帰還と報告
本日1回目の更新です。
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──帰還と報告
「よし。20階層に戻って、アガレスに報告するぞ」
27階層の地図を完成させ、残敵がいないことを確認すると久隆がそう告げた。
「すっごい緊張したの……」
「ま、魔力もかなり使いました……」
連戦に次ぐ連戦。倒した敵の数はオーク28体。ゴブリン56体。それを6名という人数で迎撃し続けたのだ。疲労して当然のことである。一歩でも間違えば、それによって命の危険さえあったのだから。
「ご苦労だった、全員。だが、これで偵察部隊をこの階層の下に送れる。彼らが30階層のエリアボスについても情報を持ち帰ってきてくれるかもしれない」
「期待大なのね!」
この勝ち取った勝利の意味を部下たちに理解させるのも指揮官の役割だ。勝利の意味が分からなければ、兵士たちの士気は落ちる。せっかくの勝利もその意味が分からなくては、ただの苦しい試練だっただけである。
「さあ、アガレスに報告しに行こう。数日がかりになると思ったが、案外早く片付いたから向こうも驚くことだろう」
久隆たちは泊まり込みをして、作戦を実行するつもりだったのだが、激戦だったものの戦闘そのものは早期に終結した。今の時刻は20時。出たらダンジョンの外に出るころには真夜中になるが、泊まり込みをするほどでもなかった。
これ以上、階層を重ねるとそうはいかないかもしれないが、今のところは日帰りダンジョンが可能な範囲だ。
久隆たちは上層の20階層を目指してダンジョンを上がり始める。
そして、魔族たちの拠点となってる20階層に到着した。
「アガレスに会ってくる」
「レヴィアも行くの!」
久隆が告げるのにレヴィアもついてくる。
「アガレス」
「おお。レヴィア陛下、久隆殿。25階層は突破できただろうか?」
「それよりもいい知らせだ。27階層のモンスターハウスを攻略した」
「なんと! 27階層のモンスターハウスはとても難所だと聞いていたのだが……」
「確かに厳しい戦いだった。だが、こうして勝利した。偵察部隊を27階層より下に送ってほしい。少なくとも30階層のエリアボスについて知りたい。可能か?」
「もちろんだ。調べさせよう。ゴブリンたちはあまり脅威ではなかったか?」
「いや。そういうことはない。後で戦闘報告書をそちらに渡しておく。これからの戦闘の助けになれば幸いだ。30階層のエリアボスを倒したら、拠点を30階層にも構えることになるだろう。そうなると、どうあってもゴブリンロード、ゴブリンシャーマン、ゴブリン長弓兵の相手はしなければならないからな」
「感謝する、久隆殿。何と礼を言っていいか」
「構わない。早く、行方不明の宮廷魔術師長を探し出そう。そして、全員でダンジョンコアに到達して、元の世界に帰ってくれ。そうしないと俺も安心できない」
一度乗りかかった船だ。今さらレヴィアたちを見捨てるという選択肢はない。久隆にとって重要な任務となったこの仕事を最後までやり遂げるつもりだ。それが久隆にとって何の得にならなくても、そうするべきだから、そうする。
久隆は腐っても元日本海軍将校なのだ。
「物資に不足はないか?」
「大丈夫だ。久隆殿の差し入れてくれた食料と水で近衛騎士も魔法使いたちも士気は上々。魔法使いたちはさらに魔力回復ポーションを手に入れたので、戦闘力は増すばかりだ。ここにいる人間をローテーションで回しているが、15階層と違って、防衛の必要がないために、人員も多く探索や掃討に投入できる」
そこでアガレスが思い出したように尋ねた。
「久隆殿の家で休ませてもらっているものたちはどうだろうか?」
「それは俺たちが再び上層に戻ってみないと分からない。だが、安心はしていたようだ。やはり太陽の光が恋しいんだろう」
「そうだな……。ダンジョンの中は暗く、危険に満ちている。早く皆がダンジョンの外に出たがっている。なんとしてもダンジョンコアまで到達しなければ」
「ああ」
精神的にもこのダンジョンに閉じ込められているのは辛いだろう。誰もが故郷に帰りたがっているはずだ。故郷に帰り、家族の顔を見て安堵したいはずだ。
久隆にはなかった感情だが、理解はできる。彼らが帰りたがることについては。
「それでは戦闘報告書は明日にでも持ってくる。その時に追加の物資も。療養が終わった兵士たちも送り返す。戦力は貴重なんだろう?」
「そうしてもらえると助かる。何せ総勢15名だけだからな……」
早く仲間を救出しないと戦力不足でもある。
どうにかしたいところだ。
「アガレス。27階層より下はまだ何も分かっていないのでしょう? べリアたちが28階層や29階層にいるという可能性はあるの?」
「分かりません、陛下。べリアほどの実力があれば、少しぐらいの階層は突破できそうなものなのですが……」
「そうなの……」
レヴィアは見るからにがっかりしている。
「仲間の面倒を見ていて動けないという可能性もあるだろ。望みを捨てるな」
「そうなのね。頑張るの!」
「ああ。頑張っていこう」
こうしてアガレスへの報告を終えて、久隆たちはフルフルたちと合流することになった。だが、何やら騒がしい。
「ま、負けた」
「どうです。女だからと言って油断してはなりませんよ」
どうやらサクラが魔族と格闘戦を行っていたようだ。地面には組み伏せられた魔族が呻き声を上げていた。
「次は?」
「サクラ。そろそろ戻るぞ」
「ああ。そうですか。では、また今度」
サクラが手を振ると魔族たちが頭を下げる。
「喧嘩でも売られたのか?」
「いいえ。実戦に使える格闘術の教練を。格闘術にはそれなりに自信がありますからね。まだまだ負けませんよ」
「陸軍から来た格闘徽章持ちをボコボコにしたものな」
「その後で向こうの教官が来てやり返されましたけれどね」
「陸軍には陸軍の意地があるんだろう」
サクラは狙撃手選抜課程の他に様々なスキルを取得している。軍縮の進む日本において下士官から叩き上げで准士官になるには、それ相応の努力をしなければならない。スキルを磨くことはそのひとつだし、ペーパーテストに合格することも必要になる。
それらをこなしてきたからこそ、久隆はサクラを信頼しているのだ。
そんな叩き上げの准士官ほど前線において頼もしいものはない。
「対ゴブリン、対重装オーク戦。どう評価する?」
「モンスターハウスは仕方ありませんが、可能ならば相手が別行動中に各個撃破するのが得策でしょうね。それからゴブリンシャーマンとゴブリンロードを先手必勝で潰す。ゴブリンたちはあのふたつの魔物を失うと混乱する様子を見せます。攻撃のチャンスです」
「同意見だ。だが、俺たちは別行動をするには規模が小さい。その点、どうする?」
「私、マルコシアさん、フォルネウスさんのチームと久隆さん、レヴィアちゃん、フルフルさんのチームでも十分に機能しますよ。重装オークは確かにフルフルさんの支援があった方が楽に戦えますけれど、必須ではありません。マルコシアさんの爆発の魔法で顔面を吹き飛ばし、フォルネウスさんと私で顔面を狙撃すれば、十分倒せます」
「なるほど。次からチームを分けて運用することも考えるべきだな」
久隆はサクラの意見に頷いた。
「後で戦闘報告書を作成する。よかったら手伝ってくれ」
「それぐらいでしたら」
こうして久隆たちはダンジョンの20階層から地上を目指した。
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