33階層以降の情報
本日2回目の更新です。
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──33階層以降の情報
「待て」
久隆たちがジャイアントオーガを始末し、33階層に下ろうとしたところで、久隆が待ったをかけた。魔物は階段を上らないはずだが、どういうことだろうか?
「人の気配がする。微かな布のこすれる音がする。魔族だ」
「先行していた偵察部隊ですかね?」
「その可能性はあるな」
生存者が33階層以降にいるとも考えられるが、この30階層より下にはミノタウロスが出没する。ミノタウロスを相手に生き延びるのは大変だろう。
久隆はフォルネウスとともに階段から少し離れた位置に待機する。
そして、気配が階段に近づいたところで、久隆が合言葉を告げる。
「『ネクター』」
少しして返事が返ってきた。
「『アルケミスト』。久隆様たちですね」
現れたのはレラジェの偵察部隊だった。
「迎えに来た。ここと31階層は掃討済みだ。それで33階層以降の情報をくれるか?」
「ええ。まず我々はモンスターハウスの位置を把握しました。36階層です。そして、33階層以降はミノタウロスだけになります。とにかくミノタウロスが多いです。ミノタウロスが現れ、ミノタウロスが現れ、ミノタウロスが現れ……」
「ミノタウロスだらけか。確かに合理的でもある。ここまで来たということは上層のゴブリンを突破してきたってことだ。そして、ミノタウロスとゴブリンは正直相性が悪い。ミノタウロスは周囲にお構いなしに武器を振り回すからな」
これが戦争ならば単一兵科で戦いを挑むのは上策とは言えない。歩兵だけで戦うより、砲兵や戦車がいる方が戦いやすいのは言うまでもない。
だが、ここはダンジョンで、一般的な戦場とは比較できない。
強力な歩兵だけで戦う。いや、強力な戦車だけで戦う。
戦車と空軍の支援のみで戦争を戦うというオールタンクドクトリンは第四次中東戦争で否定されたドクトリンだが、単一兵科での作戦行動というのはある意味では連携や意志疎通が必要なく、ある程度の戦闘力は期待できる。もちろん、ミノタウロスはそのせいで魔法にいいようにやられているとしても。
接敵距離がかなり近く、移動は制限され、多数の戦力が展開できないダンジョン内ではミノタウロスという戦車だけで戦うというのはある意味では解答のひとつと言える。
それにミノタウロスは戦車といっても、ジャイアントオーガのようなバランスの悪い重戦車ではない。機動力、攻撃力、防御力をバランスよく有する主力戦車だ。重戦車のように足の遅さを突いて攻撃するわけにはいかない。
だが、戦車は戦車。歩兵や砲兵の支援もなく戦えば、歩兵でも倒せる。そのことは第四次中東戦争でアラブ側がイスラエルに示した。対戦車ロケットや無反動砲、対戦車ミサイルなどを多用するアラブ側にイスラエルの機甲部隊は大損害を出した。そのときのイスラエル軍は戦車偏重の軍隊であった。
久隆たちは対戦車兵として肉薄して戦い、レヴィアたちは砲兵として遠距離から攻撃する。それによってミノタウロスは撃破できるのだ。
それに何よりミノタウロスは賢くない。
ミノタウロスは魔法に弱いのに魔法使いを積極的に攻撃しようとせず、前衛といちいち交戦する。確かに久隆たちでもミノタウロスを撃破できるが、より脅威なのは魔法使いだ。歩兵が集束手榴弾で攻撃してくるのを相手にするよりも、対戦車砲で攻撃してくる方を優先的に攻撃するのは当然であると言える。
だが、ミノタウロスはそうしない。
数がいるのだから、一部がハルバードなり長剣なりと振り回して前衛を強引に突破し、後方から前衛が攻撃しようとするのを後方から続くミノタウロスが防ぎ、その間に魔法使いを倒せばミノタウロスは優位に戦えるだろう。
ミノタウロスがそうしないのは、知性のなさを窺わせる。
ダンジョンコアには知性が窺えるのに、それが生成する魔物にはまるで知性が窺えない。不思議な話である。
「モンスターハウスもミノタウロスだけか?」
「ええ。偵察するのには肝を冷やしましたけれど、27階層のモンスターハウスより偵察そのものは行いやすかったですよ。それで36階層以降に潜ったのですが」
「エリアボスか」
「ええ。エリアボスはワームです」
レラジェはそう告げた。
「すまん。ワームというのがどういう物なのかについて説明してくれるか?」
「ワイバーンのような頭部を有し、硬い鱗に覆われた魔物の一種です。ワイバーンのように翼は持っていませんが、這って進む速度はかなりのものです。そして、炎を吐くこともします。正直言って、かなりの脅威です」
「確かにな。硬い鱗というものが面倒そうだな」
そこで久隆はフルフルを見る。
「付呪でワームの鱗を劣化させられるか?」
「い、いいえ。試したことがありますが。できませんよ。それに、火炎放射は魔法ではないので、防ぐことはできません」
「ああ。そうか」
久隆はゴブリンシャーマンの炎を想像してフルフルの付呪で防げると思っていたが、ワームの炎は付呪では防げないのだ。
「となると、火炎放射を避けながら、ワームと戦わなければならないのか」
久隆はどのような戦闘になるのだろうかと考えたが、どう考えても危険な試みだった。そこで30階層で全兵力を投入したことを考える。
「ダンジョンの構造は?」
「これまでのように開けた地形ではありません。曲がりくねった廊下のある地形です。そこをワームが這いながら動き回るのです」
「つまり、30階層方式は使えない上に火炎放射を避けるのも困難というわけか」
かなり不味いと久隆は思う。
まともに戦えば火炎放射で黒焦げだ。何か裏をかかなければ。
「とりあえずは40階層までの道のりを切り開くことだな。40階層に到達しなければ、話にならない。ミノタウロスの相手をし続けなければな」
「可能そうですか?」
「やらなければならないだろう。べリアは見つかっていないんだろう?」
「……ええ。べリア様は見つかっていません。ただ、ワームを観察したところ、角が折れていました。誰かがワームと既に交戦したということです。恐らくはそれがべリア様で、べリア様は40階層以降に潜られたのではないかと」
「だとしたら、凄いな。火を吐く化け物を相手に単独で戦って退け、下層に潜ったわけだ。べリアってのはそこまで強いのか?」
久隆がレヴィアの方を向いて尋ねる。
「べリアはとても強いの! どんな魔物だろうと一撃なのね!」
「で、ですが、べリア様も魔力の限度がありますし、食事を摂らねばなりません。ダンジョンを潜り続けているのでは相当疲弊しているはずです。は、早く我々が向かわなければなりません」
「そうなのね……。べリアもきっとお腹を空かしているの」
フルフルの言葉にレヴィアは肩を落とした。
「まあ、べリアは少なくとも36階層のミノタウロスだらけのモンスターハウスを突破し、ワームに一撃加えて下に降りたんだ。そう簡単にやられたりはしないだろう。そう焦るな。焦ると上手くいくことも上手くいかないぞ」
「急がば回れなのね」
久隆はどうしてべリアが上を目指さず、下を目指したのか分からなかった。
上を目指していてくれたら、もっと早く合流できたというのに。
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