戦争のルール
本日2回目の更新です。
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──戦争のルール
「レラジェ。お前の部隊ならゴブリンを何体ほど、相手に気づかれずに始末できる?」
「そうですね……。4、5体までなら。今の戦闘技術ではマジックアイテムの補助があってもそれが限界です。魔物もマジックアイテムの存在は知っていますから」
「そうか。だが、ゴブリンは6から9名の規模で動いている。俺たちが隠密で相手を始末する方法を最初に示すので、それからはそれに従って行動してくれ。姿が見えず、足音もしないなら、10体、20体は倒せてもおかしくはない」
「あはは。それならいいんですけどね」
レラジェは苦笑いを浮かべてそう返した。
「それからこれは完全にこちら側の事情だが、偵察を頼みたい。俺たちは音や振動で敵の位置を把握するが、ダンジョンの構造によっては魔物の位置を読み間違うことがある。攻撃はしないでいいので、敵の位置と数、そして種類を教えてほしい」
「了解です」
久隆は偵察部隊にはポイントマンの役割を果たしてもらおうと考えていた。彼らは既に30階層まで到達した経験もあるし、ダンジョン内の構造にも詳しい。そして、マジックアイテムで姿と音を消せる。
それにあの18階層の魔物の群れの中を潜り抜けて、20階層のバイコーンを確認したのだ。上出来すぎるほどの能力も有している。ポイントマンを任せるのに何の不安もない。彼らは隠密行動というものを理解している。
久隆は偵察部隊には先頭を、残りに加わる部隊を後方に配置するつもりだった。久隆たちは基本的に余計な敵を避けて、目当ての敵を狙って殺す。後方から襲われる心配はほとんどない。だから、実力の分からない魔族たちは安全な後方で様子見してもらう。
敵に気づかれた場合は部隊をふたつに分け、行動することになる。その場合は後方と前方をそのまま切り離すつもりだった。
既に後方部隊にはサクラがいるし、マルコシアもフォルネウスも育っている。後方部隊をそのまま切り離して運用しても大丈夫だろう。
前方に6名、後方に6名となるとバランスもいいのだが。アガレスがそこまで考えてくれるかどうかは分からない。あまり多すぎる場合は断って、人数制限を行ってもらうつもりだった。そうしないと既にサクラがいなければ指揮が困難になるサイズになっている。
前線指揮官として久隆自身も戦う以上は、指揮できる人数にも限りがある。そして、久隆の指揮する魔族たちの内、軍事教育を受けているのはフォルネウスのみで、そのフォルネウスは新米少尉だった。
もう彼も新米と呼ばれなくてもいい線まで来ているが、部下を指揮統率した経験がない以上、まだ初心者マークは取れない。
一度サクラにはフォルネウスに別動隊の指揮を任せてみようかという話はしていたが、今回のことで実現するかもしれない。
人材は生えてこない。人材は育てて、使い物になるまで鍛えるのだ。
それを横からさっと持っていくので民間軍事企業は正規軍の士官たちから嫌われるのである。彼らは高給をちらつかせて、軍が育て上げた人材を自分たちの会社に引き込む。軍上層部としては気に入らないことだ。
それはともあれ、フォルネウスも士官として育てなければならない。久隆とサクラの指揮を見て学ぶことはあるだろうが、人というのは実際にやってみなければ覚えないものだ。フォルネウスも実戦で指揮を執らせることで学ばせる必要があるだろう。
「そっちの役割は重要だ。そちらのもたらす情報で全員が動く。少しでも間違った情報が混じると機能しなくなってしまう。作戦は失敗だ」
「責任重大ですね……」
「ああ。そうだ。だが、重苦しく受け入れてくれとは言わない。そして、軽々しく扱ってくれとも言わない。そちらのペースで、いつものようにやってもらえば大丈夫だ」
「了解。いつものペースで大丈夫なら、いつものペースで行きます」
無駄に気負わせて、普段のペースを乱すようなことがあってはならない。彼女たちは既に実績のある部隊だ。それをとやかく口出しして、彼女たちのベストコンディションを維持できなくしてしまうのは望ましくない。
「それから隠密行動による敵の殺傷については俺たちが教える。そちらなら簡単に行えることだと思う。いや、もう既に経験があるんじゃないか?」
「残念ですけれど、経験はないです。近衛騎士が背後から敵を殺すというのには、誰もいい顔をしないんです。近衛騎士は堂々と正面から敵を打ち倒すことこそが名誉、と。だから、我々は正面から戦ってきたんです」
「そのマジックアイテムがあってもか?」
「偵察にのみ許可されていました。それに邪道な戦い方を始めると、向こうも同じことでやり返してきて、どんどん戦争のルールが壊れていきますからね」
「確かにそれはあるな」
おかしな話だが、戦争にはルールがある。
国の存亡をかけた戦いでそのルールを守るのか?
少なくとも第二次世界大戦中に毒ガスは使われなかったし、アジアの戦争でも核兵器は使用されなかった。ルールを陣営のひとつが破れば、他の陣営もルールを破り、ルール破りが常態化して自分たちまで不利益を被ることになる。
正々堂々と正面から戦うこともルールの内だろう。それを破って暗殺でも何でもありにすれば、ヴェンディダード側も同じような攻撃を受けることに備えなければならない。
それに戦争のルール破りは多くの国に制裁を参戦の切っ掛けを与えるものだ。
結局のところ、それが非合理的であったとしてもルールを守った方が犠牲は少ないということはあるのである。
だが、魔物を相手に律儀にルールを守る必要はないだろう。魔物にはルールはない。久隆たちが東南アジアで戦った海賊や、民兵、テロリストにルールがなかったように。連中は民間人を戦争に巻き込むし、捕虜を殺すし、子供兵を使う。
子供兵を使うことは明確な国際法違反だ。だが、誰もかれもが子供兵を使う。アフリカでも、中東でも、中央アジアでも、東南アジアでも。
それに対して世間はあまりにも無関心だ。東南アジアで久隆たちが子供兵を殺していたときに何人の日本人がそのことについて考えただろうか。
ルールを守らないならば、自分たちもルールを守らない、というわけにはいかない。海賊は子供兵を使い、少年少女を性的搾取しておきながら、両手を上げて降参すれば捕虜になることができ、それから刑務所に叩き込まれて、国際刑事裁判所の裁きを受ける。そして、国際刑事裁判所で死刑の判決が下ることはない。
無論、久隆たちは暗殺を日常的に行っていたので、両手を上げる暇もなく、蜂の巣にされた民兵の指導者は数えきれない。だが、代表的で、知名度の高い人間は逮捕命令が出ることがある。その時は久隆たちは相手がどんなクソ野郎だろうと捕虜にしなければならない。そして、そういう奴に限って両手を上げて降伏するのだ。
「相手は魔物だ。ルールは気にする必要はない」
相手はテロリストだ。ルールを気にする必要はない。
久隆はそう言いたかった。
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本日の更新はこれで終了です。
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