教育の重要性
本日1回目の更新です。
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──教育の重要性
久隆たちは疲弊した体を引きずるようにして30階層に戻って来た。
「おお。久隆殿。レラジェとは既に会ったようだな」
「ああ。下層の情報をもらった。40階層のエリアボスはワームらしいな」
「うむ。我々としてもなんとかして攻略したいのだが、ワームが相手となるとそう簡単にはいかない。何か妙案はないだろうか?」
「いや。俺も今のところは思いつかない。ただ、ミノタウロス戦についてはある程度攻略手順がマニュアル化されているから、それに従ってくれ。絶対に勝てるとは言わないが、効率的に戦闘を進めることは可能なはずだ。地上に戻ったらマニュアルを作成して戻ってくる」
「ありがたい。久隆殿は優れた武人だ。そなたの観点から見た戦いの進め方はとても評判がいい。これからもお願いしたい」
「できる限りのことはしよう」
アガレスが頭を下げると久隆も頭を下げた。
「今日はダンジョン内で一夜を過ごす。40階層までの道のりを作っておきたい。40階層の攻略については、その間に考える。何もアイディアがないということはないはずだ。敵は他のエリアボスと同じ魔物で、ある程度殴れば死ぬはずだ」
既にべリアはワームの角を折って退けた節がある。それならば殺すこともできるだろう。無敵の化け物など存在しないはずだ。
「では、今日はここでゆっくりしていかれるといい。ただ、話を聞きたがる騎士たちもいるだろう。よければ、久隆殿の体験談を聞かせてやってくれ」
「分かった。善処しよう」
体験談というが、ダンジョン内の体験談なのか、それとも従軍した記録なのか。
従軍した記録の中には話せないものもある。ハーグから逮捕状が出ていると分かっている海賊の幹部に航空爆弾を誘導したことなど。
国連は形骸化していた。確かに国連は世界の国々の貧困、飢餓、戦争をどうにかしようとしていた。だが、常任理事国が拒否権を発動する頻度は高くなり、まるで世界は混乱の中にいるのが当たり前だという風潮ができていた。
民主主義への情熱も失わせた世界で、国連だけが時代から遅れて必死に民主主義と自由の必要性を説いたところで誰も聞きはしない。日本も長年の夢である常任理事国入りを蹴られて、国連を無視するようになりつつあった。中央アジアの平和維持軍のブルーヘルメット任務には人員を派遣したが、ほとんどの国がそうであるように地域に独自発展した国際コミュニティーの有志連合に参加する方が多かった。
資源のない国がいくら貧困と戦争に見舞われようと、国連が民主主義と自由の普及を叫ぼうと、ひとりでも多くの人々を救おうと国連機関が訴えても、日本も国際社会も知らぬふりをした。欧州ですらもはや国連など茶番であると見限っていた。
だから、国連は人道支援を行うのにもはや民間軍事企業を雇うしかなかったのだ。普通の国の軍隊は動かないが、国連分担金は僅かながら支払われている。だから、その金で民間軍事企業を雇う。
そういう社会が久隆たちの暮らす世界だった。
ハーグの逮捕状を無視したことは数えきれないし、日本情報軍が拷問を行うと分かっていて捕虜を引き渡したこともある。久隆の軍歴には守秘義務で覆いつくされたものがちらほらとある。それらは語ることはできない。
だが、このダンジョンのことならば喜んで話そう。
それが彼らを生き延びさせることができるなら。
「久隆様。お疲れさまでした」
「ああ。ありがとう」
さっそく騎士たちが集まってきた。
「久隆様。まずお詫びを申し上げたい。あなた様から騎士を借り受けたいとの依頼があったことは知っていました。ですが、我々は人間に部下を任せるより、自分たちで使った方がいいと思ったのです。それなのにあなた様は不満を言わず、新米少尉だったフォルネウスを鍛えて、瞬く間にバイコーンを撃破し、地下に潜られた」
「グリフォンとヒポグリフもです。あなた様の指揮があったからこそ勝利できたのです。我々はあなた様の期待に背いたのに、あなた様は文句の一言も言わず、我々のために物資を準備され、負傷者を手当てされ、地下に取り残された仲間を救ってくださった」
騎士たちがそう告げるが、久隆にとっては微妙な気分であった。
感謝されたくて、ちやほやされたくて、今の任務を行っているわけではない。
むしろ、これは久隆のエゴだ。戦場を求める久隆のエゴが彼を突き動かしていた。また戦場に戻りたいという気持ちが、仲間たちと死線を潜り抜けたいという気持ちが、彼を魔族たちの救援に突き動かしていた。
善意が全くないわけではないが、久隆としても後ろめたいところがあるので、まるで完全な善意で助けたかのように讃えられるのは居心地が悪い。
「そういうのはいい。気にしてない。うちの捜索班は完成した。使える魔族を俺たちが独占したら戦力が偏るだろ? 戦力は均質でないとな。だから気にしないでくれ」
「そう言ってくださると助かります」
これ以上褒めたたえないでくれと久隆は思う。
俺は俺のために戦っているんだと。
「ダンジョンの戦闘には慣れていらっしゃるのですか? フルフルたちから久隆様の世界にはダンジョンはないと聞きましたが」
「ダンジョン戦闘の経験はこの世界にダンジョンが現れてから積んだ。だが、それ以前に海軍にいた。移乗戦闘を経験している。俺たちの世界の船は大きく、そして構造は狭い。その経験が生きていると思ってくれ」
タンカーやコンテナ船は巨大だが、人間が、それも少人数の人間が運用するものなので廊下や部屋は狭い。まさに閉所だ。
その閉所での戦闘経験があることが、久隆にダンジョンでの戦闘のヒントを与えていたことは間違いない。それに閉所と言えば久隆には室内戦のノウハウもある。どのように内部をクリアリングするか、どのように立ち回るべきかについて知識があった。
「久隆様。よろしければ我々にもその経験をお伝えくださいませんか」
「もちろんだ。今は動かせる人間も少ない。少しでも経験のある兵士が必要だ。では、これから30階層以降に出没するミノタウロスとの戦闘について俺が経験したことを伝えておく。まず、連中と戦う時には陣形が重要だ」
久隆は魔族の近衛騎士や宮廷魔術師にダンジョンでの戦闘方法を聞かせ始めた。
特殊作戦部隊の仕事は何も敵を殺すだけではない。同盟国の軍隊を教育及び訓練することも含まれる。今はこの手の業務は民間軍事企業が幅を利かせているが、同盟国に対する支援として、特殊作戦部隊が別の部隊に教育と訓練を施すということは完全にはなくなっていない。
久隆たち日本海軍特別陸戦隊も紛争で荒れた現地政府軍に訓練を施した。それは一般部隊から特殊作戦部隊まで多岐に渡り、その国の兵士の練度を引き上げた。
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