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33階層の牛たち

本日1回目の更新です。

……………………


 ──33階層の牛たち



 33階層以降はミノタウロスだけだというレラジェの報告を受けて久隆たちは用心して、33階層に降りた。降りてすぐに索敵を始める。


「ミノタウロス12体。バラバラの位置にいる。不味いな。ダンジョンの構造上、挟み撃ちにされる可能性がある」


 ダンジョンの構造についてはレラジェからある程度知らされている。


 構造は相変わらずの迷路状で、複雑に通路が入り組んでいる。ミノタウロスの反応はその複雑な構造の中に点在しており、下手をすると2、3体を相手にしている間に後方から別の2、3体が襲ってくるという可能性があった。


 久隆ひとりで前線を支えることは不可能ではないだろう。だが、フォルネウスひとりに任せるとなると面倒なことになってくる。


 フォルネウスもいまや歴戦の猛者と言っていいが、久隆と比較するとまだまだな部分もある。敵を倒した後に安堵してしまう癖があるのだ。戦闘中は常に一定の緊張状態を維持しておかなければならない。安堵してはならない。


 久隆はそういう点からこの33階層をどう攻略するか考えた。


「全員、ミノタウロスをなぎ倒しながら進むぞ。戦闘時間は1回当たり3分以内に収める。挟み撃ちを避けるためにとにかく移動し続け、敵を倒しながら、常に迅速に移動する。動き回る相手を上手く挟み撃ちにできるほどの技術を、敵は持ち合わせていないはずだ」


 魔物には知性はない。


 そうであるからにして、この作戦は通用すると久隆は考えた。


「3分以内で突破できますか?」


「幸い、数は散らばっている。最大でも3体。少なければ1体。やれないことはない」


 3体の場合は1体辺り1分。1体はマルコシアが確殺するとして、残り2体を久隆とフォルネウスで仕留める。そう考えるといけないことはないように思われる。


「それでも挟み撃ちのリスクはある。気を付けてくれ。フォルネウス、挟み撃ちになった場合、お前は後方に回って後方を守るんだ。いいな?」


「了解」


「よし。では、始めよう」


 久隆たちは第一撃は奇襲をと考えて静かに進む。


 このままミノタウロスを完全に不意打ちできて、静かに片付けられればいいのだが、ミノタウロスのタフネスはゴブリンの比ではない。ゴブリンのように軽く始末できる相手ではないのだ。だから、強襲するしかない。


 まずは偵察のために無人地上車両(UGV)を走らせる。


「ミノタウロスを確認。武器は長剣だな。ハルバードより隙がなさそうだ」


 ハルバードは重量があったのでミノタウロスでも隙が生じたが、今回のミノタウロスは長剣を携えていた。相変わらず地形を無視した武器だが、ミノタウロスの場合は何の問題にもならない。


「数は2体。一瞬で仕留めて、次に行くぞ」


「了解です」


 久隆の言葉にマルコシアが頷く。


 久隆たちは密かにミノタウロスの背後に忍び寄り、ミノタウロスを視認する。


「フルフル、付呪を。マルコシアとレヴィアは魔法を叩き込め。後は俺が仕留める。フォルネウスは後方に警戒」


「分かりました。『このものに戦神の加護を。力を与えたまえ。戦士に力を』」


 フルフルが付呪をかけ、戦闘準備が完了する。


「3カウントだ」


 3秒のカウントが始まる。


 3──2──1──。


「今だ」


 久隆が飛び出す。


「『吹き荒れろ、氷の嵐!』」


「『爆散せよ、炎の花!』」


 2体のミノタウロスの内、1体はマルコシアが撃破。残り1体もレヴィアの魔法を浴びる。ミノタウロスが半狂乱に陥ったところに久隆が斧で斬り込む。


 ミノタウロスは満足な反撃もできぬまま頭を叩き割られて倒れる。


「さあ、連中が気づいたぞ。挟み込まれる前に叩きのめす」


 マルコシアの爆発音でダンジョンの全てのミノタウロスが反応した。


 音のした方向に猛スピードでミノタウロスたちが集まってくるのが分かる。


「このまま前進! フォルネウスは引き続き後方に警戒! とにかく倒し続けるぞ!」


 久隆はダンジョンを縫うようにして進み、現れたミノタウロスと交戦する。


 3体のミノタウロスが現れたときは3体をレヴィアの魔法で、1体をマルコシアの魔法で、1体をサクラの弓矢で、1体を自身の斧で駆逐し、とにかく挟み撃ちを避けるためにダンジョン内を駆け巡り続ける。


 だが、ミノタウロスの脚力はオークやオーガの比ではない。確実に追い詰められていく。前方からも、後方からもミノタウロスが突撃してくる。


「レヴィア! マルコシア! 叩き込め!」


 久隆は後方から迫るミノタウロスの気配を感じながらも必死になって前方のミノタウロスを仕留めていく。


 ミノタウロスの長剣が振り回されれば、斧で弾く。衝撃は響くが、それだけだ。斧さえ欠損しないと分かっていれば、力業で押し込める。それがたとえ、ダンジョンの壁を容易に叩き壊す代物であったとしても。


 そして、相手の得物を蹴り飛ばすなり、手を切り飛ばすなりして、奪ったのちは頭か首を引き裂く。大腿動脈への攻撃も有効だが、狙いにくい。腎臓は筋肉で守られているのか、そもそも存在しないのか弱点にならない。


 頭か首狙い。それが一番確実。


 そうやってダンジョンを駆け巡っている間にとうとう追いつかれた。


「久隆様! 後方からミノタウロスです!」


「前方からもだ! 任せられるか、フォルネウス!?」


 前方からも猛スピードでミノタウロスが迫っており、後方からもミノタウロスが。


 ついに挟み撃ちである。


 後方に久隆が向かえば前方から迫るミノタウロスへの対処が遅れる。後方をフォルネウスに任せるのには一抹の不安が残る。


 だが、部下を信じることも上官の役目だ。


「マルコシアはフォルネウスと後方のミノタウロスを! レヴィアは前方! サクラは場合に応じてどちらにでも対処できるように!」


「了解なの!」


 久隆はテキパキと指示を下し、彼の戦闘に突入する。


 前方からはミノタウロスが2体。恐らく後方から迫っているのと合わせてこれが最後のミノタウロスだ。これを凌げばこの階層はクリアだ。


「レヴィア!」


「『吹き荒れろ、氷の嵐!』」


 氷の嵐がミノタウロスを引き裂く。2体は同時に視界を奪われた。


 長剣を振り回しながら突撃してくるミノタウロスを相手に久隆が突撃して迎え撃つ。


 長剣の攻撃を飛び跳ねて回避し、斧をミノタウロスの頭に叩き込む。ミノタウロスがそれでやられたと同時にもう1体に移る。もう1体は完全には視覚を失っておらず、久隆を狙って長剣を刺突した。


 突き出される長剣の刃を久隆が斧で弾き飛ばす。それでもミノタウロスの手から長剣は離れず、再度攻撃を試みてくる。長剣が横なぎに振るわれ、久隆は蹴りでそれを蹴り上げると、ミノタウロスに生じたその隙に乗じて斧をミノタウロスの頭に叩き込む。


「フォルネウス! そっちはどうだ!」


「やりました! マルコシアとサクラさんのおかげです!」


「そうか。これでこの階層はクリアのようだな」


 久隆はそう告げてほっと安堵した。


 ようやく安堵することが許されたのだ。


……………………

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