30階層のエリアボスについて
本日2回目の更新です。
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──30階層のエリアボスについて
久隆たちはその日も早朝に出発した。
ダンジョンを20階層まで潜り、アガレスの下に向かう。
「アガレス。25階層以降の戦闘報告書だ。参考にしてくれ」
「助かる、久隆殿」
アガレスに久隆が作成した戦闘報告書を手渡す。
「なるほど。ゴブリンたちとはこのように戦うのか。隠密という戦闘技術はもっと磨くべきだろうな。これによれば隠密によって、戦闘時の危険性が大きく減らせるとある。我々は正直、魔物が相手とは言えど背後から、というのはと思っていたが、今は生き延びることを最優先で考えなければならないな」
「隠密技術の取得には時間がかかるだろう。一朝一夕でとはいかない。だが、取得していれば戦闘を効率的に進められる。ゴブリン相手には隠密は有効な手だ。その報告書の通りにやればできる。後は足音や気配に気を配ってくれ」
「うむ。我々もただ無為無策にダンジョンに挑むのではいかんな」
アガレスは納得したようにそう告げた。
「ところで27階層以降の偵察情報について聞きたいんだが」
「ああ。こちらも報告書を纏めておいた。翻訳魔法は既にかけてある」
アガレスが書類を置くのに、久隆は資料を捲った。
「29階層の生き残り?」
「偵察部隊では連れて帰ることはかなわなかったが、29階層に10名程度の生存者がいる。我々と同じように拠点を作って、耐えているらしい。彼らをまずは救いたい。それに10名もの戦力が加われば、こちらとしては大きく助かる」
「そうだな。戦力が増えるのはいいことだ」
10名程度の生存者。
なるほど。魔物の数が少なくなるエリアボス手前の階層だからこそ、生き残れたのか。なかなか考えて行動したようだなと久隆は感心する。
だが、彼らを連れて帰るとなると手当などが必要になるだろう。
「それでは29階層の生存者は俺たちで救出する。そして、聞きたいのは30階層のエリアボスについてだ」
「それが……。よく分からないのだ」
「よく分からない?」
不可解なアガレスの返答に久隆が首を傾げる。
「偵察部隊が30階層に潜ったところ、かなりの広さ、いや膨大な広さの空間が広がっていたそうだ。階段は螺旋階段になっており、底が見えないほどの広さだったという。それでいながら魔物が何かは分からなかったそうだ。ただ……」
「ただ?」
「それだけの広さとなると、エリアボスは飛行系の魔物である可能性が高い。ワイバーンやグリフォンなどの飛行する魔物だ。これは少しばかり突破するのは難しいかもしれない。せめて、敵の正体が分かればよかったのだが、そうもいかず申し訳ない」
「いや。仕方のないことだ。だが、大きく開けた階層か……。それなら、ここにいる魔法使いや騎士たちを総動員できるんじゃないか?」
「それは考えている。ただ、30階層の地面に到達するまでの螺旋階段がネックだ。手すりなど当然ないし、そこで魔物の攻撃を受ければ、真っ逆さま、ということになる」
「そうだな……。それは面倒だ。先に俺たちが下りて、敵の攻撃を誘導している間に突入してもらうしかないかもしれない」
「うむ。それならば犠牲者も最小限で抑えられるだろう」
犠牲を最小限に抑えるという言葉の裏にはある程度の犠牲は覚悟しているということが見て取れる。アガレスも全く無傷でこのダンジョンを攻略しようとは思っていないようだ。それもそうだろう。彼の騎士団には既に膨大な犠牲が出ている。
「まだ29階層の生存者は救出していないということなので、俺たちが救出してこよう。30階層に挑むのはそれからだ。29階層の救出が終わったら、そちらの偵察部隊と合同で30階層の偵察を行いたいが、構わないか?」
「無論だ。手を貸してもらうのだからな」
今のところ、魔族たちとの合同作戦は上手くいっている。
レヴィア、フルフル、マルコシア、フォルネウスとの協調にも問題ないし、アガレスとの意志疎通も取れてる。
だが、今のところ、他の魔族の部隊と合同で何かをやったことはほとんどない。
初遭遇となった15階層での戦闘。偶然が重なって起きたダンジョン再構成後の戦闘。それぐらいである。
本格に合同で任務を行う場合、それが果たして実行できるだろうかという不安が久隆の中には少しあった。何せ、魔族たちは人間の指揮下には入りたくないということで、久隆の捜索班に加わることを拒否したのだ。
彼らの歴史的に見て、それは仕方ないことなのだろうが、久隆としては完全に斥候や後衛を任せられる状態にないと合同作戦は中止にするつもりだった。
それをどうやって判別するのか?
「アガレス。偵察班とは30階層前に一度合同で28階層の掃討を行いたい。いきなり合同作戦を行っても上手くいくという保証はない。相手がエリアボスで、強力な魔物であった場合、ぶつけ本番の合同作戦では失敗し、大損害を出す可能性がある。ここは偵察部隊とだけでも意思疎通が取れるか試しておきたい」
「ふむ。確かに。我々近衛騎士団も他の騎士団と合同で作戦を行う時は事前に念入りな打ち合わせをするものだ。それに久隆殿はやはり、魔族が人間を信頼してくれるかどうかに不安があるのであろう?」
「ああ。向こうも不安だし、こっちも不安だ。合同作戦はぶつけ本番で成功するものじゃない。何度も合同演習を繰り返して相手の意図がすぐに読めるようになっておく方が望ましいというものなんだ」
どうして日本国防四軍がアメリカ軍を始めとする同盟国諸国と合同演習を何度も何度も繰り返し行うのかと言えば、自分たちの練度も高めるためでもあるが、相手のことを知るためでもある。
彼らはこういう意図で行動する。そういうものが分かっていると合同作戦は非常に上手くいきやすい。逆に相手の意図することがまるで分からないと、自分たちがどう動いていいのかもわからなくなる。
そういう戦略・戦術上の問題から、兵器のスペックや兵員の質に至るまで、情報を互いに共有してこそ、合同作戦は成功へと向けて進むのだ。
その点でいえば、東南アジアでの作戦は苦難の連続だった。
まず指揮権を巡る争いが起きて、次にお互いのことをよく知らないために起きる作戦上のミスの多発。こちらが向こうの軍隊を教練し、彼らにどの程度のことができて、どのような作戦方針を持ち、どのような兵器を使いこなせるかを知るまでは問題の連続だった。それでも民間軍事企業が独自に訓練を施した部隊は同じ西側流の戦い方でも差異が生じるので困りものだった。
せめて現地政府か日本政府がことを一任されていれば問題なかったのだが、あれは国際問題であり、アメリカからインドまでの各国が介入したことによって、西側と言っても統一された状況ではなくなってしまった。
向こうに問題があるならこちらが合わせるしかない。久隆たちはそれぞれ合同作戦を行う部隊とは事前に合同演習を行ってから、ある程度向こうのことを知り、それから合同作戦に移っていた。
そういうもうこりごりな問題を一度体験しているので久隆は慎重だった。
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本日の更新はこれで終了です。
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