ミノタウロス乱戦
……………………
──ミノタウロス乱戦
ゴブリンの始末はいつも通りだった。
誘導と隠密殺害。この繰り返し。ゴブリンシャーマンは例によってサクラによって撃ち抜かれた。ここまで行動がマニュアル化してくるとゴブリンもさしたる脅威ではないように感じてくる。
だが、ゴブリンに挟撃などされたら厄介なのは間違いない。特にゴブリンシャーマンの火力は全魔物の内、もっとも高い。
「さて、ミノタウロスだが」
久隆はバックパックを下ろし、再び無人地上車両を走らせる。
ミノタウロスの姿は10分ほどで確認できた。
「武器はハルバード。こいつらは地形に構わず、巨大な武器を使うな……」
以前のジャイアントオーガなども巨大な武器を使っていたが、ミノタウロスの場合、ダンジョンの壁を破壊してそれを振るってくる。武器の大きさがダンジョンの狭さにあまり影響されないのだ。
もちろん、壁を破壊しながら勢いを全く失わず振るい続けることは無理だ。だが、これまでのようにはいかないことも確かだった。
「よし。ある程度のことは分かった。攻略にかかろう」
奇襲のために足音を立てず、密かにミノタウロスたちに近づく。
そして、ミノタウロスを視認。距離80メートル。直線の廊下の途中で奥に進んでいっている。これで完全に相手の背中が取れたことになる。久隆たちは決して油断せずに戦闘の準備を始める。
フルフルの付呪をかけてもらい、レヴィアとマルコシアが魔法攻撃の準備を整え、サクラが矢を番える。
そして、可能な限りミノタウロスが離れた位置にいるときに攻撃を開始した。
「『吹き荒れろ、氷の嵐!』」
「『爆散せよ、炎の花!』」
氷の礫がミノタウロスの肉体を引き裂き、結界に閉じ込められた爆発が確実にミノタウロスの頭部を弾けさせ、命を奪い取る。この時点で1体のミノタウロスを確実に撃破。
リキャストは1分後。だが、相手はその1分も待ってくれそうにない。
「迎え撃つぞ、フォルネウス」
「了解です」
ミノタウロスは既に魔法攻撃の衝撃から立ち直り、久隆たちに向けて突撃してくる。バイコーンほどの速度ではないが、オーガやオークと比べたら脅威的な速度だ。速度そのものが武器になっている可能性すらある。
そして、繰り出される斬撃。
ダンジョンの壁を容易に破壊し、崩れた壁がボロボロと崩れ落ちる中、怒り狂った猛牛がハルバードを振り回す。
「フォルネウス! 受け止めようなんて思うなよ!」
「はい!」
こんな威力の斬撃をまともに受けたら武器ごと弾き飛ばされる。
下手をすれば胴体が上半身と下半身で泣き別れだ。
しかし、どう隙を突いたものかと久隆は考える。
ちょっとしたミスが死を招く。ミノタウロスの猛攻はまさに暴れ牛だ。上層ではミノタウロスの弱点を探ってみようと言ったが、これでは弱点を見つける前に自分たちがミンチにされてしまうのではないかと思わされる。
しかし、隙は生じた。
ミノタウロスがハルバードを振り上げて天井を破壊しながら振り下ろしたとき、床にハルバードの刃が突き刺さったのだ。
久隆はその瞬間を見逃さなかった。
久隆は瞬時にミノタウロスの懐に飛び込み、首を刎ね飛ばす。
これで2体撃破。
残り5体。
久隆は気づいた。相手は突破を試みていない。目の前の敵を倒すのに躍起になって暴れているだけで、後方に突破し、魔法使いであるレヴィアやマルコシアを攻撃しようとはしていない。
つまり、いくらでも時間稼ぎができるということ。
ただし、相手の攻撃を避け続けられる限りという条件が付くが。
ミノタウロスの猛攻はオーガやオークの比ではない。ダンジョンを文字通り破壊しながらハルバードを振り回している。しかし、そのせいもあって、相手に攻撃を行えるのは前方の1体に限られ、久隆たちはその1体を相手にしていればいい。
これはいける。久隆は勝利の気配を感じ取った。
「レヴィア! フルフル! 魔法を叩き込め!」
「了解なの!」
再び氷の嵐が吹き荒れ、ミノタウロスが切り刻まれ、爆発でミノタウロスの頭部が爆ぜる。ミノタウロスはこれでまた1体が脱落。残り4体。
「フォルネウス! チャンスだ!」
「了解!」
氷の礫が視界を奪い、ミノタウロスが苦痛に呻くのに久隆とフォルネウスが飛びかかる。久隆はミノタウロスの頭を砕き、フォルネウスは心臓に短剣を突き刺して内部から炎上させる。これで2体撃破。残り2体。
だが、勝利が隙を生んだ。
フォルネウスが短剣をミノタウロスから引き抜く瞬間を狙って、ミノタウロスが巨大なハルバードの刃でフォルネウスを狙ってきたのである。
「フォルネウス!」
久隆はすかさずフォルネウスとハルバードの刃の間に入り、斧でハルバードの刃を受け止めた。ジリッと地面をブーツが擦るが、ハルバードの刃は止まった。ダンジョンの壁すら破壊するハルバードの刃が止まったのだ。
「サクラ! やれ!」
こういう時に備えて久隆はサクラにはまだ矢を放たせていなかったのだ。
サクラは番えた矢をミノタウロスの眼球めがけて放った。矢はミノタウロスの眼球を貫き、脳に損傷を負わせるとミノタウロスは倒れた。
「ラスト1体……!」
久隆は斧を構えて、息を大きく吐く。
ミノタウロスは猛烈な速度で突撃してくる。久隆も同程度の速度で迎え撃つ。
両者が交錯したとき、ミノタウロスの首がごろりと地面に落ち、そのまま消え去った。久隆はもう索敵を行っており、戦闘終了の余韻すら残していなかった。
「ジャイアントオーガのお客さんだ。お引き取り願おう」
久隆はそう告げてミノタウロスとの戦闘の音を聞きつけてやってきた鎧ジャイアントオーガ3体を仕留めた。こちらはもう慣れたもので、フォルネウスも久隆も楽々と鎧ジャイアントオーガを片付けてしまった。
「さて、ちとばかり冷や汗が出たな」
「すみません、久隆様! 自分を庇って……!」
「仲間は助け合うものだ。こういう場所では特に」
久隆はそう告げて斧を見た。
アーティファクトというのは本当に壊れない代物のようであり、ダンジョンの壁をぶち壊した威力のあるハルバードの攻撃を浴びても傷ひとつなかった。
傷ひとつないと言えば久隆自身もそうだ。彼はあれだけの威力のある攻撃を受けていながら、弾き飛ばされなかった。ダンジョンの壁すら破壊する攻撃を受けて、無傷だったのである。自分があれを受け止められたことは久隆自身も信じられなかった。
「久隆凄いの! ミノタウロスの攻撃を受け止めたの!」
「ああ。驚いている。強化外骨格を装備してもあれだけの攻撃は受け止められなかっただろう。それこそアーマードスーツでも持ち出さない限りは無理だったはずだ。相手が弱っていたこともあるだろうが、それでも異常だ」
また朱門の検査を受けた方がいいなと久隆は考えた。
「でも、対処方法はある程度掴めましたね」
「ああ。魔法で奇襲して数を減らし、前衛が押さえている間にさらに魔法を叩き込む。ミノタウロスは自分たちにとって何が一番の脅威なのか分かっていない。でたらめに目の前の敵を倒そうとするだけだ。筋力はアップグレードされたが、思考はダメだ」
サクラが告げると久隆が頷いた。
ミノタウロスは自分たちにもっとも脅威である魔法使いたちを攻撃せず、前衛の相手を律儀にしてくれる。前衛と一緒に躍っている間に魔法使いが魔法を叩き込み続ければ、この程度の数のミノタウロスならどうにかなるだろう。
ダンジョンの脅威はまたひとつ対策された。
……………………




