44階層に潜むもの
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──44階層に潜むもの
久隆たちは44階層に降りた。
そして、いつものように索敵から始める。
「ミノタウロス12体、テンタクルの反応複数、それから奇妙な反応があるな」
「奇妙な反応?」
久隆の言葉にレヴィアは首を傾げる。
「大きさは恐らくオークほど。だが、二本足じゃない。重量を分散させている。これはまるで昆虫のような……」
「昆虫。キラースコーピオン?」
「知らん。どんな奴だ?」
「相手をマヒさせてそのまま首を切り取る魔物なの。危険度はとても高いの。毒はマンティコアほどではないけれど、食らったら3時間はマヒしてしまうの」
「それは面倒だな。ただでさえミノタウロスがいるというのに」
この階層には未知の魔物だけではなく、ミノタウロスが12体存在する。強力なミノタウロスが12体というだけで脅威だというのに、毒を使ってくる魔物まで存在するのではたまらない。
「先に正体不明の魔物を調べよう」
久隆はそう告げて無人地上車両を発進させる。
無人地上車両は音もなく、ダンジョンの廊下を滑るように進んでいき、やがて音源の正体まで近づいた。
「これは……蜘蛛か?」
「蜘蛛なの! アラクネなの!」
画面に映し出されたのは人ひとり分の大きさは優にある巨大な蜘蛛だった。
「蜘蛛か。随分と変わり種が飛び出してきたな。これまではテンタクルを除けば、ほぼ人型だったというのに」
ゴブリン、オーク、オーガ、ジャイアントオーガ、ミノタウロスとここまでやってきて、急にテンタクルやアラクネが飛び出してくるというのも奇妙な話だ。
このダンジョンは人型魔物のダンジョンではないかという憶測は憶測でしかなくなった。このダンジョンにはあらゆる魔物がいるとみていいだろう。
「マルコシア。アラクネの弱点は?」
「ええっと。頭部の切断です。それが一番確実です。水で溺れさせるという手や、殺虫剤を使うという手もありますけれど」
「あいにく、あんなに馬鹿でかい蜘蛛に効くような殺虫剤はホームセンターにも売ってないな。頭を叩き潰すのみ、だな」
「あ。それからアラクネは魔法に弱いです!」
「それは僥倖。速攻でアラクネを片づけてからミノタウロスの迎撃に入るぞ」
久隆たちは無人地上車両を回収し、アラクネの方向に向かう。
アラクネの数は9体。大きさは均一。人ひとりは余裕で噛み千切れる大きさだ。
「フルフル。レヴィアたちに付呪だ。ここはレヴィアたちを主力に進める」
「分かりました。『賢きものよ、より多くの叡智を極め、力を得よ。賢者に力を』」
フルフルはレヴィアたちに付呪をかける。
「では、始めよう。注意しろ、フォルネウス。俺たちの仕事はレヴィアたちが撃ち漏らした奴の相手だ。レヴィアたちに全てを任せるな。チームワークだ」
「了解!」
とは言えど、久隆はレヴィアたちがアラクネを一掃してくれることを望んでいた。
この後はミノタウロスの相手だ。乱戦にはなりたくない。
「レヴィア、マルコシア。やれ」
「『降り注げ、氷の槍!』」
「『焼き尽くせ、炎の旋風!』」
フルフルとマルコシアが同時に詠唱する。
魔法攻撃に弱いというのは事実であったらしく、アラクネはその図体がコケ脅しだったかのようにあっさりと葬り去られて行く。1体、1体が次々に撃破され、屍が金貨と宝石を残して消えていく。
だが、全滅はしなかった。1体、久隆たちに向けてアラクネが突撃してくる。
「頭を狙う、頭を狙う」
久隆は相手の姿を確認しながら、アラクネを迎え撃つ。
だが、次の瞬間、アラクネから白い物体が射出された。
久隆は寸でのところでそれを回避したが回避したそれは壁にぐっちょりと粘着質にへばりつく。さしずめ蜘蛛の糸というところだったのだろう。
「危ない奴だ」
久隆はそう呟き、第二撃が来る前にアラクネの頭を叩き潰した。
アラクネは金貨と宝石を残して消えたが、ミノタウロスたちの突撃してくる音が響きわたるのが分かった。
「へばってないな? 第二波だ。叩きのめすぞ。レヴィアとマルコシアは引き続き、メイン火力として動け。敵を可能な限り、磨り潰せ。後は俺たちが叩く」
「了解なの!」
ミノタウロスの集団は今回の挟撃の構えは取らなかった。一方から大量に押し寄せてくる。大量のミノタウロスが押し寄せて来る。今回はオークとの戦闘で疲弊しているなどの可能性には期待できない。
「来るぞ」
ミノタウロスの群れが廊下を駆け抜けて久隆たちに突撃してくる。
「レヴィア、マルコシア! 可能な限り、数を減らせ! やれるはずだ!」
「了解!」
マルコシアは面白い結界の使い方をした。
ミノタウロスたちの足元にそれを出現させ、ミノタウロスたちを転倒させたのだ。ミノタウロスは将棋倒しに崩れていき、身動きが取れなくなった。
「今です、陛下!」
「『降り注げ、氷の槍!』」
氷の槍が降り注ぎ、ミノタウロスたちが次々に串刺しにされる。将棋倒しになっているので、ミノタウロスは攻撃をさけることも防御することもできない。
「『焼き尽くせ、炎の旋風!』」
そして、追い打ちをかけるようにマルコシアが魔法を叩き込んだ。
これで12体中9体のミノタウロスが撃破された。
だが、残り3体。残っている。
ミノタウロスたちは立ち上がり、久隆たちに向けて突撃を再開する。
「後は任せておけ」
リキャストまで1分。
久隆が駆け抜け、フォルネウスが続き、サクラが狙いを定める。
サクラの放った矢が1体。フォルネウスが突き立てた燃え盛る短剣が1体。久隆が首を刎ね飛ばした斧が1体。
それぞれ残り3体のミノタウロスを纏めて仕留めた。
「やはり、魔法は強力だな」
散々上層で手こずったミノタウロスも、付呪を受けたレヴィアたちの魔法があればまとめて屠れる。まさに状況をひっくり返す力だ。
「ここまで強力だとレヴィアちゃんたちだけで攻略出来ちゃいそうですね」
「だが、ダンジョン内には魔法の効きにくい魔物もいる。それに魔法にはリキャストタイムがある。1分間のリキャストタイム。これは短いようで、戦場では長いぞ」
「確かに。バランスのいいパーティーじゃないと無理というわけですか」
「そういうことだな」
サクラに久隆が告げる。
攻守、物理・魔法、前衛・後衛。このバランスが良くて初めてダンジョンでは戦えるようになるだろう。バランスの偏った部隊ではバランスを崩し、敗走または全滅に繋がる。ダンジョンとはあらゆるものに備えなければならないのだ。
その点、久隆の捜索班はバランスがいい。
物理にして前衛の久隆、フォルネウス。魔法にして後衛のレヴィア、マルコシア。物理にして後衛のサクラ。全体の支援を行うフルフル。これが適切な位置に配置されている。バランスに問題はない。
戦力としても比較的均質的ではあるだろう。久隆とサクラは元特殊作戦部隊員としてひとつずば抜けた能力を持っているが、他のメンバーの発揮する火力については均質だ。久隆としては行軍などの移動や戦闘での疲労なども均質化したかったが、それは高望みが過ぎるというところである。
今から基礎体力トレーニングを行っているような時間はない。手元にある戦力を、実地で鍛えながら進むしかないのである。
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