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ドラゴンについて

本日1回目の更新です。

……………………


 ──ドラゴンについて



 久隆たちはアガレスと救出した生存者たちの待つ20階層に到着した。


「おお。久隆殿。どうであったか?」


「勝利した。完璧に勝利した。今、30階層にはグリフォンもヒポグリフもどちらも存在しない。30階層は我々のものだ」


「おお! 流石は久隆殿だ! 久隆殿に任せて正解であった!」


 アガレスがうんうんと頷く。


「お前の部下は既に制圧が完了した30階層に拠点を作りつつある。俺たちはここで負傷者の治療をしてから合流する。生存者ももう動かしていいか、朱門に聞いておかなければならないからな」


「分かった。では、私も部下たちに合流しよう。彼らを労ってやらなければ」


 アガレスは立ち上がり、ダンジョンを下っていった。


「朱門。怪我人だ。手当てを頼みたい」


「おう。任せておけ。ボスに挑むと聞いていたから準備はしていたぞ」


 朱門は局所麻酔、縫合糸、抗菌剤などで傷口をテキパキと処理していった。


「ほい。完了だ。一応、2、3日は激しい運動は禁止な。傷口が開くかもしれない」


「ありがとうございます、朱門様」


「よしてくれ。俺は金のためにやっただけだ」


 朱門は心底嫌そうにお礼の言葉を断った。


「礼なら久隆に言え。あいつが医療費を負担してくれているんだ。それがなきゃ俺はここにはいない。俺は所詮は金に飢えた闇医者だからな」


「そうなのですか、久隆様?」


 魔族たちは久隆を見る。


「いいや。こいつは照れてるだけだ。確かに儲けてはいるが危険を冒してダンジョンの中まで来てくれた。こいつは信用できる男だよ」


「おい。久隆。そういういい加減なことを……」


 朱門は怒っていいやら、突っ込むべきやらで悩んで微妙な表情をしていた。


「な、名医殿。これから頼むぜ」


「全く……」


 久隆は笑いながらそう告げた。


「生存者も動かせるんだな?」


「ああ。点滴は付けたままにしておいてくれ。点滴で栄養を補給する」


「分かった」


 久隆たちは負傷者と生存者を連れて30階層に降りていく。


「レヴィア、フルフル、マルコシア。お前たちはここで待っていてくれ。すぐに戻ってくる。別に大人数は必要ないからな」


「了解なの」


 久隆はレヴィアたちは20階層に残して、30階層に向かった。


「久隆さん。これで大きな壁は越えられたんでしょうか?」


「分からん。このダンジョンが何階層で構築されているのかも謎だ。今度はドラゴンと戦うようなことになるかもしれないな」


 ひょうきんものの小人を食い殺そうとしたドワーフの金貨にうずくまるドラゴン。そんなものが出てきた日にはどうしたものだろうかと久隆は悩んだ。


「ドラゴンはダンジョンには出没しませんよ」


「そうなのか?」


 フォルネウスが告げると久隆は首を傾げた。


「ドラゴンは崇拝の対象です。我々は太陽神の使いであるドラゴンたちを崇めています。ドラゴンは知的で、穏やかで、我々に知恵を授けてくださいます。レヴィア陛下が魔王に即位なさったときもドラゴンが王冠を授けられたのです」


「それは変わっているな」


「ええ。人間から見るとそうでしょうね。もしかして、久隆様の世界にドラゴンはいないのですか?」


「いない。セントジョージの伝説やジークフリートの伝説はあっても、本当にドラゴンがいたことはない。大昔には恐竜というドラゴンと呼んでもいいような巨大な生き物が闊歩していたが、それが全滅して随分と過ぎた」


「そうですか。人間たちはドラゴンの財宝を狙うのです。それから不老不死の力が手に入ると言われているその生き血も。我々はドラゴンを人間たちから守るためにも戦っているのです」


 フォルネウスは誇らしげにそう告げた。


「ドラゴンに警護が必要なのか? ドラゴンというととても強力なものだと思うのだが。真っ赤な炎を振りまき、空を自由に飛び回る」


「確かにドラゴンには力があります。その力を使えば人間など瞬く間に屠れるでしょう。ですが、ドラゴンは知的で、穏やかな性格をしているために暴力という手段に滅多なことでは訴えないのです。財宝を奪われても、その身を裂かれて血を奪われても、彼らは言葉によって人間たちを説得しようとするのです。だからこそ、我々がそんな優しい方々を守らなければならないのです」


「変わった生態だ。そこまでくるとおなじ地上の生き物とは思えなくなるな。悟りを開き切っているというか、生存競争に関心がないというか」


「太陽神の使いの方々ですから」


 それで説明は済んだとばかりにフォルネウスは話を終わらせた。


「だが、ワイバーンは出るんだろう?」


「ええ。あれはドラゴンの亜種と言われてもいますが、実際は全く別の生き物だと思われています。攻撃的で、獰猛な危険な魔物です。それから人間たちがドラゴンと同一視するのはワームですね。翼を持たないドラゴンと言われていますが、これも別種です」


「何やらいろいろといるんだな」


「ああ。ヴェンディダードにこれらの生き物が住んでいるわけではありませんよ。魔物はダンジョンの中にのみ存在します。自然環境には存在しません。だから、我々はダンジョンにのみ出没する生き物を魔物と呼んで区別しているのです」


「確かに自然環境にあんなのがいたら大変だな……」


 久隆は田舎でグリフォンやヒポグリフに襲われる生活を想像してげっそりした。


「ダンジョンはいつ頃発見されたんだ?」


「大昔です。既に人類とは憎み合っているときにダンジョンは出没しました。莫大な富をもたらす危険な場所として。魔族たちは人間たちより先にダンジョンを攻略しようとして、多くの血が流れました。今でもダンジョンの領有権を巡って争っている場所は多くあります。ダンジョンは我々にとって利益となるのか、負債となるのか……」


「他に国家が収入を得る手段がないなら、ダンジョンに頼らざるを得ないだろう。効率よく攻略していけば、がっぽりと富が手に入るわけだしな」


「そうですが、富というのは魔族の目も、人間の目も曇らせますからね」


「そうだな。金というのも魔物ではある」


 金は人を狂わせる。


 東南アジアの戦場では海賊たちが利益を上げ、豪邸のような砦を築いていた。その周りには子供兵がいて、彼らは満足な食事すら与えられていなかった。


 金を得る権利を巡って海賊同士が殺し合うことすらあった。そして、日本政府が現地政府軍を味方につけておくために、買収のための予算すら計上されていた。アメリカ軍もアフガニスタン戦争初期に北部同盟を味方につけるのに大量のドル束を持っていた。金は戦場の敵味方すら左右する力を持っているのだ。


 誰もが金のために働き、金によって生活し、金を求め続ける。


 金は魔物だ。イデオロギーも、宗教も、多くの人間を殺してきたが、結局最後に価値観を左右するのは金だ。金こそが支配者として君臨する。


 日本政府がこのダンジョンを手に入れたら、延々と魔物を狩り続け、資金を得続けただろう。政府も、社会も、国民も結局は金だ。日本の成功は、そのほとんどない共産主義国家ではなかったのだから当然と言える。


 だが、異世界では強欲の象徴と思われているドラゴンが富を人間に分け与えている。


 人間はドラゴン以下かと久隆は思った。


……………………

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