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合同作戦に向けて

本日1回目の更新です。

……………………


 ──合同作戦に向けて



「ふむ。確かに相互理解なくして、合同作戦が成功するとは思えないな。それであれば偵察部隊だけとは言わず、もう数名一緒に作戦を行ってくれないか?」


「構わない。報告書にもある通り、26階層から27階層までの攻略にはオークとゴブリンの各個撃破という戦術もある。こちらは現状、部隊をふたつに分けるとやや戦力が不足する。その点を解決してくれるなら、喜んで迎えよう」


「助かる。というのも、フォルネウスがバイコーンと互角に戦い、鎧ジャイアントオーガすらも単独で屠り続けたという話を聞いて、他の魔族たちが『久隆殿と一緒に戦えば、戦闘技術が伸びる』と思っているのだ」


「はあ。そういうことに……」


 確かに久隆はフォルネウスを一人前の士官にするために彼に経験を積ませてきたし、教えられることは教えている。だが、久隆と一緒に戦ったからと言って必ずしも能力が伸びるとかそういうことはないのだが。


「私としては既にフォルネウスの件で久隆殿には負担をかけているので、これ以上はと思うのだが、部下たちはどうしてもと望んでいる。合同作戦という形でもいいから、彼らを教育してはもらえないだろうか?」


「教育というほどのことができるかは分からないが、一応引き受けよう。だが、これはあくまで双方の戦闘行動における傾向と能力を知るためのものだ。こちらの戦い方に無理に合わせたりしないようにしてくれ」


「分かった。伝えておこう」


 アガレスとしては手元にある数少ない兵力をより効率的に運用したい。あの新米少尉であったフォルネウスが大きな戦果を上げたことで、魔族たちは久隆を再評価している。ただの親切な人間ではなく、力を与えてくれる人間だと。


 久隆としては困った話だ。


 時間に余裕があればアガレスの指揮下にある全ての部隊に日本海軍式の訓練を施し、その能力を向上させることもあっただろう。だが、今は時間があまりない。焦ってはならないが、いちいち魔族の教練を行うような時間はない。


 久隆とサクラのほかにもう2名、前線勤務の経験があり、できれば特殊作戦部隊に所属していた経験がある人間がいれば、久隆たちが潜っている間に、魔族たちを訓練できるだろう。だが、それを望むのは望みすぎだ。


 民間軍事企業(PMC)から人を雇う場合、金がかかる。それに日本国政府は日本国内で民間軍事企業(PMC)が活動することにあまりいい顔をしない。そして、契約が成立し、守秘義務の契約を取り交わしたとしても、民間軍事企業(PMC)のコントラクターが未知の異世界人の話を吹聴しないとは限らなかった。


 そんなわけで、今は久隆たちが魔族を教練することは難しかった。


 だが、実戦の中で彼らが学ぶというならば否定はしまいし、拒絶もしまい。学べることは学んでほしいし、それが戦力強化と信頼強化に繋がるならいうことなしだ。


「では、参加する魔族を選んでおこう。それまでは暫し待たれよ」


「ああ。だが、あまり遅くはならないようにしてくれ」


 久隆はそう告げて、アガレスのいる場所を去った。


「久隆、久隆。もう潜るの? 29階層に生存者がいるって聞いたの! 早く助けに行ってあげたいの!」


「まだだ。アガレスが合同作戦に参加する魔族を選んでいる。偵察部隊と他に数名」


「他の魔族と一緒に行くの?」


「ああ。30階層は訳の分からない構造になっているらしい。なんでも飛行系の魔物が出没する可能性が高い場所だとかで。その際には魔族と合同で戦う必要がある。そのために事前に魔族の戦い方をよく知っておきたい」


「なるほどなのね。久隆はしっかりしているの」


「前に悲惨な目に遭った経験があるからな……」


 東南アジアの合同作戦は今思い出しても悲惨なものだった。久隆たちと知り合った軍人たちはどの人間も、滅茶苦茶になった祖国を取り戻す熱意を持っていたが、熱意と実力が空回りしていた。


 久隆たちとの合同作戦でも作戦方針を巡って争い、指揮権を奪い合い、最終的に日本海空軍と現地政府軍の作戦の指揮をアメリカ軍が執るというようなどうしようもないことになっていた。だが、アメリカ軍はこの手の作戦には慣れていたらしく、手際よく両者の合同作戦を調整していた。流石は腐っても大国というところである。


 そんな悲惨な状況でも久隆たちは求められていた。


 現地政府軍は実力不足で装備も慢性的に不足して十分な訓練が受けれていなかった。日本海空軍の介入は必要とされていた。日本海空軍が海賊や民兵、テロリストの根城を爆撃し、指導者を暗殺し、弾薬を破壊し、現地政府軍が土地を占領するという作戦において、久隆たちの存在は必要不可欠だった。


 求められていた。現地の軍人たちからも、現地の人々たちからも、日本の国民からも。だが、彼らは今の久隆を必要としていない。今の久隆は人々から求められていない。


 それでも久隆にはやるべきことがある。


 それで久隆には十分だった。


「久隆様!」


 レヴィアと話していると知らない魔族の声がした。


「ん。おたくは確かダンジョン内で会った……?」


「偵察部隊の指揮官レラジェです。どうぞよろしくお願いします」


 レラジェと名乗った指揮官は女性で、背丈は160センチほどで年齢は女子大生ぐらい。短いブロンドの髪の毛をボーイッシュに纏めている。


 そして、綺麗な黒の外套の下に革の鎧を纏い、腰には2本の短剣を下げ、短パンの下から黒タイツのような衣類を足元まで纏っていた。靴はしっかりとしたブーツで傷ひとつ見当たらない。


「久隆だ。今度、作戦を一緒にすることになっているが話はもう聞いたのか?」


「ええ。それで事前の打ち合わせを、と思いまして」


 できた指揮官だなと久隆は思う。いきなり合同作戦とはいかずちゃんと準備から始めるとは。戦力は数が増えれば増えるだけ増すものだということではないと分かっている。


「そちらは3名だったな?」


「はい。全員が『音消しのブーツ』と『姿隠しの外套』を使用できます。近衛騎士団所属ですので、本格的な魔術は使えませんが、背後から敵を一突きなんてことは可能です」


「それが求められる戦場だ。俺たちの戦闘報告書はもう読んだか?」


「いいえ。まだアガレス閣下が読んでおられます。魔族を選ぶのに必要みたいで」


 あの報告書を読めば、音を消し、姿を消せる偵察部隊の彼らがもっとも適した戦力であることはすぐに分かることだろう。彼ら以上の適任者はいない。


「俺たちは地下26階層以降の攻略手順としてふたつの方法を考えている。ひとつは隠密によって敵を密かに排除し、ゴブリンとオークが入り交じった乱戦を避けること。もうひとつは部隊を分けて、ゴブリンとオークをそれぞれ各個撃破すること」


 久隆は続ける。


「ゴブリンたちは遠距離火力に特化していて、近接攻撃に弱い。分断しさえすれば脅威ではなくなる。だが、ここに重装オークが加わると話は変わる。近接戦、遠距離戦。双方を兼ね備えた部隊が完成してしまう。それは我々にとって望ましいことではない」


「なるほど。重点を置くべきはオークとゴブリンの分断にあるわけですね」


「その通りだ。分断が重要だ」


 レラジェは理解の早い指揮官のようであり、そして人間である久隆の意見を平等に評価するようなできた指揮官だと久隆は感じた。


……………………

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