2体の魔物に対する戦勝祝い
本日2回目の更新です。
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──2体の魔物に対する戦勝祝い
久隆たちは30階層まで負傷者たちを送り届けると、20階層に戻って来た。
「じゃあ、帰るか。それから今日は戦勝祝いだ」
「グリフォンとヒポグリフに勝ちましたからね!」
久隆が告げるとマルコシアが拳を突き上げた。
「……あんまりそういう気分じゃないの」
だが、レヴィアの方は肩を落としたままだった。
やはり仲間の死が堪えているのだろう。レヴィアは以前のように無邪気に勝利を祝える気分ではないようだった。
「レヴィア。俺たちは勝ったんだ。確かにお前の仲間たちは死んだかもしれない。だからと言って、お前がいつまでも落ち込んでいることは許されないんだぞ? 俺たちは進み続けなければならない。そうしなければ死んだ奴らの死が無駄になる」
「そうだけれど……」
「元気を出せ。死んだ仲間たちもお前が無事でいることを祈って戦ったはずだ。お前が笑顔でいることを望んで戦ったはずだ。お前は魔王で、魔族たちの精神的指導者だ。お前がくじけてしまうと全員がくじけちまうんだぞ」
「……うん。そうなのね! でも、犠牲が出たから戦勝祝いではないの。死者を弔う宴なの。派手に騒いでダンジョンで死んだものたちを笑顔で天国に送ってあげるの! それが今のレヴィアにできる精一杯の、精一杯のことなの……!」
レヴィアは泣きながら笑っていた。
「ああ。そうだ。あまり気張るな。後に影響するぞ。そういう重苦しいものはパーッと騒いで発散しちまえ。ここは戦場だ。死は避けられない。だが、死者のために死ぬ必要はない。死者は生者を生かすために死んだんだ」
「そうなのね!」
そう告げてレヴィアは久隆に抱き着いて離れなかった。
「ほら、負ぶってやるから背中に回れ。そして、今日は思いっきり負の感情を発散しろ。肉を食って、野菜を食って、スタミナを付けろ。元気を出せ。そして、明日からはまたダンジョンの探索だ。ようやくべリアの足取りが掴めそうなんだからな」
「そうなのね。まだまだ頑張らなきゃいけないの。ここでくじけてはいられないの。レヴィアとみんなで元の世界に帰るの!」
「ああ。帰るんだ。お前たちを待っているものたちもいるだろう」
元の世界ではレヴィアたちを大勢が待っているだろう。その人々のためにも、死んでいった魔族たちのためにも、元の世界に帰らなければならない。
「さあ、地上に行くぞ」
久隆はレヴィアを背負って20階層から地上を目指す。
地上は丁度昼過ぎごろだった。今から予約すれば間に合うだろう。
久隆は電話で焼肉屋の予約をし、朱門の方に向かった。
「朱門。どう思う? 子供に仲間の死を伝える上手い方法なんてあると思うか?」
「さてね。前々から言っているが、俺は精神科の医者じゃない。専門は外科だ。だが、児童心理学的に見て、あの子ぐらいの幼いころは多感だ。あらゆる物事を敏感に受け取る。おっさんになると涙腺が緩むというが、本当に多感なのは子供たちだ」
朱門はそう告げて麦茶を啜った。
「そういう時期に心を殺すような出来事が連発するのは好ましくない。子供はその環境に適応しようとして、早く大人にならなければと焦る。その結果、自分に自信がなく、卑屈で、コミュニケーション能力に障害を持った大人のような子供が生まれる、だったかね。俺も精神科医になるつもりはなかったし、軍医には子供の精神を見る機会なんてないから完全に専門外だ。俺には何とも言えないよ」
「そうか。あまり連発しないといいんだが」
「少なくともあのお嬢ちゃんは魔王ってだけで気張っている。これ以上負担が増えるのは望ましくないな。こういうのは大人が負担してやるべき問題だ」
「俺もそう思うよ」
久隆はそう告げてグラスに注いだ麦茶を飲み干した。
「焼肉、一緒に来るか?」
「そういうものは戦った連中同士でいくものだ。部外者を巻き込むな。俺はカップ麺で十分だ。後は美味いウィスキーがあれば完璧なんだが」
「ネットで注文しないのか?」
「政府は荷物受け取りの際の生体認証で国民の位置情報を管理している節がある」
「お前、まさか指名手配とかされてないよな……?」
「身元は慎重に隠している。知ってるのはマフィアの上層部だけだ。下っ端は知らない。だがな、監視されているというのは気持ちのいいものじゃないぞ。特に後ろめたい事のある人間にとっては」
「自業自得だ」
「というわけで、お前の認証でウィスキーを買ってくれ。金は出す」
「いざって時に飲んだくれてるなよ?」
「おいおい。学生じゃないんだ。もうそんな飲み方はしないさ」
朱門はそう告げたが、どうにも不安になる久隆だった。
「ちーっす。宅配でーす」
「おっ。来たか」
チャイムが鳴り、顔なじみの宅配員の声がする。
「何か頼んだのか?」
「まあな」
久隆は生体認証とサインを済ませてやや大きな箱を受け取る。朱門と違って後ろめたいことはないので、生体認証にも拒否感はない。
だが、この国は随分と窮屈になったなとは思う。
政府が生体認証で国民の現在地を把握しているならば、国民ひとりひとりの居場所はすぐにばれる。何せ、ピザの宅配でも生体認証を求められるのだ。
政府は情報通信技術産業に力を入れてきた。盗聴の恐れがあると言って、通信アプリから何まで国産化することが目的だった。その過程で宅配の生体認証技術も生まれ、国民は情報管理されることになった。
もちろん、そういう個人情報が通信ネットワーク上でやり取りされるのに、情報セキュリティー企業というものが勢力を伸ばし、彼らはより安全な通信インフラの整備と個人情報の保護を引き受けていた。それは21世紀の公共事業のあり方と言えた。
だが、その情報セキュリティー企業が日本情報軍と結びついていることは久隆すら知らない。日本情報軍には個人情報は筒抜けだったし、彼らは極東電子防衛企画という日本版エシュロン及びPRISMを運用していた。対テロをお題目に個人の通信を傍受し、そのことを利用して様々な“情報活動”を行っていた。
極東電子防衛企画の件は久隆たちも知っている。日本情報軍は公式にも、非公式にもその存在を認めていないが、彼らは明らかに通信を違法に傍受した情報源から作戦目標を指示することがあったのだから。
「じゃあ、俺たちは焼肉に行ってくる。本当に来なくていいのか?」
「ああ。お前たちが焼肉を楽しんでいる間にバーで素敵な出会いを求めるさ」
「享楽的な男だ」
「お前が禁欲的な男なだけだよ」
朱門はそう告げて煙草を吸いに外に出ていった。
「さて。全員、出発の準備はできたかー? そろそろ出かけるぞー!」
「準備できてます!」
そう告げてフォルネウスが出てきた。
フォルネウスは海軍時代の京都出身の戦友がプレゼントしてくれた金閣寺の描かれたTシャツを纏っていた。久隆は思わず吹き出しそうになったが、それは失礼だとなんとか笑いを抑えたのだった。
「フォルネウスが変な服着てるの!」
「フォ、フォルネウス。それはないよ……」
しかし、レヴィアたちはお構いなしに大笑いしていた。
「え? そんなに変ですか? なんかカッコいいと思ったんですけど……」
「お前がイケてると思うならそれでいいんだよ」
久隆はそう告げてレヴィアが笑っているのを見て一安心した。
今日は盛大に飲み食いして、元気を取り戻してもらわないといけない。
仲間の死から来る悲しみを忘れられるぐらいに。
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