42階層の謎
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──42階層の謎
左右から押し寄せるミノタウロス。
「フォルネウス! 左手をサクラと一緒に迎撃しろ! 俺は右手を叩く! レヴィアとマルコシアは適時魔法による支援を!」
「了解です!」
フォルネウスとサクラは左手の迎撃に、久隆は右手の迎撃に向かう。
右手からは5体、左手からは3体。久隆の方が負担は大きいが、久隆の方がステータスも高いし、戦い慣れている。彼が担当するのが適切だ。
「『吹き荒れろ、氷の嵐!』」
レヴィアが久隆の方のミノタウロスに向けて氷の嵐を吹き荒れさせる。氷の礫がミノタウロスの肉体を裂き、彼らの前進を止める。
そこに久隆が斧を振りかざして突っ込んだ。
久隆の斧が1体目のミノタウロスの首を刎ね飛ばし、混乱から立ち直ろうとした2体目のミノタウロスの首も刎ね飛ばし、武器のハルバードを構えようとした3体目のミノタウロスの首も刎ね飛ばす。また叩く間に3体のミノタウロスが撃破された。
ミノタウロスはそれでも恐怖することなく、知性の窺えない目で突撃してくる。久隆はミノタウロスの振り下ろしてきたハルバードを斧で受け流すと、カウンターで4体目のミノタウロスの頭に斧を突き立てる。
5体目のミノタウロスは友軍の死体ごと久隆を始末するつもりで斧を振るってきたが、その攻撃も久隆によって回避された。彼は死んだがまだ消えていないミノタウロスの死体を盾にして、攻撃を受け止めると、攻撃が空振りに終わったミノタウロスの隙を突いて懐に飛び込み、斧をミノタウロスの首をめがけて振るった。
首の半分が切断されたミノタウロスはぐったりと倒れ、金貨と宝石に変わっていく。
「クリア! そっちは!」
「倒しました!」
左手の方の迎撃も完了していた。
「よし。後はテンタクルを1体ずつ潰しながら、この階層をクリアにするぞ」
テンタクルは地雷に似ている。
地雷の傍に機関銃陣地や鉄条網があれば歩兵はそこを突破するのに犠牲を払うことになる。それから不意に地雷原に迷い込んでしまった場合も、損害を出す。
だが、地雷があると分かっていて、周囲に敵がいない場合、地雷を処理するのはそう難しいことではない。陸軍が保有しているような爆索を投射して一斉に敵陣地の地雷を処理してしまうような道具を使えば、大抵の地雷は処理できる。
もっとも対人地雷禁止条約が結ばれてから、各国は対人地雷に変わる兵器を模索してきた。遠隔操作で爆破する指向性爆薬。それが進歩した赤外線映像を解析し、送信し、爆破するかどうかをAIが兵士に尋ねるスマート爆薬。
だが、世界に出回っている地雷の大部分は昔ながらの踏んだら作動するタイプかワイヤーで作動するタイプのものである。というのも、対人地雷禁止条約には依然として対人地雷を大量に生産している大国が加入していないからだ。
抜け穴だらけの国際条約。
2045年でもこの手の“非人道的兵器”の禁止条約は、一部の運動家の自己満足だった。そもそも西側で標準的な5.56x45ミリNATO弾ですら命中すれば耐え難い苦痛を負うのだし、死ぬのだ。全ての兵器を禁止するというならともかく、一部の兵器に自分の価値観で非人道的というレッテルを貼って、禁止しようと訴えるのは正直言って愚かだ。
日本もアジアの戦争まではその手の運動のメッカだったが、日本情報軍が反軍的な活動家を“処理”したことによって、その手の運動の賛同者はいなくなった。日本情報軍は報道されないことをいいことに非合法の捕虜収容所すら保有しているのだから、兵器の禁止だのなんだのと叫ぶ連中の相手をしたくないのは当然だと言えた。
何はともあれ、テンタクルの処理は容易に進んだ。
全てのテンタクルが爆破処理され、42階層はクリアになった。
「ふうむ。おかしいな」
「ですね。彼らが詰まるとすればここのはずです。ですが、ここでは死体のひとつも見つかりませんでした。彼らはここも通り抜けていった、ということになりますね」
「そうだ。テンタクルが音に反応する生き物なら足音を消す装備を有しているレラジェの偵察部隊や後続の偵察部隊も無事に通過できただろう。だが、ここにはミノタウロスもいる。それでも詰まらなかった。下層はより地獄ということか?」
今のところ詰まってもおかしくないと感じるのは、この42階層だった。41階層はただのオークの延長線が出没するだけだ。
だが、この階層にはミノタウロスがいて、テンタクルがいる。テンタクルに注意しながら、ミノタウロスの傍を通り抜けるのは至難の業だったはずだ。
だが、ここでレラジェたちが交戦した様子は欠片もない。
通路の壁も綺麗なままだったし、死体も落ちていない。血も流れていない。
となると、より下層ということになる。
「情報がないというのはやはり辛いな……」
「せめて地図ぐらいはあればよかったんですが」
久隆が唸るとサクラが告げる。
「仕方ない。あるものでやるのも兵士の仕事だ。これまでだっていつでも詳細な情報があるわけではなかったし、情報が間違っていることもあった。だが、俺たちは乗り越えてきた。そうだろう、サクラ?」
久隆は海軍時代のことを思い起こしてそう告げた。
日本情報軍は確かに情報戦のプロフェッショナルたちだった。
だが、戦争とは化かし合い騙し合いだ。あらゆる手段を使って相手に不意を討とうとする。軍閥たちも切り札となる兵器は厳重に欺瞞していたし、幹部の行先は分からないように偽装していることがあった。
不意打ちを受けることもあったし、不意打ちを仕掛けることもあった。
だが、大体の場合は久隆たちは自分たち自身の偵察で事前に戦況を確認した。
日本情報軍は優秀だ。だが、現場に立つのは彼らではなく、久隆たちだ。
戦術級中型ドローンの映像と睨めっこし、ドローンの映像に映らない部分を探す。大抵そこに何かが隠してある。テクニカルから戦車、多連装ロケットに至るまで。
強襲の場合はそれらに対して空爆を行うし、暗殺の場合はそれらに気づかれないように慎重に進む。中古の戦車でも暗視装置を持っている場合がある。久隆たちの熱光学迷彩は暗視装置には映らないが、常に万が一を考えるのが前戦指揮官の役割だ。
偵察においても常に万が一を考えて。
自分たちの命がかかっているのだ。油断するのは愚か者だ。敵を侮るな、だが過大評価もするな。適切な情報を入手し、それを基に行動しろ。
海軍の任務ではこの手のことを学ぶ機会が多かった。一度相手に不意を打たれると相手を過大評価しがちになる。過大評価のし過ぎというのは、最悪を想定するのとはまた異なる。いもしないお化けに怯えているようなものだ。我々はお化けではなく、クスリの切れて、包丁を握ったジャンキーを想定しなければならない。それはお化けと違って目に見えるし、殺すこともできる。
情報集めの偵察も自分たちの仕事。日本情報軍は確かに情報を与えてくれるが、それが全てではないことを理解しなければならない。
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