小さな敵
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──小さな敵
アラクネとミノタウロスがレヴィアとマルコシアの魔法によって撃退される。
「次に備えろ! 1分間時間を稼げ!」
久隆が叫び敵に突撃していく。
彼は斧で生き残っていたアラクネの頭を叩き割り、満身創痍のミノタウロスの首を刎ね、次の攻撃に備える。
ミノタウロスたちはすぐさま押し寄せてきた。アラクネも壁を伝ってカサカサと動き回り、久隆たちに迫ってくる。
久隆たちはまずは最優先でミノタウロスの撃破を始めた。
「『このものに戦神の加護を。力を与えたまえ。戦士に力を!』」
フルフルの付呪も届き、久隆たちの攻撃も加速する。
ミノタウロスの首を刎ね飛ばし、ウォーハンマーを躱し、ミノタウロスを炎上させ、ミノタウロスの眼球を射抜く。連続した攻撃を前にじりじりとミノタウロスが後退する。だが、アラクネは構わず前進を図る。
「この蜘蛛野郎がっ!」
隙を突いて突破を試みるアラクネに久隆が一撃を加える。
その時だった。おぞましい光景が現れたのは。
撃破されたアラクネの中から大量の小さなアラクネが出現したのだ。小さいと言ってもタランチュラ並みのサイズがある。それがずぞぞと久隆に向けて突き進んでくるのだ。
「不味いっ! レヴィア! マルコシア! もういけるか!?」
「いけるの!」
「叩き込め!」
久隆は子蜘蛛の大群から逃れ、マルコシアたちも退避する。
そこでレヴィアとマルコシアが魔法攻撃を叩き込んだ。
魔物たちは先ほどの子蜘蛛たちもろとも、炎に包まれ絶命する。
「もう少しってところだな。しかし、気を付けろ、連中、体の中に小さな蜘蛛を飼ってるぞ。どれほど危険かは分からないが、相手をマヒさせる蜘蛛だ。噛まれればそれ相応の苦痛があることだろう」
「了解」
久隆も先ほどの奇襲にはぞっとさせられた。久隆はサバイバル訓練で蛇も食べたし、昆虫も食べた。それでもあのサイズの蜘蛛がわらわらと出てくるのにはぞっとさせられる。アラクネほどの大きさならば魔物だが、小さいのはもっと悪質だ。
「ミノタウロスは残り4体ほど。ミノタウロスを撃破したら、後は魔法で畳み込もう」
ミノタウロスは魔法攻撃を何度も受けて大きく数を減らしていた。
アラクネはまだ10体近く存在する。
ミノタウロスのウォーハンマーがマルコシアの結界を撃破したのと合わせて久隆たちが襲い掛かる。ミノタウロスは必死にウォーハンマーを振るうが、障害にはならない。ハルバードよりも重い武器はミノタウロスでもそうそう簡単には扱いこなせない。武器に振り回されるような攻撃になり、命中精度は著しく低下する。
久隆たちはその隙を突いてミノタウロスを攻撃する。
ウォーハンマーの攻撃を回避してミノタウロスに一撃を加え、ミノタウロスが倒れるや否や次のミノタウロスを攻撃する。サクラもコンパウンドボウで背後から的確に支援を行い、フォルネウスもミノタウロスを確実に仕留める。
4体のミノタウロスは倒れ、後は蠢くアラクネだけとなった。
「マルコシア! 結界だ! そして、薙ぎ倒せ!」
「了解です!」
久隆たちが下がったと同時にマルコシアの結界が発動する。
そして、結界の向こうでは大虐殺が始まった。
炎がアラクネを焼き、氷の槍がアラクネを貫き、魔法攻撃が次々にアラクネを屠る。
例の小さなアラクネも出没したが、魔法攻撃の前には薙ぎ払われるしかなかった。
アラクネには結界を破壊できない。結界の向こうでのたうつしかない。一方的な攻撃を前にして、アラクネたちは数を減らしていき、最終的には1体もいなくなった。
「よし。クリアだ」
久隆は念のためにアラクネの子蜘蛛が生き残っていないか結界越しにライトで周囲を照らして確認する。だが、アラクネの子蜘蛛は1体も生き残っていなかった。
「マルコシア。アラクネというのはああいう風に子蜘蛛を吐くのか?」
「それはちょっと分からないです。伝承には倒したアラクネから子蜘蛛が湧きだしたというものもありますが、実際に目にしたことも、信頼ある文献で読んだこともなかったですから。でも、これって不味いですよね?」
「不味いな。ここにきて大きな魔物より小さな魔物の方が脅威になるとは」
子蜘蛛をいちいち斧では潰せない。魔法攻撃で焼き払うしかない。これまでの敵は物理攻撃も、魔法攻撃も有効だったが、ここにきて物理攻撃の効かない敵に遭遇することになるとは久隆も想定しなかった。
「レラジェたちはこのフロアでやられたのか? 確認しよう」
久隆たちは45階層を捜索する。
だが、レラジェたちの行方に関する手がかりはやはりなかった。
「畜生。せめて、あの子蜘蛛の弱点さえ分かればな」
「多分、炎だと思います」
「炎か?」
「ええ。信憑性は薄い書籍が論拠になりますけれど、アラクネの子蜘蛛を相手に松明の炎をかざしたら逃げていったとの情報が」
「ふうむ。炎か。そう言えば……」
久隆がバックパックを漁る。
「発炎筒。まだ7本ほど残っている」
グリフォンとヒポグリフ戦で使われなかった発炎筒が残っていた。
「とりあえず、試してみよう。正直、ぞっとするがな」
「同感です」
前衛を担当することになるフォルネウスが頷いた。
「フォルネウス。4本持っておけ。俺は3本携帯する。使い方は分かるな?」
「はい。サクラ様が使っていたので」
「よろしい。蜘蛛ごときに邪魔されるわけにはいかん。さらに地下に潜らなければ」
久隆はそう告げて46階層に続く階段を見下ろした。
「久隆、久隆。このまま進むの?」
「ああ。そのつもりだ」
「ちょっと疲れたの……」
ああ。流石にちょっと焦りすぎたかと久隆は反省する。
サクラが付いてきてくれるから大丈夫だと思っていたが、レヴィアは訓練も受けていないただの子供だ。訓練された軍隊の速度を維持することはできない。
「では、休憩にしよう。だが、さっきまであの蜘蛛が這いまわっていた場所と考えると気味が悪いな」
「そうなのね。けど、背に腹は代えられないの」
久隆は念入りに子蜘蛛がいないかを確認すると発炎筒を灯し、床にマットを敷いた。
「がっつり休むのは49階層でだ。あそこは魔物も少ないだろう。ここでは少しばかり疲労を癒して、次の戦いに向かえるように備える」
久隆はそう告げてバックパックからチョコレートを取り出した。
ここでバックパックの中から子蜘蛛が出てきたらぞっとしただろうが、幸いにして子蜘蛛は全滅してしまったようだ。
「それともここらで40階層に一度引き上げるか? 俺たちまでやられたら二次遭難になる。あの子蜘蛛に対応するためにも一度引き上げるのも手だ」
「むう。難しいところなの……」
「そうだな。せめて、あの蜘蛛がいなくなってくれれば楽なんだが」
蜘蛛は厄介だ。ただのデカい蜘蛛なら対処の仕様もあっただろうが、中から子蜘蛛が這い出してくるのは予想外だった。そもそも魔物というのは繁殖をして、それで増えるものではないと思っていたのだが。
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