激戦の末に
本日1回目の更新です。
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──激戦の末に
「レヴィアはフォルネウスの位置を見て魔法を。俺は突っ込む。フルフルは敵の防御力を低下させる魔法を」
「了解しました」
フルフルが頷き、杖を握る。
「『我が敵の守りを蝕み、錆びつかせよ!』」
「よし。フォルネウス! 距離を取れ! レヴィアが魔法を叩き込む!」
久隆がそう告げてレヴィアと久隆が廊下の角から飛び出る。
「あれが重装オークか。数は8体。4体は仕留めてるな。残りを蹴散らすぞ」
「『降り注げ、氷の槍!』」
レヴィアの魔法はフルフルの付呪で脆くなった重装オークの鎧を貫き、重装オークたちにダメージを負わせていった。
そして、重装オークのうち4体が久隆たちの方に向かってくる。
「動きはそのまま。防御力だけ上げたか。だが、果たして」
鎧ジャイアントオーガのように動きは鈍っていない。それもそうだろう。ジャイアントオーガを覆わなければならない鎧の量とそれより小さなオークを覆わなければならない鎧の量は明確に違う。戦車の小型化で装甲をそのままに重量を削減したのと同じこと。
しかしながら、その前提として筋肉の出力が必要になるが、どうやら重装オークは鎧だけではなく、中身も強化されているらしい。
しかし、その鎧はフルフルの付呪によってほぼ無力化されている。レヴィアの魔法が貫通したところからも、重装オーガの鎧と比べて脆いらしい。
これならばやれる。久隆はそう判断した。
久隆は重装オークが振り回すハルバードを足で蹴り飛ばし、重装オークが怯んだ隙に懐に飛び込んで斧で重装オークの首を刎ねる。重装オークの首は鎧で守られていたが、フルフルの付呪が効いている。オークの首が宙を舞い、地面に落ちる。
すぐさま久隆は次の攻撃に入る。重装オーガの振り下ろすハルバードを斧で受け止めて、弾き飛ばす。そして、体勢の崩れたオークの腎臓を狙った一撃。鎧は脆くも崩れ、腎臓に攻撃が命中した。オークは悲鳴を上げて地面に倒れる。
今度は2体同時攻撃。
しかし、久隆は既に自分にできることとできないことの判別がついている。
つまりは重装オークが思いっきり振り下ろしたハルバードでも手で受け止められるということ。軍隊時代から愛用しているアラミド繊維の手袋がハルバードの刃をしっかりと掴み、重装オークたちが動揺する。
久隆はそのまま2体の重装オークからハルバードを奪い取ると、くるりと空中で刃の向きを変え、そのハルバードを使って2体の重装オークの首を刎ね飛ばした。
「クリア」
「こっちもです」
サクラたちの方に回っていた4体の重装オークも殲滅されていた。
「他に魔物の動きはない。クリアだ。地図を作製したらいよいよ27階層だぞ」
「27階層。今の我々で大丈夫なんでしょうか……?」
フルフルが不安そうに尋ねる。
「確かに不安はある。ゴブリンが面倒だ。重装オーガもフルフルの付呪がなければ倒せない。だが、こうも考えられる。こちらの火力を全部出しきって、相手を叩くということだ。これまでは隠密に徹していたからできなかったが、今度は最初から全火力を相手に叩き込める。その効果は絶大なはずだ」
フルフルの付呪があればゴブリン長弓兵はほぼ無力化できるし、マルコシアの火力も上がる。久隆、フォルネウス、サクラの身体能力もブーストされ、その相乗効果で戦力は何倍にも跳ね上がる。
サクラは狙撃に専念し、レヴィアは広範囲攻撃魔法に集中し、久隆たちは前線を支える。フルフルは適時付呪によって支援を行う。
勝てないことはないはずだ。
「増援を呼ぶのはどうなの? 20階層から戦力を借りれない?」
「地図を見させてもらったが、この狭さでは大勢が展開しても、火力を十分に発揮できない。狭い通路と狭い小部屋で構成されたダンジョンで、モンスターハウスがこれまでそうであったように狭い」
久隆は地面に偵察部隊から受け取ったモンスターハウスの現在分かっている限りの地図を示す。中央に小さな小部屋が4つあり、それを狭い廊下が繋いでいる。ここに大兵力を展開させることは無理だと言っていい。しかも、ダンジョンの道は一本道で迂回することや、別動隊を回す余裕もない。
まさにダンジョンコアがこれを考えたのであれば、悪意しかない設計だ。
しかしながら、この構造はモンスターハウスの長所をある意味では潰している。狭い構造故に大規模な魔物の集団がいても、攻撃を同時に仕掛けられるのは限られるのだ。数で劣っている側が地形を利用して勝利することがあるが、まさにそれができる構造になっているのである。
敵の波状攻撃にさえ耐え抜けば、体力と魔力の続く限り、魔物を倒し続けるだけだ。
「27階層攻略に当たって陣形を変える。俺とフォルネウスは先頭。サクラがそのすぐ背後、幾分か距離をおいてレヴィア、フルフル、マルコシア。この陣形で行く」
今回は敵が背後から回ってくることはない。
全戦力を正面に集中させ、遠距離火力担当は敵の遠距離火力を浴びない位置に配置。サクラは適時前線付近で重要目標を狙撃して敵戦力を削る。
「フルフル。俺たちは今回は戦闘に集中して満足な指示が出せないかもしれない。自分で考えて行動する必要がある。できるか?」
「やります……!」
フルフルは力強く頷いて返した。
「よし。決まりだ。27階層はとにかく戦い続けることになる。今から15分の小休止を挟むから心落ち着かせ、体を休ませろ。恐らくはかなり際どい戦闘になるぞ」
久隆はそう告げてマットを敷き、レヴィアたちはその上で持ってきた麦茶とチョコレートで休憩を始めた。レヴィアはフルフルに膝枕してもらって横になり、マルコシアは壁に背を預けて楽な姿勢を取っている。
フォルネウスとサクラは武器の手入れ。特にサクラはコンパウンドボウの調節を念入りに行っている。あれが壊れた場合、的確にゴブリンシャーマンやゴブリンロードを潰す手段はなくなってしまうので責任重大だ。
久隆はただひたすら27階層での戦いを頭の中でシミュレーションしていた。
どの程度の規模の敵が押し寄せ、どの程度なら同時に捌き切れるのか。レヴィアたちの魔術が行使される際にはどの程度距離を取るべきか。ゴブリン長弓兵が矢を浴びせてきた時にはどうするか。ゴブリンシャーマンの魔法はどう躱すか。
あらゆる状況をシミュレーションする。
現実とは想定しておいたことのひとつ上をいく悲惨さでやってくる。可能な限りの最悪を想定するのが指揮官の仕事だ。悲観的に準備し、楽観的に運用せよ。危機管理でも言われる言葉である。
最悪を想定するならば自分の死も考えておくべきだろう。
久隆はフルフルにいざとなったらレヴィアを連れてアガレスのところまで逃げろと改めて命令しようとして止めた。今のフルフルなら命じなくともやってくれるし、指揮官は最悪を想定して準備するが、それを兵士たちに伝えて不安がらせてはならない。
もう既に27階層の危険性は分かっている。これ以上不安を煽る必要はない。
必ず勝利する。
久隆はそう決めて麦茶で喉を潤した。
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