37階層から39階層
本日1回目の更新です。
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──37階層から39階層
翌朝。
ダンジョン内で朝という感触は感じられない。
太陽の光がないことが原因だろう。ここは朝も昼も薄暗闇に閉ざされている。
久隆は起きるとレヴィアたちを起こしに向かった。
「レヴィア、朝だぞ」
「ううん。もうそんな時間なの……?」
「ああ。しっかり9時間寝ている」
「ふわあ。まだ眠り足りないぐらいなのね」
レヴィアは起き上がって目をこする。
「朝食を食べたら出発だ。準備しろ」
「了解なの。全員、起こすの」
レヴィアはフルフルやマルコシアたちを起こしに向かった。
それから久隆たちは災害非常食の朝食セットで食事を済ませると、それぞれが簡単な身支度を済ませ、マットを畳み、久隆がバックパックを背負って出発した。
「今回は37階層から39階層までの掃討だ。ワームはまだ対処の方法が思いつかないので手を出さない。偵察だけは行うかもしれないがそこまでだ。今はミノタウロスを切り倒すことだけを考えていくぞ」
今回の目標は37階層から39階層までの3階層の掃討だ。
それが終わったら可能ならばワームを偵察して実際に目で見てみて、それから地上に戻る。そして、ワーム戦について考える。
ワームとて無敵の怪物ではないはずだ。何かしらの策はあるはず。
「久隆様。また付呪の重ね掛けを?」
「状況が不味い状態に陥ったらな。そうでない限りはあれは使わない。あれを制御するというのはそれなり以上に苦労するし、反動もある。だが、いざとなれば即座に使用する。切り札をいつまでも後生大事にしておく理由はない」
久隆はフォルネウスにそう語った。
「実際、どのような感じなのですか、付呪の重ね掛けというのは」
「力に重みが生じる。物理的な重みではない。精神的な重みだ。体自体はとても軽い。だが、力が台風のように体の中で暴れまわり、力を制御できなくなりそうになる。それをなんとか作戦目標を頭に刻み込んで、制御する。体の問題であり、心の問題でもある。両方を制しなければ、あの力は扱いこなせないだろう。俺もかなり危うかった」
力に振り回される。力のもたらす万能感に支配される。強大な力とはそういうリスクがあった。いくらフルフルが付呪を重ね掛けをしていても、久隆だけであの36階層のミノタウロスを全滅させるのは不可能だったのだ。
だが、付呪の重ね掛けを受けている間の久隆はそれも可能ではないのかと思ってしまっていた。すぐに作戦方針を思い出したからよかったものの、あのまま力に振り回されていたらどうなっていたことか。
「それは……。自分には難しそうですね……」
「迂闊に手を出すものではないな」
もう少し訓練されればフォルネウスにも付呪の重ね掛けを行うという選択肢もあっただろうが、今のフォルネウスでは不安しかない。
「さあ、37階層から39階層まで一気に降りるぞ」
「今回の探索が終わったら魔力回復ポーションをもう一度作っておきましょう。あたしたち魔法使いは魔法が使えないと役に立てないからですね」
既に在庫は全て出したのだろう。確かに魔法が使えない魔法使いとなると久隆たちが苦労する。久隆とサクラは一切魔法は使わない──というより使えないので、魔法に弱いミノタウロスを相手にするには魔法使いが攻撃準備を整えていることが重要なのだ。
「帰ってきたら、魔力回復ポーションだな。では、いくぞ」
久隆たちは37階層まで一気に降りる。
37階層に慎重に降りると久隆はすぐに索敵を始める。
「ミノタウロス14体。2つのグループに分かれている。いつも通りに行こう。フォルネウス、前衛として俺と一緒に敵を抑えるぞ。それからフルフルは付呪。この段階では重ね掛けは必要ない。レヴィアとマルコシアは魔法攻撃準備」
「了解なの!」
久隆たちはミノタウロスを迎え撃つのに適切な場所として廊下の行き止まりを目指した。その過程で無人地上車両でミノタウロスを偵察する。
「この階層のミノタウロスは盾持ちか。厄介だな」
ミノタウロスたちは円形の小さな盾と長剣で武装していた。
盾を効率的に使ってくるかは別問題だが、装備として盾があるということはこちらの攻撃がブロックされる可能性もある。これまで以上に敵の隙を突かなければならないなと久隆は考えた。
そして、目的地の廊下の行き止まりまで到達する。
「よし! 叫べ!」
「こっちだぞー! 醜い化け物どもー!」
久隆たちがダンジョン中に響き渡るほどの声で叫ぶ。
ミノタウロスが一斉に動き始める。何度感じても不気味な振動だ。
やがてミノタウロスが押し寄せてきた。久隆は斧を、フォルネウスは短剣を力強く握る。いつでも戦う準備はできている。
「『降り注げ、氷の槍!』」
「『爆散せよ、炎の花!』」
レヴィアとマルコシアの魔法攻撃で先鋒の6体のミノタウロスが撃破される。いいスタートだ。敵の盾も魔法攻撃には効果がないと見える。
そして、続いて押し寄せるミノタウロスを久隆たちが相手にする。
付呪の重ね掛けを知った後では普通の付呪では物足りなく感じるが、それでも身体能力は大幅に上昇しているのが分かる。
久隆がミノタウロスの頭を狙うのに、ミノタウロスは腕に括りつけた盾を構える。久隆はそのまま盾に損傷を負わせてやろうという気持ちでそのまま斧を振り下ろす。
次に起きたのはミノタウロスの盾が破壊され、腕が切断され、そして頭に斧の刃が突き刺さったミノタウロスの姿が久隆の視覚に映し出されるというものであった。
ミノタウロスはそのまま即死し、久隆も驚いた。
まさか盾を破壊して、腕を切断し、その上で頭を叩き割れるとは。
だが、いつまでも驚いているようなことはこの戦場では許されない。敵はここぞとばかりに押し寄せてきているのだ。
久隆はひたすらにミノタウロスを斬り続ける。首を刎ね飛ばし、頭を潰し、盾を叩き割る。フォルネウスが1体のミノタウロスを相手にしている間に久隆は4体近いミノタウロスを潰している。
だが、これはミノタウロス潰し競争ではない。フォルネウスも、久隆も、その役割はレヴィアたちを守ることである。それが出来ていれば文句はない。
幸い、フォルネウスの方にはサクラの支援射撃もある。サクラが適時コンパウンドボウから放たれる矢で援護し、フォルネウスはなんとかミノタウロスを押し返していた。
フォルネウスもサクラに頼りっぱなしというわけではない。彼も力と技術が身に付いたようで、ミノタウロスの胸に短剣を突き刺して炎上させたり、ミノタウロスの首の頸動脈を的確に切り裂いていっている。
全体として久隆の捜索班の戦闘力はかなり向上していた。
そして、戦闘開始から20分後。ミノタウロスは全滅し、久隆たちは37階層を征服したのだった。40階層までの道のりは開かれつつある。
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