新しい怪物
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──新しい怪物
「さて、まずは未確認の目標を確認しに行こう」
久隆たちはジャイアントオーガとゴブリンを巧みに避けて、目標の傍に近づく。
「ここからこいつの出番だ」
僅かなモーター音も立てず、とても静かに無人地上車両は走り出した。
静粛性抜群の無人地上車両は進み続け、Webカメラの映像がタブレット端末に送られてきて、その映像を基にタブレット端末で無人地上車両を操作する。
曲がり角を少し曲がったところで、巨大な影が見えた。無人地上車両がカメラを上に上げる。するとそこに映っていたのは……。
「なんだ、これは」
久隆が思わず声を上げたのは牛の頭をした巨人だった。筋肉質な肉体を晒して歩き回り、それが4体集まっていた。
「ミノタウロス、だよな?」
「そうなの……。とても危険な魔物なの……」
「そうか。だが、やるしかない」
久隆はミノタウロスの武装を確認する。ミノタウロスは巨大な剣を持っている。
動きはオーガなどよりも速く、足早に移動し続けている。無人地上車両には視線の高さの問題で気づく様子がない。それをいいことに久隆はミノタウロスをしっかりと観察した。
「特に知性が上がったというわけでもなく、武器はダンジョン内で振り回すのには向いていない。やれるんじゃないか」
「ミノタウロスはその筋肉の強力さで恐れられています。重武装の近衛騎士でもミノタウロスの一撃を受ければ、真っ二つです。受ければ確実にやられます。ダンジョンの壁ですら一時的に破壊するほどの威力のある筋力をしているのですから」
久隆がそのように告げるとマルコシアがそう警告した。
「なるほど。油断はできない相手だというわけだな。では、最悪を想定しよう。ここにいるだろうゴブリン長弓兵とゴブリンシャーマンがミノタウロスを盾に攻撃を仕掛けてくる場合だ。ミノタウロスを迅速に倒さなければならないが、ゴブリンも同じくらい迅速に倒さなければならない。その場合、どうする?」
久隆がそう全員に問いかける。
久隆は試していた。これまで一緒に戦ってきて、レヴィアたちがどれほどの自主的判断ができるようになったのかを。もちろん、指揮は久隆が執り続けるし、久隆に何かあった場合はサクラが指揮を引き継ぐ。
それでも仲間たちの自主性が必要だ。魔法使いの視点から、魔法剣の使い手の視点から、この問題にどうアプローチするかを聞きたい。
「遠距離でゴブリンに魔法を叩き込んで、逃げながら攻撃を続けるの。ミノタウロスはその巨体に似合わない速度をしているけれど、ちょこまかと逃げ続けて、まずはゴブリンを壊滅させるの。それからミノタウロスに魔法を叩き込むの!」
「私が速度低下の付呪をかけられれば完璧ですね」
フルフルとマルコシアが同意だというように頷く。
「自分もその案に賛成ですが、いつまでも逃げ回れない場合もあります。ですが、幸いミノタウロスは魔法に弱いという弱点があります。多少の不利はあるでしょうが、魔法剣を使えば足止めは可能です。それにミノタウロスはこの廊下では1体ずつしか展開できません。1体ずつ片付けていけます。ゴブリンも同士討ちを恐れて、攻撃できないでしょう」
フォルネウスはまた違った意見を述べる。
「貴重な意見だ。参考になった。特にミノタウロスは魔法に弱いというのはいいニュースだ。魔法攻撃担当は気合を入れてくれ、フルフルも付呪の準備を。こういう場合は常に最悪を想定する。だが、可能な限り最悪の事態は避ける」
久隆はそう告げて無人地上車両を帰還させる。そして、それをバックパック内の専用のケースに収める。この機械は精密機器だ。戦闘中に揺れ回るバックパックの中で故障してもらっては困る。
「まずはゴブリンを片づける。いつも通りだ。確実に隠密で仕留めていくぞ」
最悪を避けるにはまずゴブリンを静かに片付けることから始まる。
久隆たちは音もなくゴブリンたちに近づく。
やはりゴブリン長弓兵とゴブリンシャーマンがいる。
久隆は石で誘導し、始末し、誘導し、始末しを繰り返す。
「残りゴブリン長弓兵3体、ゴブリンシャーマン1体」
「今回は他に群れはいませんが、最後まで隠密で行きますか?」
「ああ。ミノタウロスを奇襲したい」
久隆は斧を握り、フォルネウスは短剣を握り、サクラはコンパウンドボウを構える。
「3カウント」
久隆たちが配置に付く。
3──2──1──。
「やれ」
サクラが放った矢がゴブリンシャーマンの頭部を貫き、久隆とフォルネウスが同時にゴブリン長弓兵に襲い掛かる。久隆の斧がゴブリン長弓兵の頭を叩き割り、フォルネウスの短剣がゴブリンの喉を貫く。
そして、最後の1体へは久隆が相手が叫び出す前にナイフを喉に向けて投擲し、相手が沈黙した瞬間に斧で頭を叩き割った。
「クリア。周囲の魔物に動きなし」
最後まで静かに久隆たちはゴブリンたちを全員始末した。
「次はどうするの?」
「ミノタウロスを奇襲だ。戦ってみないとどの程度のものか実感が湧かないが、オーガ以上の脅威と認識している。とにかく、油断はしない。魔法に弱いというのならば、魔法で数を減らす。それができる限りのことだ」
ミノタウロス4体。仕留め切れるのか。この階層には他にジャイアントオーガ2体も存在する。長期戦になると不味い。
「では、行こう。確実に仕留めるぞ」
久隆たちは魔物の足音と振動で位置を把握しながらミノタウロスに近づく。
「いたぞ。ミノタウロス4体。レヴィア、マルコシア。魔法の準備を。それからフルフルは付呪を頼む」
「分かりました。『このものに戦神の加護を。力を与えたまえ。戦士に力を』」
フルフルが久隆たちに付呪をかける。
「いいぞ。レヴィアは敵全体に攻撃。マルコシアは1体を確実に潰せ。3カウント」
3──2──1──。
「今だ」
久隆が宣言する。
「『吹き荒れろ、氷の嵐!』」
「『爆散せよ、炎の花!』」
レヴィアは氷の嵐で敵全体の体力を削り、マルコシアはミノタウロスの頭部に結界を張り、その中で魔法を炸裂させた。この攻撃でミノタウロスたちは重傷を負い、1体は死亡した。魔法の効果は抜群のようだ。
「サクラ。生き残りの内、一番遠いのを狙え。フォルネウス、確実に片付けるぞ」
「了解!」
久隆とフォルネウスは重傷を負ったミノタウロスに向けて突撃し、サクラはミノタウロスの群れの内、一番距離の離れたものの頭部を貫いた。頭部を射抜かれたミノタウロスが倒れるのと同時に久隆たちはミノタウロスに飛びかかる。
ミノタウロスは重傷を負っていても、戦う意欲は失っていない。
その巨大な長剣を振り回し、その刃は久隆を掠め、ダンジョンの壁を破壊した。
「物騒だな。没収だ」
久隆はミノタウロスが第二撃を放つ前に、その右腕を攻撃し、ミノタウロスの手首を長剣から切り離した。ミノタウロスは悲鳴を上げ、左腕だけで長剣を振るうがそれは久隆に弾き飛ばされ、懐に飛び込まれた。
腎臓への一撃。即死はしない。
それならばと久隆はミノタウロスの頭を狙う。
ミノタウロスが悶えている隙にミノタウロスの首を裂く。
完璧。ミノタウロスは倒れ、金貨と宝石を残して消えた。
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