子蜘蛛対策
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──子蜘蛛対策
「マルコシア。魔物も子供を持つのか?」
「まさか。連中は生殖しません。ダンジョンコアの意志に従って生み出されるだけです。あの子蜘蛛は別にアラクネの幼体というわけではないでしょう。最初からあのような姿をした魔物でアラクネの中に潜んでいる、と見るべきでしょうね。恐らくですが」
「ふうむ。別種か」
少なくともあれに寄生されて体内で増殖されることはなさそうだと久隆は少しばかりだが、安心した。
「それで、あれをどう処理するかだ。幸い、マルコシアの結界をアラクネたちは破壊できない。アラクネを誘導して、結界に閉じ込め、炎で焼き殺すというのは手だろう」
「異論なしです。結界に閉じ込めてしまえばどうとでも処理できますよ」
マルコシアがグッとサムズアップした。
「し、しかし、今回のようにミノタウロスと共闘する形で出没したら?」
「それが問題だ。どうにかしてミノタウロスを先に倒さなければならない。フルフル、レヴィアたちに付呪をかけたうえで、俺に付呪の重ね掛けははできるか?」
「不可能ではありませんが……」
「俺が速攻でミノタウロスを倒す。そして、残りはアラクネに集中だ。モンスターハウス以外ならば通常魔物は別々の場所にいる」
久隆の提案は各個撃破だった。
「俺とサクラでミノタウロスに挑む。その間にフォルネウスとレヴィア、マルコシア、フルフルはアラクネを結界で囲んで殲滅しろ。ミノタウロスは10体だろうと20体だろうとどうにかして見せる」
「む、無茶です! そんな数のミノタウロスを相手にして……!」
「大丈夫だ。任せろ。伊達に兵隊をお前たちより長くやってない」
久隆がそう言い切るのにフルフルは俯いた。
「……重ね掛けはしますけど、無理はしないと約束してください」
「無理はしない。だが、やれることは全てする」
「分かりました。異論なしです」
久隆の作戦はほぼ承認された。
「マルコシア。特にお前の魔法が子蜘蛛を排除する上で重要になる。魔力回復ポーションの尽きないようにな」
「了解です! あたしに任せてください!」
大役を任されてマルコシアは嬉しそうだ。
「各個撃破が攻略のカギだ。アラクネとミノタウロスを合流させない。それぞれ別々に処理して子蜘蛛を焼き殺す。それが重要になってくる」
久隆は改めて作戦の要を語った。
「それぞれが役目を果たすことでこの45階層より下の階層の攻略は達成できる。団結し、義務を果たせ。以上だ」
久隆はそう告げて1時間の休憩を取った。
1時間のゆっくりとした時間。一行は休息をとる。チョコレートを齧り、お茶を飲み、次の戦いに備える。レヴィアもフルフルの膝枕で休憩しており、フルフル自身もうとうとしている。マルコシアも寝っ転がって眠っており、フォルネウスも休んでいる。
唯一サクラと久隆だけが万が一に備えて、待機していた。
「サクラ。次の階層では無理をしてもらうことになるかもしれない」
「あら。今までは無理させたことがないとでも?」
「まあ、そうは言わないが。お前には迷惑をかけてきたからな」
東南アジアの戦争でもサクラのチームは活躍していた。自分のチームはもとより、サクラのチームも指揮しなければならない久隆にとって、サクラの存在は必要不可欠だった。サクラは常に正しく行動し、久隆が思った通りに動いてくれた。
久隆が物資に悩むことがあればどこからか物資を調達してきて、久隆に渡す。久隆が部隊の士気が下がっているとみれば、士気を上げるためのレクリエーションを提供する。現地政府軍との交渉がなかなか進まないときには裏から手を回す。
サクラはできすぎとも言っていい部下だった。
「なら、今まで通り私を頼ってください。きっと力になりますよ。私は今も久隆さんの部下なんですから」
「すまん。頼らせてもらう」
久隆はそう告げて頷いた。
「しかし、久隆さん。本気でミノタウロスを私たちだけで相手に?」
「する。そうしないと子蜘蛛は面倒だ。アラクネそのものは大した脅威ではないが。子蜘蛛は今の俺たちの装備では対策できる相手じゃない。陸軍が保有している火炎放射器でも持ち込まないことにはな」
「あはは。陸軍ってそういえばまだ火炎放射器を装備しているんですよね」
「らしい。サーモバリック弾も導入されたのに後生大事に取っている。まあ、基本的に日本国防四軍は貧乏性だからな」
「維持費もかかるのに」
「陸軍のお偉いさんに言ってくれ。少なくとも海軍はほとんど装備を一新したぞ。未だに古い装備を使っている艦もあるものの。流石にグリースガンモドキの類は破棄したぞ」
「艦艇に配備されている64式小銃も陸軍からすれば旧式装備ですよ?」
「まあ、そうだな。俺たちも使っていたのは20式小銃だったしな」
2045年にもなって未だに64式小銃が現役とは陸軍からすればおかしな話だろう。
日本海軍特別陸戦隊は20式小銃にいろいろとアクセサリーをつけた品を運用していたが、艦艇の警備に当たる部隊が持っていたのは80年も昔の装備である64式小銃だった。
海軍としても危険な日本海域の臨検は海保が行ってくれる──海保は89式小銃を装備している──し、日本領海外の臨検は特別陸戦隊が行うので、海軍の艦艇内での戦闘など端から想定していないのだろう。
日本陸軍の歩兵部隊と日本海軍特別陸戦隊の装備する20式小銃はその拡張に予算がもらえたために、今後はアメリカ軍が愛してやまないM4自動小銃並みに息の長い銃になるだろうと予想されていた。
それでも日本陸軍特殊作戦群などはドイツ製の自動小銃を使っているという話だ。国産の装備に自信が持てないのは、これまでの失敗と性能偽装、そして確かな戦闘証明のなさが原因か。
久隆としては現場の意見を取り入れながら、信頼できるメーカーと防衛装備庁によって改良され続けた20式小銃は優れた銃だと思っているのだが。
まあ、海軍が陸戦に関わるのは海軍特別陸戦隊だけだ。今では基地警備も陸軍が行っている。空軍も同様に基地は陸軍の警備を受けていた。そして、基地警備に予算を割かなくてよくなった分、戦闘機や艦艇を買い込むのだ。割を食うのは陸軍ばかり。
「思えば陸軍は俺たちに腹を立てていたかもしれんな」
「彼らの任務は多すぎて、予算は少ない。誰もが本土防衛は海軍と空軍だけで行うものだとばかり思っていた。相手は宣戦布告し、迷うことのない敵として上陸してくるものだとばかり思っていた。だが、現実はゲリラ的上陸と後方支援基地狙いの攻撃」
「陸軍は頑張ったよ。結局のところ、防衛政策の詰めの甘さは彼らが血を流すことによって補われたのだから」
「我々はそうならなくて幸いでしたね」
「果たしてそう言えるかね」
結局のところ、海軍は役割を果たせなかったことを批判された。しかし、法的に戦争状態になく、民間船籍の船を撃沈できるような艦隊司令官はいなかった。敵に完全にいいようにやられたというところだ。強襲揚陸艦がなくともRORO船があれば機甲部隊の奇襲上陸が行えるのは、前々から分かっていたというのに。
やはり、島国である日本にとっては防衛線は敵の港の背後になくてはならないのだろうと久隆は思った。
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