作戦前に必要なこと
本日2回目の更新です。
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──作戦前に必要なこと
「十分に療養できたか?」
「はい! これで戦えます!」
3名の療養者は元気を取り戻し、ダンジョンの入り口に立っていた。
「よろしい。お前たちが求められている場所がある。これから30階層のエリアボスに挑む。30階層のエリアボスはグリフォンとヒポグリフだ。兵士は少しでも多く必要になる。戦えるな? 戦う準備は万端だな?」
「はいっ!」
しっかり休んだだけあって療養者の士気は上々だ。
「では、レヴィア。出発だ」
「おー!」
今回は大所帯での出発だ。
久隆、レヴィア、フルフル、マルコシア、フォルネウス、サクラ、朱門、そして療養者3名。合計10名でダンジョンに潜ることになる。
幸い20階層までの道のりはアガレスの部下たちが掃討して確保している。非戦闘員である朱門を抱えていても問題ないし、朱門の商売道具である医療器材を抱えていても問題はない。戦闘は30階層まで起きない。
久隆たちは20階層を目指してひたすらにダンジョンを下り続け、ようやくダンジョンの20階層に到達した。20階層では慌ただしく、戦闘の準備が始まっていた。
「アガレス。医者を連れてきた。それから療養者についても」
「助かる、久隆殿。我々は30階層の戦いに備えておいた。指揮は久隆殿、そなたが握ってくれ。私が指示を出すのは無理だろう。これは久隆殿が立てた戦闘計画だ。どのタイミングで仕掛けるかどうかの指揮は、ともすると私よりベテランの久隆殿が執るべきだ」
「分かった。その代わり指揮を俺に引き継ぐことを他の魔族たちに伝えてくれ。指揮系統が分裂した状態になっていると魔族たちを混乱させたくはない」
「分かった。後ほど、全員を集めて行おう」
指揮がアガレスと久隆で二分されていると勘違いされると命令を拒否したりするものが現れるかもしれない。ただでさえ、久隆は人間ということで、これまで不信感を持たれていたのである。
「朱門。生存者の診察と処置を頼む」
「おう。任せておけ」
朱門は魔族に案内されて救出した生存者の方に向かっていった。
「レヴィア、フルフル、マルコシア、フォルネウス。今回の作戦は俺が指揮することになるが、魔族たちは従ってくれるだろうか?」
「大丈夫なの! 久隆の名声は轟いているの。今では多くの魔族が久隆に助けられたと恩を感じているのよ。久隆とともに戦うことを希望する魔族も少なくないの」
「そうか。それならいいが」
指揮系統上の問題がないとすれば残りの問題は僅かだ。
「サクラ。俺は全体の指揮を執らなければいけない以上、自分の部隊の指揮が疎かになる可能性がある。今回の捜索班の指揮はお前に任せる。俺は全体の指揮に専念する」
「分かりました。任せてください」
第二次世界大戦中のドイツ軍でもあった話なのだが、軍隊は諸兵科連合を組んで戦う時に戦闘団という編成で戦うことがある。ドイツ語ではカンプグルッペというのだが、ドイツ軍の場合は複数の兵科が集まった際、その中で基幹となる部隊の司令部が戦闘団の司令部になっていた。つまり、彼らは自分たちの部隊の指揮を執りつつ、集まった他の部隊の指揮も執らなければならなかったわけである。
アメリカ軍はちゃんと別々の司令部を設置し、戦闘が複雑になっても対処できるようになっていた。久隆はドイツ軍のようにはせずに、アメリカ軍式にやることにした。
今回、陽動を担当する捜索班とレラジェの偵察部隊の指揮はサクラが執る。そして、久隆は捜索班で戦闘を行いながらも、魔族たち全体の動きを指揮する。
「それからもうひとつ。マルコシア、魔法についての管理を任せたい。フルフルは付呪の管理で忙しくなるだろう。マルコシアが魔族全体の魔法の投射レートなどを管理して、俺に伝えてほしい。早い話が参謀になってほしい」
「参謀? あたしがですか?」
「そうだ。お前にしか頼めない」
指揮官には参謀が必要だ。
もちろん、今回の作戦規模はせいぜい大きな分隊か、小さな小隊かそこらだ。そのような小部隊にいちいち参謀はつかない。指揮官は自分の判断で行動しなければならない。
だが、それはそのような小部隊なら専門性がなくとも、ひとりの指揮官で把握できるからという条件がつく。今回の久隆の場合、未知の魔法というものを扱わなければならない。久隆は軍で魔法について教わったわけでも、魔法に関する専門的な知識があるわけでもない。久隆は魔法の恩恵を受けていても、その詳細について無知だ。
だからこそ、参謀が必要になる。魔法について管理する参謀が。
指揮系統をこれ以上ややこしくして、混乱を招きたくないので、指揮は久隆が執る。ただし、魔法についてはマルコシアの助言を受ける。そういう形にすることにした。
「了解しました! 精一杯お手伝いさせていただきます!」
「ああ。頼んだ」
これで指揮については整理できた。
久隆の捜索班及びレラジェの偵察部隊の指揮はサクラが執る。久隆は全体の指揮に専念し、魔法についてはマルコシアの助言を受ける。
「朱門、生存者たちの様子はどうだ?」
「酷く疲弊している。今、栄養点滴を始めたところだ。注射にはかなりの拒否感を示していたが、今は受け入れている。順応力が高いな。暫くの間は栄養点滴とかゆを食わせておけば、直によくなるだろう」
「助かる」
「気にするな、代金はもらっている。それよりもこれから殴り込みなんだろう?」
「ああ。グリフォンとヒポグリフが相手だ」
「まだファンタジーな敵が出てきたな。死ぬなよ、久隆」
「もちろんだ」
久隆と朱門は拳を合わせあった。
「負傷したら治療する準備はしておく。だから、遠慮なく戦ってこい」
「助かる」
久隆は次にアガレスの下に向かう。
「アガレス。こちらの準備はできた。そちらは?」
「いよいよ始めるところだ。久隆殿も一緒に来てくれ」
「分かった」
アガレスが進むのに、久隆が続く。
「全員集合!」
アガレスが軍人らしいはっきりした声で告げるのに、近衛騎士と宮廷魔術師たちが列を作って集まった。流石にここまで生き延びてきただけはあって、訓練されている。集合時間も整列も瞬く間だった。
「これより我々は30階層のエリアボスであるグリフォンとヒポグリフの討伐に向かう! 我々全員が参加しての作戦だ! 臆することなく挑め! そして、勝利と我々の帰還への道のりを勝ち取るのだ!」
「応っ!」
統率された集団というのは一種の美がある。
それはファシズム的な美かもしれないが、統率されて一糸乱れぬ集団というのは心強く、そして美しい。久隆も海軍時代には一糸乱れず行動する部下たちを見て、美しさを感じたものだ。それはマチズモの極致にあるものなのかもしれない。
「指揮は久隆殿が執られる。私から久隆殿に指揮権を委譲する。そのことに不安なものなどいないだろう。久隆殿は歴戦の戦士であり、30階層までの道のりを切り開いた恩人だ。久隆殿とともに戦えば得られるものは多いはずだ」
魔族たちは当初のような猜疑の視線ではなく、信頼の視線を久隆に向けている。
それも当然だろう。久隆は魔族たちに食糧と水を差しいれ、傷病者を看病してくれた。そして、何より20階層のバイコーンを撃破し、モンスターハウスを突破し、30階層への道のりを作ったのが久隆たちなのだ。
今さら疑う必要はない。久隆たちは信頼できる。魔族たちはそう思っていた。
そして、久隆とともに戦えば、強くなれるという信仰心すら生まれている。久隆としては少し迷惑だが、自分の指示に従ってくれるならば、それはそれでいいかと思った。
「べリアは30階層より下にいる。なんとしても30階層を突破して、生きて元の世界に戻るぞ! 勝利を我々の手に!」
「勝利を!」
やはりこれはファシズム的な美だ。
だが、美術に貴賤はない。美しいものは美しい。
そして何より頼りになる。
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