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今はしっかり食べて

……………………


 ──今はしっかり食べて



「すっかり保護者っぷりが身に付いていますね」


 レヴィアとフルフルの様子を見ていたサクラがそう声をかけてきた。


「からかうな、サクラ。外国人旅行客の相手をしているようなものだ」


「久隆さんは一度アメリカ海兵隊の人たちを横浜で案内していましたね」


「そうだ。そんなものだ。連中はよく食ったし、あいつらもよく食ってる。似たようなものだ。もっとも海兵隊の連中は酒をよく飲んでいたが」


「ほう。アメリカ海兵隊はアルコール分解の機能を体内循環型ナノマシンにつけなかったんですか?」


「つけてない。地獄だぞ。酔っぱらいの中でひとりだけ素面というのは」


「私は外国の兵士を歓待する役割に選ばれなくて幸運でした」


「お前はお前で海兵隊のマッチョどもを叩きのめしていただろう。日本の女はあんなに強いのかって何度も聞かれたぞ」


「あはは。それが私の仰せつかった仕事だったので」


 サクラは共同訓練で格闘技のデモンストレーションを担当していた。海兵隊の猛者たちを相手にサクラは存分に腕を振るった。そのせいで海兵隊は日本の女性に少しばかり勘違いをしてしまっていた。


「しかし、私たちも真っ当に生きてたら、あの子たちぐらいの子供がいたんですよね」


「今までの生活を真っ当じゃなかったみたいにいうのはよせ。俺たちは真っ当に日本国の盾として働いてきた。俺たちはこれまでは真っ当な生き方をしている」


「そうですね。ただ、少しばかり自分が情けなくなるときがあるんですよ」


 真っ当な人生とはなんだろうか。真っ当な生き方とは何だろうか。


 生物学的に正しい生き方とは自己の遺伝子を可能な限り繁栄させることだ。生物学的にはそれが正しい。だが、生物学的正しさだけが現代の生き方ではないことも同様だ。


 確かに同性愛者のカップルでも金があるならば子供を持てるようになった。今や不妊治療が最大限に進み、子供を欲しいと望むのならばどんな状況でも子供が持てる。自己の遺伝子を後世に残すことができる。


 だが、本当にそれだけが人間の生きる道か?


 政府は子供を作れ、子供を作れと鬱陶しいほどに宣伝している。少子高齢化の上、未だに移民を受け入れることを拒み続けている政府は日本人が生まれることを望んでいる。


 その上、遺伝子学のもたらした恩恵により、遺伝病を残すこともなくなった。今やヒトゲノムは完璧に解析されただけではなく、それがどのような用途で存在し、どのような条件で発現するかもほぼ分かっている。遺伝子組み換え技術によって、遺伝病の遺伝子部位を取り払ってしまうことすら可能なのだ。


 しかし、そこまでされても子供を持つかどうかは個人の自由だ。政府は推奨すれこそ強制はしていない。子供を持たない自由もまたあるのだ。


 久隆は子供を求めない。それは自分のやってきたことのためだった。


 久隆は殺した。大量の子供兵を殺した。子供を見ればそれがカラシニコフを取り出すのではないかと思うぐらいに子供兵を殺した。


 そんな人間が子供を愛せるか? 自分の子供を愛せるか?


 久隆は無理だろうと思っている。どうやっても自分は子供を持てないと思っている。


 だから、彼にとっての真っ当な生き方と他者にとっての真っ当な生き方は異なるのだ。正解はひとつじゃない。複雑に絡み合った人ひとりの人生で、何が正解かを決めるのはその人本人である。


 だから、久隆は世間の言う真っ当な人生というものに反発していた。


 子供を作って、家庭を作って、それで幸せ? それが幸せでない人間もいる。


「久隆さん?」


「あ、ああ。なんだ?」


「急いで食べないとなくなっちゃいますよ?」


「そうだな」


 バイキングも人が増え始めている。


 久隆はレヴィアたちは美味しそうに食べるので海鮮丼を盛り、それからシェフがその場で焼いてくれるステーキを盛り、その他様々な料理を堪能した。


「ふーっ。お腹いっぱいなの!」


「デザートはいいのか? アイスクリームとかいろいろあるぞ」


「デザート……。もうちょっとだけ食べるの!」


 レヴィアは皿を持ってデザートコーナーに向かった。


「フルフルたちはいいのか?」


「わ、私もちょっと果物を。魚だけでは栄養が偏りますからね」


 フルフルもデザートに向かった。


「マルコシアは?」


「私も行ってきます! 甘いもののためにお腹を空けておきましたから!」


 マルコシアも素早くデザートコーナーに向かった。


「フォルネウス、サクラ。お前たちは?」


「自分はもうお腹いっぱいです。ここは美味しい料理が多すぎて本当に贅沢病になってしまいそうな予感がします」


「昼飯が薄かったから大丈夫だ」


 フォルネウスはステーキをたっぷり食べて満腹だった。


「私、コーヒー淹れてきますけど、久隆さんは?」


「すまん。俺の分も頼む。ミルクをつけておいてくれ」


「了解」


 そういえばサクラにコーヒーの好みを伝えるのは始めてだなと久隆は思った。


 ただのコーヒーの好み。大した個人情報じゃない。ただ、久隆があまり耐性のないカフェインを薄めるのにミルクを必要とするだけ。それ以上でもそれ以下でもない。ただ、それだけの大したことのない個人情報だ。


 だが、それをサクラに伝えるのが初めてだと思うと少しばかり自分を語ったような気分になってしまった。


「久隆、久隆。見て、見て。デザート!」


「こりゃまた大層なアイスクリームだな。食べきれるのか?」


「美味しいものはいくらでも入るの!」


 レヴィアはそう告げてチョコレートやバニラ、抹茶のアイスクリームを頬張っていく。時々冷たさが頭にキーンと来たのか何とも言えない表情をする。


「わ、私もデザートを」


「久隆様はデザート食べないんです? 分けましょうか?」


 フルフルはふわふわのパンケーキを、マルコシアはチョコレートをたっぷり使ったチョコレートケーキを持ってきた。


「いや。俺はいい。もう満腹だ。コーヒーを飲んだら終わりだ」


「そうですか。では!」


 レヴィアもフルフルもマルコシアも年頃の女の子らしく甘いものに目がない。レヴィアはアイスをパクパクと口に運び、フルフルはパンケーキにたっぷりのはちみつをかけ、マルコシアは几帳面にケーキを切り分けながら口に運んでいく。


「久隆さん。コーヒーです」


「ああ。ありがとう、サクラ」


 そして、サクラがコーヒーを持ってきて、全員が食べ終わり、食事はそこで終了になった。ホテルのバイキングがいくらでも食べ放題でひとり2000円。安いものだ。


 久隆は満腹感を感じながら、レヴィアたちを車に乗せると家に戻った。


 アガレスの指定した3日までにはまだ時間がある。負傷者もまだ傷を癒せていない。


 それでも40階層にプランターを運ぶことぐらいはしておくかと久隆は考えた。


……………………

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― 新着の感想 ―
[一言] 久隆さんは本当に世話焼きなんですねぇ〜なんかレビィアとかフルフルを自分の子供みたいに世話焼いてますからねぇ〜
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