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34階層に降りるか否か

本日2回目の更新です。

……………………


 ──34階層に降りるか否か



「疲れたものは?」


「疲れたのー……」


 久隆が全員の体調をチェックするのに、レヴィアたちが疲弊しきった声を上げる。


 33階層の戦いはフルスロットルだった。立ち止まることなく戦い続ける。後方から追われ、前方から迫られ、必死に前方に活路を見出し続けたのが33階層の戦いだった。


 レヴィアたちが疲れるのも当然だ。33階層はずっと走っていたのだ。それも久隆のような訓練された元職業軍人の速度で。行軍の訓練など受けていないレヴィアたちには、たとえ荷物がなかったとしても堪えたことだろう。


「このまま34階層に潜るのには不安がある。ここで昼食と休憩にしよう。今のうちに体力を回復させておけ、34階層も恐らくは同じように追い回されることになるぞ」


「うへえなのね」


 ミノタウロスしか出没しないエリアではこのような戦いが強いられるだろう。後方のミノタウロスから逃げつつ、前方のミノタウロスを撃破して活路を見出す。


 しかし、そんなギャンブルめいた方法で本当にそれをマニュアルにしていいのかという疑問が残る。久隆たちはその方法で乗り切ったが、他のアガレスの部下たちが同じように戦えるという保証はないのだ。


 まあ、レヴィアを抱えている分、久隆たちの速度は遅い。だが、火力は高い。アガレスの部下たちが訓練を受けた職業軍人たちならば安心できるが、宮廷魔術師団というのがネックになる。彼らは戦闘員として育てられたのだろうか? 彼らは行軍などの基本的な戦闘訓練を受けているのだろうか?


 マルコシアとフルフルを見る限り、身体能力が鍛えられているとは思えない。どちらも息を切らせている。フォルネウスですら息が上がっていた。久隆はまだ僅かばかり汗をかいただけである。


 やはり、この作戦には無理があるかと久隆は考えた。もっと効率的で、誰にでもできて、なおかつ犠牲の出ない方法を考えなければと思う。


 しかし、あの猛獣を相手にどのように戦えばいいのか。


 2体、3体程度ならどうにかなる。だが、12体も出てきた。


 戦力を可能な限り同時投入して、多正面作戦を展開する?


 確かに久隆たちの有する戦力は僅かに6名だが、アガレスのところには救助された生存者たちと15名の戦力が存在する。ひとつの通路当たり、騎士2名魔法使い2名の編成が組めれば、通路の一方は抑えられる。後はもう1組投入して、もう一方を抑える。


 他正面作戦が展開できるなら、魔法に弱く、頭も賢くないミノタウロスを同時に相手することは可能だろう。少なくともミノタウロスは飛び道具を使わない。


 前衛が抑え、後衛が火力投射。それを多正面で展開する。


 これならば逃げ回る必要はない。


 ただ、前衛はミノタウロスの攻撃に耐え続けなければならないが。そこは騎士たちの腕の見せ所だろう。


 少なくともフォルネウスはマルコシアとサクラの支援でミノタウロスを退けたのだ。他の騎士にそれができないという話はないはずである。


「疲れすぎて、食欲もないのね……」


「だが、食べろ。食べることは義務だ。ここで誰かがばてたりしたら、そのしわ寄せは周囲に及ぶ。しっかり食べて、しっかり休め。それが義務だ。次に休めるのは34階層を掃討した後になる。それまでにコンディションを整えておけ」


「了解なのね」


 正直、戦場でこんなにのんびりと食事と休憩ができるだけで自分たちは恵まれていると久隆は思う。東南アジアの戦争では、戦場でこのようにくつろぐことなど考えられなかった。民兵のドローンが常に周囲を飛び回っていたし、パトロールは地元の人間で人の隠れられそうな場所を知り尽くしている。


 久隆たちは手早く食事を流し込むように済ませ、休憩は15分程度。それ以外は常にナノマシンの維持する適度な緊張の中にあった。いつ民兵や海賊が気づいても対処できるように彼らは神経をすり減らして潜んでいたのだ。


 現地政府軍は隠密作戦の際には使えない。彼らの中には内通者がいて、情報が漏れている節があった。少なくとも日本情報軍はそう判断し、情報を与える際には現地政府軍には知られるなと言われることが多々あった。


 久隆はサクラと12名のチームで敵地奥深くに入り込み、敵の幹部や武器への爆撃を要請する。ハーグから逮捕状が出ているものは可能ならば逮捕した。だが、もっぱら殺してしまうことの方が多かった。


 ハーグの国際刑事裁判所に送れば、当然裁判になる。そこでは日本海軍の兵士が子供兵を殺していることや、市街地を巻き込む爆撃を行っていることが証言されてしまう。日本情報軍が口を封じようにも、国際機関に容疑者として確保されてはどうしようもない。


 だから、そのような証言の余地を与えず殺してしまう。


 それにあの地獄を作り出した連中がハーグで生易しい裁判を受けて、懲役刑程度で済まされるのは現場としては許せなかった。連中がけしかけた子供兵の死、現地政府軍のまだ若い兵士たちの犠牲、それを見せつけられた日本海軍としては膝頭を撃ち抜いてから命乞いをする幹部の頭に9ミリパラ弾を叩き込んでやる方が精神衛生的によかった。


 思えば惨いことをしてきたものだと思う。


 現地政府軍は徴兵で集めたまだ若い兵士たちを前線に送り込み、日本海軍はそれに隠れるようにして行動する。遠くから空爆を要請する中、勇敢な現地政府軍が攻撃を仕掛けるのを眺めているだけのこともあった。


 そして、命を懸けて戦った時は、子供兵を山ほど殺した。現地政府軍に正規の徴募ルートを遮断されている状態では使えるのは脱走兵やアジアの戦争における指名手配された戦争犯罪者たち。そして、そこらの村を襲って得られる子供兵となるのだ。


 カラシニコフがあれば子供でも脅威になる。脅威は排除しなければならない。


 日本海軍の兵士たちは頭にナノマシンを叩き込み、感情を可能な限り殺していたが、そうではない現地政府軍の兵士たちは悲惨だった。彼らは自国の、自分たちが守るべきだった子供たちを殺さなければならなかったのだから。


 それがどれほどの苦痛だったのか、久隆には想像もできない。


「サクラ。弁当、美味いか?」


「ええ。料理、お上手ですね」


「ひとり暮らしだからな。それも田舎だ。料理は自然と覚える。だが、そこまで上等とも言えんだろう。男の料理は大雑把というだろう?」


「そうは感じられない味ですけどね。私も料理は覚えたので期待しててください。次は私がお弁当を作ってきますよ」


「期待しておこう」


 サクラは同じくあの戦場にいて、何を感じたのだろうか。


 民兵への憎悪? 海賊への殺意? 子供兵への同情?


 それを聞く気にはなれなかった。世界の不条理を掘り返しても何の意味もない。あれはもう過ぎ去った日々であり、もう自分たちとは関係のない世界だ。


 それに今は戦友は確かに存在する。


 レヴィア、フルフル、マルコシア、フォルネウス。


 種族は違えど、目指すものは同じ。ともに肩を並べて戦う戦友。


 そう考えると久隆は少しばかり気が楽になった。


……………………

本日の更新はこれで終了です。


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