30階層での休憩
本日2回目の更新です。
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──30階層での休憩
そして、日本海軍特別陸戦隊も他に国から教育を受けて発足した部隊である。イギリス海兵隊の特殊舟艇部隊やアメリカ海軍のSEALs──特に特殊戦開発グループ──から非常に影響を受けている。
いくらフルダイブ型のVR訓練が実用化し、演習にかかるコストが減ったとしても、軍の指揮官たちは実際に兵士たちを動かしてみないと実戦に耐えうるかどうか分からない。つまりは実戦を潜り抜けた経験こそが証明になるということ。
だが、発足したばかりの部隊を実戦に放り込むのは馬鹿のやることだし、いくら演習で訓練しても穴があるというのならばどうするべきか。
先輩たちの意見を聞くことだ。特殊舟艇部隊もSEALsも長い歴史と実戦経験を積んでいる。彼らの教育と訓練を受けることは実戦経験を積むに等しい。
ここにいる魔族たちは新兵ではないし、実戦経験がないわけでもない。だが、先達から学ぶことはいろいろとあるだろう。日本海軍がイギリスやアメリカから学んだように、彼らも高度な実戦経験を経て、科学的に合理的な戦術と心理状態で戦う久隆からより高度な知識と経験を学び取るのだ。
久隆はタブレット端末で図形を描いたりして、狭いダンジョン内での立ち回りと視界の確保について教え、格闘術について教え、ミノタウロスの倒した方について教えた。魔族たちは熱心にそれを聞いていた。
特に陣形については久隆は熱心に教えた。ミノタウロス戦では陣形が重要になる。前衛の守りと後衛からの魔法攻撃の重要性。それを何度も繰り返し、久隆は説明を変えつつも、教え込んだ。
「どうだ。今ならミノタウロスを倒せそうか?」
「希望は見えてきました。我々でも不可能はないのだと」
「それはよかった。だが、慢心はするな。俺たちも決してミノタウロスが何度倒せたとしても油断はしない。ゴブリン1体にも油断はしない。ゴブリン1体がいくらダンジョンで小さな存在であったとしても、ゴブリン1体が綿密な戦闘計画をパーにする可能性はある」
「その精神は大事にしたいと思います」
魔族たちは久隆の熱心な生徒となっていた。
何せ、既に久隆が単騎でミノタウロスを何十体と撃破していることは知られているのだ。そのような猛者であるならば人間も魔族も関係ない。勇敢な武人だ。そして、勇敢で優秀な武人の言葉には耳を貸すべきだと魔族たちは思っていた。
「では、今日はこれぐらいにしておこう。また分からないことやアドバイスが欲しければ尋ねてくれ。俺としても可能な限り応じるつもりだ」
「ありがとうございました!」
魔族たちは一斉に頭を下げると、解散した。
「あの、久隆さん?」
「フルフルか。どうした?」
久隆が振り返ると、フルフルが災害非常食のプレートを持って立っていた。
「食事がまだのようでしたので持ってきました。レヴィア陛下たちはもう休まれています。流石に今回の戦闘は皆が疲弊したようです」
「ありがとう。助かる、フルフル」
「今日はあなたも随分と激しく戦われましたからね」
フルフルはそう告げてプレートを久隆に手渡した。
「フルフルはもう食事は済ませたのか?」
「ええ。五目御飯セットでした。美味しかったですよ」
「それはよかった」
久隆のはウィンナーカレーセットだった。
フルフルは丁度、終わる時間を見計らって温めておいてくれたのだろう。丁度いい温かさの食事を久隆は口に運び、明日の戦闘のことを考える。
「久隆さんは本当に戦場が居場所なんですね」
「……分かるか?」
「先ほども少し楽しそうでしたよ。生き生きしている感じでした。そんなに戦場というものに惹かれるのですか?」
フルフルは少し首を傾げてそう尋ねた。
「俺は軍人だった。戦場にもいった。戦場には仲間がいた。戦場には必要とされる理由があった。戦場には居場所があった。俺にとっての戦場はそういう場所だった。平和な時代の軍人に価値がないわけじゃない。だが、平和な世界に叩き出された傷病除隊した軍人には居場所がない。だからだ」
久隆はそう告げてカレーを口に運ぶ。
「……今はダンジョンがあるからいいですが、このダンジョンが元の世界に戻ったらどうするつもりなのですか?」
フルフルは心配そうにそう尋ねた。
「さてな。このダンジョンでの戦闘でまた闘争心に火が付いた。平和な世界には馴染めないだろう。今までも馴染んでいたとは言い難いが、なおのこと居づらくなる。サクラにでも誘われたように民間軍事企業に加わるか、不用品は不用品らしく他の戦友がそうしたように……」
久隆は言葉を濁らせた。
「他の戦友はどうしたのですか?」
「自殺した。5人。平和な世界の異物であることに耐えられなかったんだろう」
「そんな……」
フルフルは絶句する。
「俺もひとつ間違っていれば戦友と同じことをしただろう。それほどまでに辛いんだ。平和な世界で生きていくということが。必要とされないことが。居場所がないということが。だから、俺は戦場を求める」
軍人になってから10年以上。久隆の生活は常に戦いとともにあった。
それがいきなり平和な日本に放り出された。
もう彼は必要とされていない。もう彼に居場所はない。もう彼に仲間はいない。
それが無性に虚しくて、惨めで、耐えられなかった。
ダンジョンができてからは久隆には再び戦場が現れた。戦うべき戦場。求められる場所。ともに戦う仲間。それらが全て手に入った。
だが、それも永遠には続かない。久隆たちがべリアを救出し、ダンジョンコアを制御したら、久隆はまた居場所を失う。
そうなると彼にはあまり道は残されていない。
民間軍事企業に入って再び戦場に舞い戻るのか。
あるいは異物は異物らしく排除されることを良しとするのか。
「な、なら、一緒に来ませんか。ヴェンディダードに」
「異世界に行くのか?」
「ええ。あなたの知識は豊富です。生活の知恵から戦場での経験まで豊富です。あなたならば軍に仕官すれば出世頭になるでしょう。ヴェンディダードは不幸なことに常にその独立が脅かされているので戦いもあります」
「だが、俺は人間だ。ヴェンディダードの魔族たちは不満を持つだろう」
「それは……そうですね」
ヴェンディダードは魔族の国だ。人間が出世して、身分の高い地位に就けば嫉妬も起きるだろうし、それを登用したレヴィアへの不満も起きるだろう。
「結局は俺はこっち側で生きていくしかない。余計な心配をさせてしまってすまないな、フルフル。俺は5人の戦友のようにはならないつもりだ。どう足掻いてでも生きていく。だから、お前たちのことも全力で元の世界に戻してやるからな」
「あ、ありがとうございます。ですが、本当に馬鹿なことは考えないでくださいね?」
「約束する」
フルフルたちはダンジョンごと元の世界に戻るだろう。
だが、久隆は約束を破るつもりはない。彼は足掻いてみせると決意した。平和な世界で居場所がなくとも、民間軍事企業にでも入ってでも居場所を見つける。民間軍事企業だって全てが全てどうしようもない連中なわけではない。中にはまともな民間軍事企業も存在する。
サクラからの申し出は真剣に考えてみようと久隆は思った。
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