36階層のモンスターハウス殲滅
本日2回目の更新です。
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──36階層のモンスターハウス殲滅
久隆はただただ斧を振るい続けていた。
だが、その速度が半端ではない。
ミノタウロスが攻撃のためにハルバードを構えた瞬間にはそのミノタウロスの頭は叩き砕かれ、首は刎ね飛ばされる。それもただ頭を砕かれるだけではなく、頭蓋骨がそのまま脊椎にめり込むほどの打撃なのだ。
ミノタウロスが一斉に4体で襲い掛かったそれも無駄だった。
ミノタウロス4体は気づいたときには全滅していた。全員の首がなくなり、ぐらりと前のめりに倒れる。ミノタウロスたちはそのような現場を目撃しても久隆に襲い掛かり続けた。ひたすらに攻撃を続けた。
久隆も戦い続けた。
適度な緊張感はまだ維持できている。戦況は分かっている。まだ自分は冷静だ。久隆は自分にそう言い聞かせる。
力に振り回されかけているのは久隆も分かっている。この膨大な力で何ができるのか試してみたくはある。だが、今は仲間たちとともに戦っているのだ。自分ひとりで戦っているわけではないし、ミノタウロス撃破数コンテストに参加しているわけでもない。
自分の役目はあくまで攪乱。この階層で群がるミノタウロスを次々に混乱させることこそが仕事なのである。
それは達成できているか?
達成できている。ミノタウロスは突如として現れた久隆の脅威の前に混乱状態に陥り、もはや友軍誤射すら引き起こしている始末だ。ミノタウロスは久隆を撃破しようと必死になって群がり、武器をでたらめに振り回しては、仲間を巻き込んでいる。
混乱。混乱。混乱。パニック。
久隆はそれを広げ、拡大し、感染させる。
ミノタウロスがまたハルバードを振り下ろしてくるが振り下ろした瞬間にはそこに久隆の姿はなく、ミノタウロスの眼前に久隆がいた。久隆はそのままミノタウロスの頭を叩き割ると、次に進んできたミノタウロスに向けて軍用ナイフを投擲する。
軍用ナイフはミノタウロスの眼球を貫き、脳深くに達すると、ミノタウロスを絶命させた。久隆はそのまま殺戮を続ける。
自分がコンバットハイに陥っていないかと久隆は自分に問いかける。
いや、自分は冷静だ。殺しを楽しんでいない。血に酔っていない。
ただ、力には酔っているかもしれない。久隆に与えられた力は膨大なものだった。これまで手にしたことのないような力だった。それがあれば多少の無茶はできる。友軍を勝利に導くことができる。
そこまでできるのに力に完全に酔わずにはいられるだろうか?
強大な力に応じるというのはそれを物理的に制御するだけではなく、心理的に制御することも必要となる。武器を持った兵士は民間人より強力だ。だから、彼らは時折、民間人に滅茶苦茶な対応をする。
軍はそれを軍規と軍法で制御するが民間軍事企業のコントラクターのような存在にそんなものはない。イラク戦争の際に民間車両に機関銃を乱射した映像がインターネットに流れたことからも明らかなように民間軍事企業には力を適切に振るうという点で問題があるように思われる。
今は日本国防四軍は民間軍事企業を使っているために、民間軍事企業に対する悪評も報道規制が布かれているが、それでもインターネットには情報が流出する。中央アジアでも東南アジアでも連中はやりたい放題だった。久隆自身、民間軍事企業が民間人を不当に拘束したり、殺害している場面を見ている。
それでいて民間軍事企業は刑事的責任を問われない。改正モントルー協定で正規の戦闘員としてカウントされるようになった民間軍事企業のコントラクターたちは迷彩服を身に着けていてもいいし、国の許可があるならばその国の兵士と同じくらいの権力と免責特権があった。
そして、往々にして内戦状態にある国の政府は無茶苦茶なことをやるものだ。自国市民の自由を制限してでも、内戦を終わらせようとするし、政権は独裁的になる。日本は民主主義が絶対的価値観でなくなった2040年代だからこそ、そういう独裁的政権でも軍事支援を行っていた。日本にとってはその国のことはどうでもいいのだ。その国を根城にしている海賊をどうにかしなければならないのだ。
だからこそ、民間軍事企業の無茶苦茶なやり方にも日本政府は何も言わなかった。見て見ぬふりをした。民間人が不当に拘束されようと、ちょっと抵抗しただけで射殺されようと、日本政府は知らぬふりを決め込んだ。そして、日本の軍部もそれを後押ししていた。日本国防四軍にとっても民間軍事企業は重要なのだ。
このように力は人を精神的に狂わせる。理性を失わせ、道徳心を失わせ、常識を失わせ、力を振るうことに酔ってしまう。
久隆の力も久隆の精神を狂わせようとしている。
強力な力は万能感を与え、それが精神を狂わせる。
自分は何でもできる。自分に不可能はない。自分の力の前には全てが平伏す。
それが人を狂わせる。
久隆は必死に力に振り回されまいと努力している。
作戦の目的を思い出せ。力の理由を思い出せ。どうして自分が戦っているか思い出せ。それは決して、ひとりで殺し続けるためのものではなかったはずだ。仲間たちを助けるためだったはずだ。それを思い出せ。
久隆はそう心に何度も、何度も言い聞かせ、刻み込み、斧を振るい続けた。
ミノタウロスの数が減っていく。もう何体殺したのかは覚えていない。ただひたすらに殺し続けた。ミノタウロスが血を流すのならば、久隆は真っ赤に染まっていただろう。魔物が死んで残すのは血ではなく金貨と宝石。
それが積み重なっている。ミノタウロスを倒し続けてきた証拠だ。
殺して、殺して、殺して、砕いて、裂いて、刎ね飛ばして。
ミノタウロスは恐怖という感情を有さない。ただ、ひたすらに突撃してくる。久隆はそれを迎え撃ち、斬り込み、追撃し、ミノタウロスを殺し続ける。
「やった、のか?」
いつの間にか久隆の周りにはミノタウロスの姿は消えていた。ミノタウロスの足音もしない。振動もない。久隆は索敵を念入りに行ったがミノタウロスの生き残りはいない。
「レヴィア! そっちは無事か!?」
「無事なの! 久隆こそ大丈夫なの!?」
何もいなくなった36階層の廊下をレヴィアたちが走ってくる。
「こ、この金貨と宝石の量……。ひとりで一体何体を……」
「分からん。とにかく倒し続けた。その結果だ。そっちはどうだった?」
「ばっちりでした。あなたが攪乱してくれたおかげでミノタウロスたちは混乱していましたから。レヴィア陛下とマルコシアが魔法を叩き込み、フォルネウスさんとサクラさんが前線を支え、切り抜けました」
「それはなによりだ」
久隆はまだ自分にあの膨大な力が渦巻いているのを感じた。
このまま40階層まで突撃できそうな高揚した気分すら感じられ、それを自分で否定する。もう今日はここまでが限界だ。帰還の準備を始めるべきだと。
「フルフル。付呪を解いてくれるか?」
「は、はい。『汝にかけられし魔法よ、解けて、消え去れ』」
ようやく久隆は力が小さくなっていくのを感じた。
そして、反動のようにどっと疲労が押し寄せる。
「流石に今日はここまでだな。30階層に戻って、食事を済ませたら眠って、次の朝から40階層までの道を作ろう。連戦になるが、大丈夫か?」
「大丈夫なの!」
「よし。では、30階層に戻ろう」
久隆たちは30階層に凱旋する。
今回は31階層から36階層まで一気に突破した。かなりの進展だ。
だが、40階層のワームをどうするべきか。
それが問題だった。
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