仕留めた。
「次の1体」
久隆にはミノタウロスのハルバードが止まって見えていた。それほどまでに久隆は加速していたのだ。久隆はミノタウロスのハルバードを蹴り飛ばすと衝撃でよろめいたミノタウロスの首を刎ね飛ばす。
「サクラ!」
「了解!」
次のミノタウロスに移るまでに生じる隙はサクラが埋めた。彼女が後方から矢をミノタウロスの眼球に突き立て、脳に矢が達したミノタウロスが地面に倒れる。
「重畳。このままま行くぞ」
久隆は地面を蹴って、まだハルバードを構えそこなっているミノタウロスに飛びかかる。ミノタウロスは慌ててハルバードを構えようとするが、遅い。久隆の斧がミノタウロスの頭を叩き割り、絶命させた。
その間にもサクラが久隆を攻撃しようとしているミノタウロスを攻撃。
まとめて2体が仕留められた。
これで残り4体。
しかし、ミノタウロスは恐怖しない。引きもしない。前進あるのみだ。
「サクラ。右手のをやれ。俺は左手のを潰す」
久隆はそう告げ、ミノタウロスに飛びかかる。
右手のミノタウロスは既に地面に崩れ落ちており、左手のミノタウロスが巨大な斧を振るって、久隆を真っ二つにしようとしてくる。
久隆はまずは危険な得物を持ったミノタウロスの手首を叩き切り、それからミノタウロスが反撃できなくなったところで首を引き裂いた。
「ラスト2体」
ミノタウロスは血気盛んに突撃してくる。
久隆は突き出されるハルバードを回し蹴りで叩き落とし、武器を失ったミノタウロスに飛びかかり、その首を刎ね飛ばす。一閃。ミノタウロスの首が転がり、死体が倒れながら消えて金貨と宝石に変わっていく。
もう1体は既にサクラが排除済みだった。
サクラの放った矢がミノタウロスの脳を貫き、ミノタウロスは痙攣しながら倒れ、そのまま消えていく。金貨と宝石を残して。
「この数ならば捌き切れるな」
「どうでしょう。ギリギリじゃなかったですか?」
「確かに」
やはり一歩間違えば死んでいた。
ふたりで9名は何とか相手できても、これから先も同じように勝利できるかは分からない。久隆たちはそう結論した。
久隆が一瞬状況判断を間違っただけで、サクラが数ミリ狙いをずらしただけで、戦闘計画は完全に狂ってしまう。戦争とは常に命がけの綱渡りのようなものだが、綱が揺れているのか、安全ロープはあるのかという違いはある。
確実に勝てる戦略と戦術を取ったからこそ、アメリカとソ連は第二次世界大戦に勝利したのだ。ただの偶然ではない。仮想戦記に描かれるような“もしも”を叩き潰し、確実さを重視したからこそ勝利したのだ。
彼らには挑戦するだけのカードがあり、挑戦して勝利することができた。
対する今回の久隆たちの戦いは確実とは言えない。
一見して綺麗に片付いたように見えるが、危ない場面は何度もあった。久隆はそれを力で強引にねじ伏せたが、それでは能がない。自分の中に蠢く暴力性と勝利に繋がる道を確実に、正確に結んでこそ、勝利は得られるというものだ。
「しかし、現状この危うい作戦に頼るしかない。他の手がない。このダンジョンで子蜘蛛の群れに襲われるなんて最悪だぞ」
「全くです。それで、レヴィアさんたちの方は?」
「上手くやっているようだ。悲鳴は聞こえない。詠唱も止まった。見に行こう」
久隆とサクラはレヴィアたちの方に向かう。
「久隆ー! サクラー! やっつけたの!」
「おう。よくやったな」
アラクネの動く振動はもうしない。
そして、レヴィアたちの前には大量の金貨と宝石が積み重なっていた。
「危険はなかったか?」
「フォルネウスは危うく噛まれるところだったの。それから小さいのがわらわら出てきて気持ち悪かったのー……」
「フォルネウスが? 大丈夫なのか?」
久隆はフォルネウスの方を向く。
「マルコシアが結界を展開するのに一時的に敵を食い止めなければいけなくなって。そのせいですよ。自分は無事に任務を果たしました。異常ありません」
「そいつは結構。だが、用心してくれ。俺たちは過去最高に危険な作戦に出ている」
久隆の方は一歩間違えればミノタウロスにミンチにされるし、レヴィアたちの方も一歩間違えばマヒ毒を食らって、全員があの世行きだ。
全く以てギャンブルじゃないかと久隆は思った。
「小休止後に47階層に降りる。もうすぐ50階層だ。どこかでレラジェたちが発見できるといいのだが……」
ここまでレラジェたちの痕跡は全くない。
レラジェたちはどこで消えた?
あの子蜘蛛には毒があり、それを受けた仲間を庇って49階層という比較的安全地帯にいるのか。それとも次の階層で屍になっているのか。あるいは……。
「エリアボス、か」
50階層のエリアボスの正体は不明だ。レラジェたちはそれを探ろうとしてしくじったのではないだろうか。レラジェたちのような装備もちゃんとし、訓練された偵察部隊が気づかれるとなれば、敵は相当の脅威だ。
「上手くいくといいんだが」
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