26階層、新しい戦術
本日2回目の更新です。
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──26階層、新しい戦術
隠密行動にかけてはこの久隆とサクラにレヴィアたちは及ばない。それはそうだ。彼らは何万回というVRトレーニングと実地での訓練、そして数多の実戦を経験しているのだから。前に語ったように久隆は軍用ナイフ一振りで敵1個小隊を壊滅させている。
東南アジアを荒らしまわった民兵たちが日本海軍特別陸戦隊を恐れたのも当然だ。彼らは銃すら使わずに、殺し回っていたのだ。だからこそ、民兵集団における幹部たちは厳重に警護されていた。
そして、その警備すら久隆たちは誰にも気づかれることなく突破し、獲物を仕留めた。民兵たちはこの幽霊のような集団に恐れをなしていた。『夜になったらひとりで行動するな。ブギーマンに殺されるぞ』と。
「残りゴブリン長弓兵2体」
「一気に仕掛けますか?」
「そうするべきかもしれん。連中も流石にそろそろ気づくだろう」
フォルネウスが尋ねるのに久隆がそう告げる。
「サクラ。ゴブリンロードを仕留めろ。俺とフォルネウスはゴブリン長弓兵とゴブリンシャーマンを仕留める」
「了解」
まだレヴィアたちの魔法は使えない。魔法を使えば敵に気づかれる。使えるのはフルフルの付呪だけだ。
「3カウント」
3──2──1──。
「今だ」
久隆たちは静かに、だが素早く動いてゴブリンロードたちに襲い掛かる。
サクラの放った矢がゴブリンロードの頭を貫き、即死させる。
久隆がまずはゴブリン長弓兵の頭を斧で潰し、振り返ったゴブリンシャーマンの顔面に軍用ナイフを投げつけた。ゴブリン長弓兵もゴブリンシャーマンも即死だ。
フォルネウスは背後から短剣でゴブリン長弓兵の首を貫き、これも即死させた。
「一先ずは片付いた。気づかれた様子もない。残りのゴブリンたちを仕留めていこう」
久隆はゴブリンもオークたちもこちらに向かってきていないことを確認すると、次のゴブリンのグループに向けて進んだ。
ダンジョンでの隠密行動は大変だ。狭くて隠れられる遮蔽物はない。廊下の向こうからひょいとオークが顔を出せばすぐに発見される。
ゴブリンについても小グループが絶えず移動を繰り返しているため、発見されないように行動するのは難しい。1、2名のゴブリンならば軽く片付けられるが、3、4名となると難易度が上昇するのだ。
ゴブリンの小グループは少しずつ誘き出したり、背後から仕留めたりして、数を減らしていく。ゴブリンたちはまだダンジョンの侵入者に気づいていないために、あっさりと殺されていく。だが、油断はできない。
「ゴブリンシャーマンを視認。ゴブリン長弓兵が4体とゴブリンシャーマンが1体」
「静かに片付けるのは厳しそうですが」
「そうだな。しかし、まだもう1グループ残っている。隠密は維持したい」
ゴブリン長弓兵を久隆が2体始末できるとしてフォルネウスがもう1体、サクラがゴブリンシャーマンを仕留めるとなると、1体が余る。
ここは自分がどうにかするしかないかと久隆は唸った。
「下手に注意を引くと一斉に相手をする羽目になるかもしれない。難しいかもしれないが、俺が3体仕留める。サクラはゴブリンシャーマン、フォルネウスは右端のゴブリン長弓兵を、それぞれ仕留めろ」
「了解」
久隆は脳内で自分がどう行動するべきかをシミュレーションする。いつ攻撃を仕掛け、いつ次の武器を抜き、いつ次の攻撃に移るのか。念入りに脳内でシミュレーションする。そして、その瞬間に備える。
「3カウント」
3──2──1──。
久隆とサクラが適切な緊張状態を維持する中、レヴィアたちはかなり緊張していた。
「今だ」
久隆たちは素早くゴブリンたちに襲い掛かる。
久隆とフォルネウスが同時に2体のゴブリンを倒し、サクラが振り返ったゴブリンシャーマンを相手に矢を放つ。矢は眼球を貫き、ゴブリンシャーマンを即死させた。
久隆は続いて同じように振り返ったゴブリン長弓兵に軍用ナイフを投げつける。ナイフが頭部に刺さり、ゴブリン長弓兵が倒れる。
そして、3体目のゴブリンに向けて予備の斧を──。
次の瞬間、ゴブリン長弓兵が吠え、矢を放った。
矢は久隆を掠めもしなかったが壁に命中し、ダンジョンに響き渡る音を発した。
「畜生」
久隆は予備の斧を投擲してゴブリン長弓兵を黙らせたが遅かった。
魔物たちが一斉に音のした方向に向けて進んでくるのが分かる。
「フルフル! 全員にそれぞれ身体能力と魔法をブーストする付呪を! これからは別行動だ! マルコシア、フォルネウス! サクラの指示でオークを撃破してこい!」
「分かりました! 『このものに戦神の加護を。力を与えたまえ。戦士に力を!』『賢きものよ、より多くの叡智を極め、力を得よ。賢者に力を!』」
フルフルが全員に付呪をかける。
「いいか。死ぬなよ」
「了解です」
サクラは軍歴も戦歴も長いベテランの准士官だ。引き際を間違うようなことはないだろう。引き際を見極められない指揮官は多大な犠牲を出し、作戦にも失敗する。その点は久隆の言う前線指揮官の適性がある『有能な怠け者』の力の見せどころだ。
「俺たちは一刻も早くゴブリンを全滅させて、マルコシアたちに合流する」
「任せるの!」
「よし、行くぞ」
久隆たちは隠密を放棄し、なるべく急いで敵へと向かう。
「ゴブリン長弓兵8体、視認。まっしぐらにこっちに向かってきている。迅速に片付ける。レヴィア、魔法を頼む」
「了解なの」
レヴィアは久隆と同時に廊下から飛び出す。
「『吹き荒れろ、氷の嵐!』」
暴風と氷がゴブリンたちの周囲で吹き荒れ、ゴブリンたちの視野が奪われ、同時にゴブリンの長弓も意味をなさなくなる。
そこに久隆が斬り込む。
ゴブリン長弓兵たちはほぼ強化されたレヴィアの魔法で戦闘力を失っている。だが、完全に戦力として消滅したわけではない。嵐が止むと同時に久隆に向けて矢が放たれる。
久隆はそれを空中で叩き落とし、ゴブリン長弓兵の生き残りたちを仕留めていく。
「ゴブリンシャーマンなの!」
「『そのものに魔法使いの加護を、その身を悪意ある魔の力から守りたまえ!』」
レヴィアの叫びと同時にフルフルが詠唱し、ゴブリンシャーマンの杖の先から放たれた氷の刃が久隆の手前ではじけ飛ぶ。
「上出来だ、フルフル。感謝する」
久隆はそう呟くとゴブリンシャーマンの頭を叩き潰した。
「よし。マルコシアたちの援護に向かうぞ! ゴブリンはこれで乱入できない! 残りの重装オークを倒したら、終わりだ!」
「了解なの!」
久隆たちは戦闘音が響いているダンジョン内の一画に急ぐ。
「『爆散せよ、炎の花!』」
「はああああっ!」
既に激しい戦闘が行われているのが分かる。
「久隆だ! 反対側から合流する! 誤射に注意してくれ!」
「了解!」
久隆が廊下の曲がり角から叫ぶのにサクラが答え返してきた。
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