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ワーム戦のお祝いをする?

……………………


 ──ワーム戦のお祝いをする?



 久隆たちが地上に戻ってくると地上は真っ暗だった。


 どうやら深夜に戻って来たらしい。


 久隆は自宅を目指して進み、裏口から家に入る。


「おお。久隆。帰ってきたか。今回は時間にずれはないな」


「そのようだ。1日も経ってないだろう?」


「経ってない。ばっちりだ。それから後ろのは新しい患者か?」


「そうだ。軽傷だが傷を負っている。治療を頼みたい」


「任せとけ。今回の収穫は?」


「あのデカい蛇を討伐した。数えきれないぐらいの金貨と宝石があるぞ。全部持ってきてやりたいぐらいだが、あいにく持って帰れるのはこのバックパックに入るだけだ」


「上等。しっかり儲けさせてもらうぜ」


 朱門は鼻歌を歌いながら、負傷者を病室にしている部屋に連れて行った。


「久隆、久隆。戦勝祝いをするの! ワーム討伐を祝って!」


「そうだな。それもありか。レラジェたちの偵察結果が出るまでは3日はかかる。街の方に行ってみるか……」


 久隆はそう考えて唸った。


 郊外や田舎の監視カメラは旧式だ。画像を撮影するだけの昔ながらの監視カメラだ。


 だが、街の方の監視カメラは標準式だ。画像情報を読み取り、AIが解析し、個人情報とリンクさせる。そうやって政府は国民の動きを監視しているのである。次の新宿駅のテロを防ぐために。


 そんな場所にレヴィアたちが行ったら?


 間違いなく、個人情報とリンクできないことでAIは警報を発するだろう。在留外国人の個人情報も各都道府県警察及び警察庁が管理している。網膜パターン、顔認識スキャンに引っかかれば、即座に警察がやってきて職務質問コースだ。その際に在留資格の確認も行われるだろう。レヴィアたちには在留資格などない。


「街の方に行くのは無理だな」


 久隆はすぐに諦めた。国家権力を相手にしては個人の出来ることなどほぼない。


「街にはいけないの?」


「ああ。監視されている。レヴィアたちは正規の入国手続きを経てないから、警察に捕まることになる」


「それは困ったの。なら、ラーメンにするの!」


「いや。せっかくのお祝いでラーメンというのもな」


 そこで久隆はひとつ思い出したことがあった。


 久隆はゴミ箱からチラシを取り出した。


「ああ。ショッピングモールの方でバイキングをやっているらしい。行って見るか?」


「ばいきんぐ?」


「好きな料理を好きなだけ食べるものだ」


 チラシ文化はほとんどの紙媒体のものが電子媒体に変わっても依然として紙だった。というのも、メールで宣伝広告を送っても、受信拒否やサービス停止にされて広告が届かないからだ。久隆も何度も、何度も宣伝メールを送りつけてくるアプリのサービスは全て停止させている。


 だから、企業は昔ながらのチラシによる公告を行う。郵便物は滅多なことでは拒否されないと分かっているのだ。


「楽しそうなの! それにするの!」


「その代わりルールを覚えておけ。料理は食べられる分だけ取る。食べられない量を取らない。一度取ったものを戻さない。最低限のマナーだ。分かったな?」


「分かったの!」


「よし。では、明日の晩飯はバイキングだ。今日はもう遅い。ファミレスで食事を済ませて、明日はバイキングで好きなだけ食べろ」


「いえいっ!」


 レヴィアは本当に嬉しそうだった。


「じゃあ、ファミレスにいくから準備しておけー」


 久隆はそう告げて冷蔵庫を開ける。朱門が買ってきた白ワインやビールが鎮座している中から麦茶を取り出し、カップに注ぐと飲み干した。


「久隆さん。レヴィアちゃんたちの個人情報、どうにかならないんですか?」


「どうにもならないだろう。正規の手続きで入国してないんだ。事実上の密入国だ」


「それなら朱門さんに頼んでみては?」


「俺は朱門の手は借りるがマフィアの手は借りない。マフィアはどう言いつくろっても反社会的組織だ。国家の敵だ。朱門は連中に手を貸しているが、連中の一員というわけではない。マフィアそのものじゃない。だが、レヴィアたちの個人情報を密造するのは完全にマフィアを頼ることになる」


「そうですね。軽率でした」


「いや。心配してくれたのは分かる。この田舎でも警察は巡回している。そのときに外国人に職務質問するのはよくあることだ。そういうときに密造とは言え、個人情報と在留資格があれば便利だろう。だが、ダメなんだ」


 この田舎まで巡回に来る警察官は少ない。警察も人手不足で業務をアウトソーシングするか、無人化・省人化している。そのための監視カメラとAIによる監視網だ。そうやって警察も軍隊と同じように人手不足をどうにかしていた。


 今や日本の警察もテロに備えて、トランクに自動小銃を搭載する時代だ。警察の取り締まりは本気だ。テレビのニュースを見れば、警察と軍の特殊作戦部隊がマフィアと交戦したという物騒な文言が流れてくる。


 このテロと国際犯罪の時代にあって、日本という国は変化したのだ。


 監視、監視、監視。より強力な制圧力。より強力な捜査権力。


 サクラが個人情報を密造しようと提案したのも久隆には分かる。今の状況では警察のお世話に一度でもなればアウトなのだ。それならばマフィアを頼ってでもという話になるのは無理もない。


 だが、久隆は朱門のことは信頼していてもマフィアのことは信頼していない。下手にマフィアとかかわりを持ったばかりに、警察の目を逆に引くということも考えられるのだから。そういう現実的な理由もある。


「俺たちがどうにかしてやろう。危険は避ける。だが、息抜きはさせる。幸い、ぱっと見て日本人と分かる人間がついていれば警察も無駄な職務質問はしてこない。自転車にも乗っていないしな。警察の点数稼ぎには利用されないだろう」


「久隆さんにしては楽観的ですね」


「今までの状況が状況だったからな」


 ショッピングモールに行っても、ホームセンターに行ってもコスプレだと思われるだけ。正常性バイアスがレヴィアたちの存在を隠している。


「サクラ。お前は何か後ろめたいことはないだろうな?」


「ありませんよ。民間軍事企業(PMC)に勧誘されたことで彼らの注意は引いたかもしれませんが、彼らもリクルート相手を一日中監視するほどの暇人じゃありません。それに民間軍事企業(PMC)に加わるのも引き抜きではなく、傷病除隊者の再利用ですからね。軍も怒らせてないと思いますよ」


「それなら結構。それと一応お前も朱門に人工筋肉を見てみてもらっておいた方がいいぞ。俺の義肢は今では強化外骨格エグゾの4倍の出力が出ているらしいからな」


「本当ですか?」


「嘘をついてもしょうがないだろう?」


 レベルアップという現象はどこまで、この世界の科学を上回るのだろうかと久隆は少しばかり不安になってきたところであった。


 このままだとどこまで行くのだろうかと。


……………………

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