新装備を作ろう
本日1回目の更新です。
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──新装備を作ろう
「フォルネウス。そろそろ地上に戻るぞ」
久隆はフォルネウスに声をかけた。
「了解です。レヴィア陛下たちは?」
「今から探す。ついて来てくれ」
久隆はフォルネウスを連れて、レヴィアたちを探した。
「それでね、それでね。レヴィアの魔法で吹き飛ばしてやったの!」
「流石です、レヴィア陛下。べリア様が評価されるのも分かります」
レヴィアたちは宮廷魔術師たちと話していた。
「レヴィア、フルフル、マルコシア。地上に帰るぞ」
「分かったの。サクラは?」
「ん。ここにはいないな。どこに行った?」
久隆は周囲を見渡す。
「照明弾のような装備はないのですか?」
「そのようなものは装備していないですね。宮廷魔術師たちの魔法ならどうにかなるのかもしれませんが」
「そうですか」
サクラは近衛騎士のひとりと話し込んでいた。
「サクラ。地上に戻るぞ」
「ああ。分かりました」
そして、サクラは近衛騎士のひとりに別れを告げて、久隆の下に来た。
「何を話していたんだ?」
「彼らが照明弾のような装備を持っていないか尋ねていたんです。あの階層を攻略するにはいかに光源を確保するかが重要だと思いましたので」
「確かにな。あの暗さでは目標に狙いを定めることは難しい」
30階層は真っ暗だ。真っ暗中でグリフォンとヒポグリフを相手にするのは非常に困難だろう。何かしらの光源がなければ、相手を地上に叩き落とすのも難しい。
「でも、ちょっとだけいいアイディアがあるんですよね」
「そうなのか?」
「地上に帰ったらホームセンターに行ってもらえますか?」
「構わないぞ」
何をするのかは分からないが、サクラのいうことなので何か意味があるのだろうと久隆は考えた。ホームセンターで販売しているような物品について把握しているのは、ここではサクラぐらいなのだ。
「それから朱門に診察を頼まないとな。ビタミン剤ぐらいは処方してくれるだろう」
コケだけで数日を過ごしたのならば明確にビタミン不足のはずだ。それを補うためのビタミン剤も朱門なら持ってきている。
そして、久隆たちは地上に戻っていく。
地上は夕方で太陽が沈みかけた時間帯だった。
「まずはホームセンターに向かおう。ホームセンターは20時には閉まる」
久隆はサクラの必要なものを入手するためにホームセンターに向かうことにした。
「何を使うんだ?」
「暗闇の中で相手の位置を分かるようにするためのアイテムですよ。おっと。ありました、ありました」
サクラはあるものを手にとった。
「発炎筒か」
「ええ。これを矢に付けて相手に叩き込めば、暗闇の中でも相手の位置が分かるんじゃないですか? さほど重みのあるものでもないですから、矢の弾道にも影響はほとんど生じることはないでしょうし」
「確かに」
夜中の交通事故を印すためにも使われる発炎筒ならば、グリフォンとヒポグリフの位置をマークすることにも使用できるだろう。位置さえ分かれば、攻撃の際にタイミングを合わせることも、狙いを定めることも可能だ。
「それじゃ10本ぐらい買っておくか。長期戦になるかもしれん」
「そうですね。今回ばかりはどれほど時間がかかるか分かりません」
実戦経験豊富な久隆とサクラでも空を飛ぶ怪物相手に弓矢と魔法、そして斧で挑んだことはない。完全に未知の領域だ。戦闘時間がどれ程に及ぶのか、どれほどのスタミナが必要なのかすら分からない。
久隆は一応戦闘計画を立ててはいる。
まずはレラジェたち偵察部隊と久隆たちが地面に降りるまでの時間、それから戦闘開始の合図に合わせてアガレスたちが応援の部隊を派遣するまでの時間。そして、おおよその戦闘終了時間。それは30分から3時間という幅のあるものだった。
もはやこれを戦闘計画と呼んでいいのかすら分からないようなものしか、今の状況では立てることができなかった。
「帰ったら実際に試してみよう。弾道にどれだけ影響が生じるか分からないだろう。重さはなくても空気抵抗は生まれるはずだ」
「そうですね。バランスを確かめておきたいところです」
久隆たちは他にグリフォンとヒポグリフ攻略に役立ちそうなアイテムを探したが、今は特に見当たらなかった。金属板で盾を作るというアイディアは掴まれて空を飛ばれたら、すぐに引きはがされるだろうという指摘で却下となった。
結局のところ、ホームセンターはホームセンターなのだ。ここは魔物を倒すためのアイテムを販売しているファンタジーの世界の店ではない。DIYや生活雑貨などを販売する、善良な市民のための店なのだ。
久隆たちは発炎筒を家に持ち帰り、裏山の木々を目標に新兵器のテストを行ってみることにした。これが上手くいけば相当戦いやすくなる。
「何してんだ?」
「新兵器のテストだ」
「新兵器?」
「コンパウンドボウの矢に発炎筒をつけて使ってみるというアイディアだ」
「えらくしょぼいな……」
朱門が見学にやってきたが、彼は早々に興味を失った。
「いいか、朱門。俺たちはとんでもない広さのある真っ暗な空間で空を飛ぶ魔物と戦うんだ。光は武器だ。光があるとないのとでは大きく異なる」
「ふうむ。その様子だと激戦になりそうだな」
「なるだろう。また負傷者を助けてもらう必要があるかもしれない。それから29階層で生存者を救助した。衰弱している。手当てしてやってくれるか?」
「分かった。任せておけ。道具を持って20階層に降りる」
「助かる」
道中の魔物はアガレスの部下たちが掃討している。彼らが近衛騎士と宮廷魔術師という枠組みを越えて団結し、ともに戦っているのは素晴らしいことだ。その経験が今度のグリフォンとヒポグリフ討伐に役立つといいのだが。
「さて、サクラ。準備はできたか?」
「ばっちりです」
「では、試してみてくれ」
矢の中ほどに発炎筒が結び付けられている。いや、多少の揺れでは外れないようにダクトテープでがっしりと留めてある。それでいて矢を放つ際には邪魔にならないようになっている。今のところ、問題はない。
「どれくらい弾道に影響がでるかです。試しましょう」
サクラは弓を引き絞って、狙いを定めると矢を放った。
矢は真っすぐ的にしている木に向かっていき、突き刺さった。
「どうだ?」
「やはり少し弾道に影響がでますね。矢に発炎筒をつけたことで空気抵抗と矢の不安定なバランスが生まれてしまっています。慣れるまで練習しておきます」
「そうか。俺にできることがあったら言ってくれ」
「私と結婚してください」
「……グリフォンとヒポグリフを倒すうえで俺にできることがあったら言ってくれ」
「まあ、そうですよね」
サクラは苦笑して練習を続けた。
「あれは本当にお前に惚れてるんだな」
「俺なんかのどこがいいんだろうな」
「おいおい。それは相手に対しても失礼だぞ」
「悪い。だが、俺のような人間を選ぶのは変わっているとは思うだろう?」
久隆が朱門にそう尋ねる。
「蓼食う虫も好き好きって奴さ。それにお前はお前が思っているほど、社会不適合者じゃないぞ。まだしっかりしている」
「だといいんだが」
久隆にはサクラの気持ちはまだ分からなかった。
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