食べ放題バイキング
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──食べ放題バイキング
昼食の後、久隆たちはローズヒップの苗とプランターを10階層まで運んだ。運べるのはここまでだ。ここから先は時間に不規則な狂いが生じる。レヴィアはバイキングを楽しみにしてるのだから、時間までにはショッピングモールに向かわなければ。
久隆は作業着から普段着に着替えると、チラシをもう一度読んだ。
ショッピングモールが特別に開催するバイキングは夕方の部が17時30分から。ショッピングモールまで車で2時間と考えると15時30分には出ておくべきだろう。
料理は食べ放題。有名なホテルなどが出店しているらしい。この田舎では相当珍しいイベントである。何を思ってホテルなどはこの田舎で宣伝をしようと思ったのか。久隆は首をひねる。
まあ、年寄りは確かに金を持っている。金を持ったまま田舎で隠居してるのだ。正直なところ、そういう経済の循環を止めている年寄りは望ましくない。年寄りが金を使わないと経済は回らないのだ。
それはホームに入ったりするのに金が必要なのは事実だ。なるべくならば貯蓄しておき、ホームに入ったときに備えるだろう。
しかし、今流れが止まっていることも事実だ。若者は金がなく、年寄りたちに富が集中し、消費が停滞してることは数字の上の事実だ。政府はもっと若者を重視した政策を取るべきだとして、様々な法案を通過させている。国公立大学の学費無料化や、若い親たちへの手厚い支援。それらで日本は少しばかり活気づいた。
だが、年寄りが握った富をホームに入るまで手放さないというのはいかんともしがたい。そればかりは政府が介入できることではないのだ。
「そろそろだな」
時間を見て久隆が立ち上がった。
「レヴィア、フルフル、マルコシア、フォルネウス、サクラ。そろそろ行くぞ!」
久隆が声を上げる。
「いつでもいけるの!」
「じゅ、準備はできています」
準備を済ませたレヴィアたちがやってくる。
「それでは出発だ。腹は空かせているな?」
「貧乏性ですね、久隆さん。適度に食べればそれでいいんですよ」
「まあ、それもそうだが」
サクラに苦笑されて久隆は後頭部を掻いた。
「何はともあれ、出発だ。車に乗れ」
久隆たちは自動車に乗り込むと、ショッピングモールを目指して長い道のりを進んだ。全く以て田舎というのは不便なものだと感じさせられる距離である。
しかし、その田舎さゆえに監視カメラが旧式であることは幸いだ。警察も、軍も、こんな田舎がテロ攻撃のターゲットになるとは思っていない。ほぼ全日本規模で発達した監視ネットワークも、例外はあるということだ。
「さあ、ついたぞ」
「どんな料理があるか楽しみなの!」
「いろいろとあるぞ」
久隆たちは車を降りると、ショッピングモール内に入った。
今日はそこそこ人がいる。やはりバイキング目当てか。
「わあ。凄い人なの。入れるの?」
「チラシに書いてあった通りなら入れる」
大勢の人で賑わうバイキング会場に久隆たちは足を進めた。
「いらっしゃいませ。6名様でしょうか?」
「それと傷病兵だ。これが証明書」
「これはこれは。では、お席を最優先で確保いたしますので暫くお待ちください」
社会は傷病兵を必要とはしないが、無下にはしない。傷病兵の証明書──スマホのアプリで表示される──を提示すれば、映画館でも、歯医者でも、こういう場でも割引や優待が受けられることがあるのだ。
「お席の準備ができました。ご案内いたします」
久隆たちは6人掛けのテーブルに案内された。
「じゃあ、それぞれ好きなものを取ってこい。ただ、マナーは守れよ。食べきれる分だけ取る。一度取ったものを戻さない。いいな?」
「了解なの!」
「よし。行ってこい」
レヴィアが真っ先に飛び出していく。それからマルコシアとフルフル、フォルネリウス。そして久隆とサクラが続く。
「本当にホテルが出してるんですね」
「ああ。田舎の年寄りに金を使わせたいらしい。しかし、こういう形式の食事は久しぶりだな。東南アジアで海軍同士の交流があった時以来か?」
「ですね。アメリカ海軍とイギリス海軍も参加して、こういうバイキング形式のパーティーをやりました。あれって密かに給養員同士の対決になってたって知ってました?」
「初耳だ」
「うちの給養員が勝ったらしいですよ。随分と凝ったものが出るなとは思っていましたけれど。アメリカさんは肉を焼くのが豪快であれはあれで凄かったですけどね」
「だな。しかも、それを平らげる向こうの海軍と海兵隊の兵士も凄い」
久隆たちは雑談を交わしながら、まずはサラダを取っていった。サラダもポテトサラダからゴボウサラダ、シーザーサラダまで種類豊富だ。
「久隆、久隆。これはなあに?」
「それは海鮮丼のためのいくらだ。海鮮丼にするのか?」
「ちょっと試してみたいのね」
「じゃあ、よそってやろう」
久隆はほどほどに酢飯を盛ると、サーモンといくら、甘エビを中心とした魚介類を乗せて上からワサビを少しまぜた醤油を垂らした。
「ほら、できたぞ」
「おおー。豪勢なのね。いただくの!」
しかし、王族が毒見もなしで生魚を食ってもいいものなのだろうかと久隆は少しばかり疑問に思った。以前の刺身はフルフルが毒見したものの。
まあ、食中毒なんて今時発生する方が珍しいというものだ。
特定の病原菌を抹殺するナノマシン。日本国防四軍の兵士が海外派遣されるときに注入される、体内の健康を完璧に維持する体内循環型ナノマシンと同じテクノロジーが魚介類にも使用されている。
病原菌、ウィルス、寄生虫。そういう有害なものはナノマシンのプールに数秒つけただけで無力化される。それらは完全に分解され、食中毒のリスクを限りなくゼロに抑える。そのテクノロジーのおかげでこれまでは寄生虫が心配で食べられなかった魚の生食も進んだし、海外でも魚の生食が進んだ。
もっともナノマシンが抹殺する有害なものは最初にプログラムされているので、それ以外の有害なものが混じっていた場合、食中毒は発生する。
まあ、問題になるものはあらかた分かっているので、問題になることはない。
実際、久隆たちは衛生環境のえの字もない環境で全く体を壊さなかった。現地の水を飲んでも、久隆たちには一切問題がなかった。体内循環型ナノマシンはその優秀さから、多剤薬物耐性菌感染者にも使用されることがあるくらいだ。
だから、食中毒はまず気にしなくていい。
「お魚の匂いが……」
「ああ。フルフル、お前も海鮮丼か?」
「かいせんどん? それはどういう食べ物なのでしょうか?」
「新鮮な魚介類を乗せたどんぶりものだ。気になるならレヴィアが既に食べてるから見てみるといいって……お前、魚ばっかりとったな……」
フルフルの皿にはサーモンのマリネサラダやカルパッチョ、魚介類のトマトソースパスタなど魚介類で満ち溢れていた。
「うう。故郷の味を感じるので……。それも魚介類ということなのでかいせんどんも試してみいいでしょうか?」
「盛り付けてやろうか?」
「そ、そうですね。お願いします」
久隆はどんぶりを手に取るとほどほどにご飯を盛り、新鮮で、衛生的な魚介類をどんぶりの上に並べ、レヴィアの時と同じようにワサビを少し混ぜた醤油をかけた。
「ほら。気に入ったらまた取りに来るといい」
「あ、ありがとうございます」
フルフルはどんぶりを受け取り席に戻っていった。
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